42話
「サルーンの街にはギルドの他に武器防具を扱う武具屋。それと傷を治すポーションや魔力を回復させるマジックポーション、毒を治す毒消しや野営用のテント等の生活用品を取扱う道具屋があります。後は…凛殿にとっては物足りないかも知れませんが、肉屋や八百屋、食事を提供する食事処や宿屋が何ヵ所かある位でしょうか。」
「成程…。」
凛と美羽はアルフォンスから説明を受けながら、街の中を案内して貰っていた。
「(僕は今回、商品を買わずに見てるだけだからね。店側からしたら冷やかしと言う風に思われてるんだろうな。)」
凛はアルフォンスが案内する建物に入っては、武器や道具等が並んでいる様子や商品や客の反応を見ては何も購入せずに出ていた為、店主からの視線に内心苦笑いを浮かべながらそんな事を考えていた。
「…ひとまず、奴隷商以外での案内は以上となります。」
「ありがとうございます。失礼だとは思うのですが、僕が思っているよりも全体的に質が宜しくないと言いますか…。」
「ここサルーンは王国の中で最も辺境ですし、すぐ近くに死滅の森がありますからね。王国では最も不人気な街になるんですよ。とは言え長が昔、王都で金級冒険者をやっていたと言う功績やカリスマ性で、この街も少しづつ良くなってはいるのですけどね。」
凛は冒険者ギルドの前でアルフォンスから説明を受けてお礼を言うも、武具屋や八百屋に並んでいた鉄や野菜等の品質が良くない事を言いにくそうにしていた。
これにアルフォンスは苦笑いを浮かべた後、肩を竦めながら説明を行う。
「この街から隣の村までは少し離れている影響で鉄等の素材や野菜が集まりにくいのと、街の近くにいる魔物も大体が鉄級の強さですからね。どうしても手に入る魔物の素材の質が低くなりがちなんですよ。」
「そうなんですね…。」
「はい。ですので、凛殿から頂いたクッキーはこの辺ではまず見ない位、非常に貴重な物となります…。」
「あ、そう言えばですが、ガイウスさんとの交渉の結果お店を出す事になりました。そのお店では先日渡したクッキーと同じ様なのを商品として並べる予定ですよ。」
「本当ですか!?仕事終わってから妻へ報告させて頂きますね。いやー、これからが楽しみだなぁ!」
その後も凛とアルフォンスは神妙な面持ちで会話を行うも、凛が思い出した様にして伝えると、アルフォンスは非常に喜んだ様子を見せていた。
「さて、ここからが今回の目的地である奴隷商となります。」
「先程アルフォンスさんが冒険者ギルドの前で立ち止まった事を不思議に思いましたが、割と近くに奴隷商があったからなんですね。」
「ええ。奴隷商が冒険者ギルドの裏手にある事であまり目立たないのはありますね。…では入りましょうか。」
「お願いします。」
凛はサルーンについて特に調べたりと言った行為を行っていなかった為、アルフォンスが地下へ続く階段の前で伝えられた事に少しだけ驚いた様子を見せる。
そしてアルフォンスに促されて一緒に階段を降り、木造の扉の先にある奴隷商の中へと入る。
「マーサさん、こんにちは。」
「これはアルフォンス様。本日はどう言ったご用件でしょうか?」
アルフォンスは中に入ってすぐの所にあるカウンターにいた女性ことマーサに声を掛けるのだが、マーサはガイウスと一緒にいる事でアルフォンスと面識があったのか、立ち上がってお辞儀を行った後に用件を伺っていた。
マーサの年の頃は30代半ば頃。
身長170センチ位で背中まで伸ばした赤茶色の髪型をしている。
「今日は後ろにいる凛殿がお客様でして、こちらにいる奴隷を見てみたいと仰いましてね。僕はその案内役で来ただけなんですよ。」
「そうなのですね。初めまして、私はここの奴隷商を仕切らせて頂いております、マーサと申します。」
「こちらこそ初めまして、僕は凛と言います。早速で申し訳ないのですが、こちらで取り扱っている奴隷を見せて頂いても宜しいでしょうか?」
「勿論です、ご案内致しますね。」
アルフォンスが凛を右手で指し示しながら説明を行い、マーサと凛は互いに自己紹介をしてから歩き始める事に。
凛は奴隷商へ続く階段を降っている間にサーチを使い、マーサ以外で奴隷商にいるのが12人だと分かっており、奴隷商が扱っている奴隷が人間だけでないと言う事も分かっていた。
奴隷は犯罪を犯した者や身寄りがいなくなった者や面倒を見れなくなった者、そして野盗に襲われた事で傷を負い売られた者や村が貧しくて間引く為に売られた者と奴隷になる理由は様々だった。
凛はマーサから奴隷の説明を受ける前に、ナビからの勧めでサーチのマーカーとして表示される赤色…つまり害意を持つ者に、こちらに対して取り入ろうとする者や利用しようとする者の情報を追加する事にした。
するとここにいる奴隷の半数の表示された色が、それまで無関心の筈の白から赤色へと変わった。
凛は赤で表示される様になった事で内心驚いた後、マーサから奴隷になった経緯の説明を聞いてから檻の向こうで色々とアピールを受けていた。
しかし赤で表示された者達が何を言っても凛の心に全く響かなかった為、凛はその奴隷達を見送る事にした。
その後、凛は12人中11人の紹介を終え、4人の人間の男女を買う事を決める。
「…これで奴隷についての説明は以上となります。」
「マーサさん、紹介していない方がもう1人いるのではないですか?」
「何故それを…はぁ、分かりました。ご案内致します。」
マーサはこれで終わらせようとしたものの、凛から尋ねられた事で少し迷う素振りを見せた。
しかし真っ直ぐ見続ける凛に根負けし、溜め息交じりで少し離れた場所へ移動し始める。
凛が購入予定の4人はそのまま檻の中に残した状態で歩いていると、途中から先程までと違いあまり衛生的でないのかキツイ臭いがして来た為、(凛と美羽は呼吸が不要な事もあり)アルフォンスだけが眉をしかめていた。
「…ここです。」
「………。」
マーサにそう言われて凛が檻の向こうを見ると、壁に背を凭れながら座る、少し斜め下へ顔を向けた犬の様な耳と尻尾を持った女の子がいた。
その女の子は18歳位の見た目でくすんだ黄色の髪を肩までの長さの髪型をしており、生気がなく涎を垂らしながらボーッとした表情を浮かべている。
そして薄汚れた白いワンピースの様な物を身に纏い、無造作に足を投げ出しているのだった。