425話
午前8時頃
凛はゴーガン、王国と帝国の冒険者組合総長、ライアン、マリア、アレックス、ユリウスと共に。
美羽はガイウス、獣国と商国の冒険者組合総長、ステラ、ティナ、ナル、リアム、それと獣国の魔銀級冒険者で隼の獣人であるアマルガンと共に、死滅の森中層にある第1001領地と第1002領地から森の散策を開始する事に。
しかし第1001、第1002領地と言っても、凛が既に1000もの領地を用意している訳ではない。
これは第20領地以降、新たに拓いている領地までの間隔がそれまでの20キロから50キロへ伸ばした事で、仮に表層を領地で埋め尽くしたとても1000には届かないとし、キリの良い数字として付けられた。
今回、凛が転移門を解放した事で世界の行き来が容易になったのだが、大体の者が商都やサルーン、そして第1領地に集まる様になった。
凛は昨日から新たに転移門の行き先として、帝国のジラルドや神聖国のドネグ湿原跡にインフラを整備したドネグ、同じくインフラ整備済みで王国にあるフーリガンを追加した。
他にも一応ドルイクレア渓谷や(中心部には近寄らないと言う条件付きで)キソース砂漠も転移先に追加する事にしたのだが、人々の関心はカジノ込みでほとんどの買い物や食事が済ませられる商都や、指南役がいる事で強くなったり多岐に渡ってリーズナブルなサルーンや第1領地、そしてサルーンや第1領地を介して死滅の森へ一攫千金を求めに挑む者達が日を追う毎に増えていった。
それに加え、各領地内にある少し小さめの転移門から全ての領地への移動が可能と言う事もあり、現在は表層にある40の領地、中層にある10の領地の宿泊施設が全て埋まっている状態となっている。
それが影響したのか、各国…と言っても王国の冒険者組合総長だけだが、冒険者ギルドの宝である冒険者が減って行く一方だと1人で騒いだのが切欠となり、冒険者達にとって死滅の森は危険過ぎるのではないかと言う名目で視察を行う事となった。
そして他の3ヵ国の冒険者組合総長は巻き込まれる形で参加させられたのだが、王国側が言い出しっぺだからなのか、隣同士である王国と帝国の冒険者組合総長、商国と獣国の冒険者組合総長で組んで行動しましょうと勝手に決めた。
しかし王国の冒険者組合総長は極度の亜人獣人が嫌いだからとしてそれなりに有名な為か、獣国の冒険者組合総長は王国の冒険者組合総長の事を白い目で見ており、帝国と商国の冒険者組合総長以外達は呆れた表情で、凛達は苦笑いの表情を浮かべながら2つのグループに分かれる事となる。
「はぁ…ハンナ。君は冒険者組合総長になっても、相変わらず自分の事しか考えてないんだね。」
「うるさいわよ。と言うかゴーガン、冒険者組合総長が自分の国の冒険者の事を想って何が悪いのよ!大体貴方もねぇ…。」
「分かった、分かったから!今日は検証をしに来たんだろう?早く始めるに越した事はないんじゃないかな。」
「…そうね。それじゃ始めましょうか。」
「はぁ。(先が思いやられるなぁ)」
王国と帝国の冒険者組合総長がマリアの変わりっぷりに驚愕した後、ゴーガンはいかにも魔法使いと言わんばかりの格好をした王国の冒険者組合総長…ハンナに溜め息混じりで話し掛けると、ハンナはまくし立てる様にして返事を返した。
これにゴーガンは降参とばかりにハンナを宥め、ハンナは考えを切り替えたのか、体の向きを森の方に変えて歩き出す。
ゴーガンはハンナの後ろ姿を見ながら溜め息をつき、これから先が不安でいっぱいなのかその様な事を考えていた。
ハンナはゴーガンとガイウスが昔一緒に組んでいたパーティーメンバーで、気が強過ぎる余り解散する原因ともなった人物だ。
ハンナは5年程前に王都の冒険者ギルドマスターを3年程経て冒険者組合総長となるのだが、その気の強さから常に王都にある冒険者ギルド本部はピリピリとしていたりする。
『………。』
ライアンと帝国の冒険者組合総長はたまにハンナと会う事があった為、揃って何とも言えない表情となっていたが、残る凛達は2人のやり取りを見て呆然とした様子となるのだった。