420話
ユルルングルは壁に当たってもそれほどダメージがなかったのか、頭を壁の上へ動かした後に美羽達の様子を見ていた。
シャシャシャ…グサッグサッグサッ…
「鳥さん!刺さった箇所に攻撃をお願い!」
「(鳥さん…)分かった。」
美羽はユルルングルが壁に激突している間にシールドソードビットを展開しており、ユルルングルがこちらを見ている間にシールドソードビットを動かして体の数ヵ所へ突き刺す。
そして黄色い鳥の方を向いて促しながら叫んだ事で鳥はそれに応え、ユルルングルに強力な落雷を浴びせた。
後、鳥は今の状態以外にも形を変える事が出来るのだが、さりげなく美羽から鳥呼ばわりされた事で精神的にダメージを負っていたりする。
ユルルングルは落雷を浴びた事で美羽が刺したシールドソードビット越しに内側へダメージを受け、内臓を損傷したのか口元には血の跡があり、先程までと比べて動きが少し鈍っていた。
しかし代わりに怒らせてしまったらしく、先程までと比べて動きが大きく激しいものとなり、執拗に妖精達や楓達をして狙う様になる。
その度に楓が土の壁を生成したり防護壁を展開する等して攻撃を防ぎ、鳥が雷の攻撃を行う度にはダメージを負っていく。
「くっ…。私じゃこれだけ弱っていても、決定打どころか傷すら負わせられないのか。」
「それじゃさ、あたしが貴方に魔力を送るから、それを使って攻撃してみて。」
「お前の魔力を?…分かった。」
女性もユルルングルに攻撃を仕掛けるのだが、動きが鈍くなった今でもダメージがほとんど入っていない事に苛立った様子を見せる。
それを女性の近くへ移動していた翡翠が拾い、女性は不満げな表情で話した。
「…何だこれは!物凄い力が流れ込んで来る!」
「…そろそろかな。藍火ちゃん!蛇さんをあたし達の横へ通す感じで吹き飛ばして!」
「分かったっす!」
翡翠は右手を女性の左手と繋ぐ形で魔力を送り、女性は自分の力を軽く凌駕する魔力を送られて来た事で驚きの声を上げる。
しかし翡翠は驚いている女性を他所に、楓の傍で控えている藍火に指示を出し、藍火はそれに応える形で素早く移動を始める。
タッタッタッ、タンッ
「はっ!」
バキィッ
「今だよ!全ての魔力を使って攻撃をお願い!」
「分かった!行けぇぇぇぇぇっ!」
藍火からユルルングルまでは100メートル程距離があるのだが、藍火は走り出してすぐに跳躍した後、何回か天歩を用いる事で足場を形成しながら空中を駆け上がって行く。
やがて藍火はユルルングルの頭のすぐ横へ移動を終えたのか、気合いの入った声と共にユルルングルを翡翠達がいる方向へと蹴り飛ばした。
ユルルングルは翡翠達のすぐ横を通り過ぎようとした所へ翡翠が合図を行い、女性は叫びながらありったけの魔力を用いて幅5メートル程の大きな風の刃を放つ。
その風の刃はユルルングルの頭から少し下の位置へ命中し、そのまま首を切断してからも真っ直ぐ飛び続け、そのまま竜巻へ吸収される様にして消えて行った。
1分後
「「………。」」
「もしもーし、戦闘は終わったみたいだよー。」
「…!す、すまない。」
「ほら、鳥さんも。」
「あ、ああ…。」
ユルルングルはしばらく暴れていたものの、今は完全に動かなくなっていた。
そこを(サーチで討伐済みだと確認した)翡翠と美羽に声を掛けられた事で女性と鳥ははっとなり、それぞれ美羽達に返事を行う。
女性はユルルングルに深手を負わせたら儲けもののつもりが、思った以上に強力な攻撃を行っただけでなくそのまま止めを刺してしまった。
それに加え、女性も鳥も揃ってあそこまでの大きな風の刃を放った事がなかった為、揃って呆然としていた。
「先程は余裕がなかったからとは言え、追い出す様な言動を取ってしまい、本当に申し訳ありませんでした。」
「私もです。あの魔物が近付いて来ていると分かり、貴方方程の存在に気付けない位、視野が狭くなっていた様です。…面目ありません。」
「いえいえ。結果的に妖精さん達を守る事が出来て良かったよ。あの蛇の魔物が妖精さん達を食べようとしたとかかな?あ、喋り方はさっきまでと同じで大丈夫だよ♪」
「あ、ああ…。他の魔物達は大体大丈夫だが、あの魔物を含めた数体は妖精達に触れる事が出来る様だ。それだけなら良いのだが、どうやら奴らは妖精の事を美味しい餌だとでも認識しているのか、何体も被害に遭っているんだ…。」
「だから私が竜巻を起こし、多少だがあの魔物を入りにくくする一方で…。」
「私が上空から魔物の動きを観察していたと言う訳だ。」
「成程…。」
女性と鳥は申し訳なさそうにしながら話し、美羽は笑顔で答える。
そして美羽は2体に向けて尋ね、2体がそれぞれ返事を返した事で納得の表情を浮かべるのだった。