426話
「…フレイムスピア!」
ボォォッ
ハンナは3秒程詠唱を行った後に炎系中級魔法フレイムスピアを右手に持っている大杖から放ち、前方にいたデスグリズリーを胸部分を貫いて倒した。
「…詠唱時間が昔よりも更に短くなっている、か。冒険者組合総長になってからも腕は衰えていないみたいだね。」
「ふん。私はこれでも冒険者組合総長、ギルドの頂点の1人なのよ?これ位出来て当然…と言いたい所だけど、クラーク。貴方の方は衰えたみたいね」
ゴーガンが少し感心した様に話すのだが、ハンナは花を鳴らして当然とばかりに答えた後、少し離れた位置にいた帝国の冒険者組合総長ことクラークへがっかりした様子で話し掛ける。
ハンナは中級魔法とは言え、通常の半分以下の時間で詠唱を終えて魔法を発動していた。
そしてハンナの視線の先にいるクラークは50代後半で大柄な体型をしており、持参した大剣でデスグリズリーを斬り伏せた所だった。
因みに、今回はゴーガンがギルドマスター繋がりと言う事で、凛達には自分がハンナとクラークの相手をすると伝えている。
凛達は了承し、今回は極力見るだけに徹して貰う事となった。
「…おかげさまで最近は人も書類仕事も増える一方でな。そっちにばかり意識を向けさせられて碌に体を動かす時間が取れないんだよ。」
「あら?それは私に対する嫌味かしら?喧嘩なら買うわよ。」
「どうしてそうなる…。」
クラークは大剣を左肩に担ぎながら疲れた表情で話し、ハンナが物騒な事を言い始めた事でがっくりと項垂れ、ゴーガンもこれには苦笑いを浮かべていた。
先程凛はハンナ達を迎えに行きがてら王都→帝都→獣国王都→商都→第1領地の順番で移動したのだが、王都は今回立ち寄らなかった聖都以外の首都の中で最も不人気だと言う事が分かった。
王都は獣人はお断りな上に亜人も実績がないと入れない一方、帝都は以前なら獣人は迫害対象だったが今は自由に入れ、獣国王都は種族を問わず一般人を対象とした店が多い。
その為、当然とばかりにその様な結果となったのだが、亜人や獣人が嫌いなハンナは全く理解しようとしなかったりする。
その後もハンナは炎、水、土魔法を用いて、クラークも持参した大剣で斬り伏せながら金級の魔物達を倒して行った。
「おいおい…。仮にも人が住んでる近くだってのに、こんな所にこいつらがいちゃいかんだろう。」
「…そうね。その意見は全面的に同意するわ。」
そんな中、クラークとハンナの前に、魔銀級中位の強さを持つ森林龍が2体現れた。
2人がかりでどちらか1体ならまだしも、基本的に土属性に高い適性を持つ事で物理・魔法共に高い攻撃力や防御力を持ち、なおかつ気性が荒い森林龍を1人1体づつともなると流石に分が悪いと感じた様だ。
2人は揃って冷や汗を流し、互いに引き攣った表情で話していた。
それから2人はそれぞれ10分程森林龍の相手を行うのだが、はっきり言えばかなり分が悪かった。
ハンナは森林龍に対し、炎系上級魔法エクスプロージョン、直径2メートル程の大きさの雹を空中から落とす氷系上級魔法ヘイルストライク、土系上級魔法ボルダーストライク等を放つ。
しかし全てが強化された鱗によって砕かれただけであまり効いた様子を見せてはおらず、クラークの攻撃もその悉くが弾かれていた。
凛と最初に対峙した森林龍や梓は土の適性が低い事もあって物理攻撃を主とした攻撃を行っていたが、垰の様に攻撃に土属性を付与したり、反対に守りに土属性を付与する事で防御力を上げたりするのが一般的となる。
その為、ハンナやクラークの攻撃を受ける時は防御力を上げて防ぎ、攻撃の際には前足を上げて地面を踏みつけた後、周辺に刺の様に尖った岩を隆起させる事で2人の体力を消耗させていた。
「はぁ…全く。だから私はこんな危険な所に冒険者を送るのは嫌だって言ったのよ。」
「はぁ、はぁ、はぁ…。今は、そんな事を、言っている場合では、ないと思うんだが…。」
「分かってるわよ!とは言え、これだけ攻撃を加えているのにあまり効いてる様子はないか。参ったわね…。」
ハンナは溜め息混じりに嫌そうな表情で話し、クラークが困った様子で返すのだが、クラークは最近デスクワークだった事や歳のせいかかなり辛そうだ。
そしてハンナは叫んだ後にうんざりとした様子で話すのだが、そこへゴーガンがふらっと歩いて来ただけでなく、そのまま2人の前に立つ。
「ちょっとゴーガン!?貴方何やってるのよ!危険だから下がりなさい!!」
「…なに、僕なら大丈夫だよ。」
ハンナはゴーガンの頭が狂ったとでも思ったのか、かなり驚いた様子で叫んだ。
しかしゴーガンは穏やかな笑みを浮かべながら返事を行うのだが、森林龍の1体がゴーガンの余裕そうな表情を見て頭に来た様だ。
いきなり走り出した後、真っ直ぐゴーガンへ向けて突っ込んで来た。
「ぬぅぅぅぅぅぅん…!大・岩・ざぁぁぁんっっ!!」
ゴーガンは自身に突っ込んで来る森林龍の事を他所に、凛から与えて貰った(猛の豪に似たデザインの)烈も含めて身体強化を行いながら思いっきり振りかぶり、森林龍の頭目掛けて必殺技である大岩斬を放つ。
ザンッッ…ズズゥゥゥゥン
「「はぁぁぁぁぁああっ!?」」
すると森林龍の体を真っ直ぐ衝撃波が伝わって行き、そのまま左右へ真っ二つになる形で倒れていった。
その光景を見たハンナとクラークは今日1番の驚いた表情となり、とても信じられないとばかりに大声で叫ぶのだった。