41話
「(こほん)えっと…それでなんですが、僕は今の場所から死滅の森の中へ住む場所を変え、この街で商売を始めても宜しいでしょうか?」
「そうだな、どちらも許可しよう。商売に関してだが、サルーン以外の街や村等にも販売する予定はあるか?」
「いえ、今の所全く考えてません。…と言うか、そこまで手が回らないんですよ。するとしたら僕達が落ち着いてからで、これらがある程度世界中に浸透してからになるかと。」
「そうか。それなら凛殿を代表とする、この街で販売する許可証を作成しよう。商業ギルド等が何か言ってきたら、それを見せれば良い。」
「ありがとうございます。」
凛は恥ずかしさを誤魔化す様にして咳払いを行った後、ガイウスと話をした事で両方の許可が下りた為、お礼を言ってお辞儀を行う。
「販売で得たお金の何割かは、土地代って事でそちらにお渡ししようと思ってるのですが…どうしましょうか?」
「これらは、凛殿の魔力を消費して出された物だろう?それに凛殿にしか用意出来ないのだ、こちらとしては1割でも充分なのだが…。」
「それじゃ2割で。以前渡した魔石と同じ物が結構貯まってまして、魔力を消費しないとこれからも魔石が貯まる一方なんですよ。公衆浴場と食事処はどうしましょうか?」
「う、む…。どちらも興味はあるが、食事に関しては既存の所が頑張って料理を出して貰う事にするか。」
凛が販売による利益をどうするか尋ねたのだが、ガイウスは少し困った様にしてやんわりと凛に利がある内容の事を伝える。
しかし凛は苦笑いの表情を浮かべつつもその様に提示して再び尋ねて来た為、ガイウスは更に困った様子で返事を返した。
ガイウスは販売する物が凛の魔力を消費して作られるとは言え、これから生まれるであろう莫大な利益に対し、自分自身は許可を与えるだけで何もしていない為、本音としては1割でも充分だった。
しかし凛は何事もない様に売上の2割を渡すと言った為、どうやらガイウスは少し気が咎めてしまった様だ。
「あ、そうそう、忘れる所でした。ガイウスさんにこの『映像水晶』を渡しておきます。この水晶玉に軽く魔力を通すと、対になる僕の映像水晶へ(自動的に)連絡が来る様になってます。直接会わなくてもこの水晶玉越しにやり取りが出来ますので、何かありましたらこれで僕を呼んで下さると。」
「ほう、それは便利だな。ありがたく受け取ろう。」
凛はそう言って無限収納から直径30センチ程のガラスの様に透明な水晶を取り出し、それを後から出した小さな座布団の様な物とセットでガイウスの前に置く。
ガイウスはそう言いながら映像水晶を関心ありげな様子で見た後、にやりと笑って頷いた。
ガイウスのとは対になる映像水晶は普段、無限収納の中に収められているのだが、凛はガイウスから連絡が来た際は報告する様にとナビに伝えてある。
凛は今回、予期せぬ形で森林龍と戦う事になったのだが、凛達以外でここ200年程は死滅の森に挑む者がほとんどいなくなっただけでなく、挑んだとしても入ってすぐの所にいる銀級や金級の魔物がせいぜいだった。
その為、今では魔銀級の強さを持った魔物の素材と言うだけで伝説的な扱いになる。
「それとこの後受け取る予定の森林龍の肉ですが、結構な量になると思うんですよ。ですのでこの街に僕の仲間を呼んで、ガイウスさんやゴーガンさん、それと街の人達に森林龍の肉を振る舞おうと思うのですが宜しいですか?」
「凛殿が折角得た森林龍の肉だぞ?本当に良いのか?」
「今後も森林龍クラスのドラゴンと戦うと思いますし、手に入る機会は幾らでもあるから大丈夫ですよ。」
「そうか…。実はかく言う俺も、凛殿が振る舞うと聞いて楽しみにしているんだがな。」
そんな魔銀級の魔物である森林龍の肉を、凛はそのまま持って帰る事なく街の皆に分け与えると伝えた為、ガイウスは今食べなかったら次いつ食べれるか分からないと思いつつ凛にそう尋ねる。
凛は躊躇う事なく了承した為ガイウスは安堵し、森林龍の肉がどれくらい美味なのかと期待感が高まる。
「そう言えば、凛殿と美羽殿は空を飛んで移動すると聞いたのだが、それ以外の者達も飛ぶ事が出来るのか?」
「んー、仲間で飛べるのは現在半分位ですね。それと今回は歩いたり飛んだりではなく、ポータルを使って連れて来ようと思ってます。」
「ポータル…?」
ガイウスは思い出した様にして凛と美羽が街の南西から飛んで来た事を凛へ尋ねると、凛が考える素振りを交えて返答した中で出た、ポータルと言う聞き慣れない単語に首を傾げながら呟く。
「凛殿。ポータルとは聞き慣れない言葉なのだが、魔法か何かか?」
「どの属性にも含まれない魔法…とでも言えば良いんですかね。僕は移動系魔法って呼んでますが、簡単に言えばこの執務室の入口の扉を僕の家、或いは家の外に繋がっていると仮定するとします。あちらの扉を通るとそのまま僕の家の中や外に出る…って言って伝わります?」
「いや…さっぱりだ。ゴーガンは?」
「ごめん、僕も分からないよ。」
「僕も言ってて伝わらないだろうなと思っていました。仲間を街に招いて良ければ、その時にお見せする事が可能ですが…。」
「俺は構わんぞ。」
「僕も少し興味があるよ。」
「分かりました。森林龍の肉を受け取った後、街の外にポータルを設置して仲間を呼ぶ事に致しますね。」
「ああ。」
「分かったよ。」
ガイウスはポータルについて凛へ尋ねたものの、凛が執務室の扉を指し示しながらの説明を行ってが伝わらなかった様だ。
ゴーガンも交えて少し話を行い、後程サルーンの外で見せる事が決まった。
しかしガイウスは凛が見せてくれた物はいずれも驚かされてばかりだった事もあり、次は何で驚かせてくれるのかと言う楽しみや好奇心、凛への信頼と街の外なら大丈夫だろうと言う事が相まって許可を出した。
それと似ていると言うか、ゴーガンは単純に好奇心でポータルを見てみたいと思った様だ。
「そう言えばサルーンで店を開きたいと言っておいてなんですが、普段僕達は(死滅の)森にいると思います。この街に回せるだけの余裕がいないので、もし余っている人がいれば紹介して欲しいのですが…。」
「ふぅむ…。紹介してやりたいのは山々だが、俺の知り合いに時間に余裕がある者はいないな…。」
「僕の所もそうだね。依頼として出してみるかい?」
「いえ、恐らく店を開けている間はずっといる事になりますので、冒険者の方を常駐させるのは気が引けますね。」
「ならば奴隷ならどうだ?凛殿が気に入った奴隷を購入し、教育して店に立たせる事も可能だぞ。」
「この世界って奴隷がいるんですね…。」
「そうだな。とは言え、たまに俺が奴隷商に立ち入って問題がないかを見るのでな、凛殿から見てもこの街の奴隷商はそう悪くないと思うのだが…。」
「そうなんですね。どういう人がいるのか気になりますし、一通り街を見て回った後に奴隷商を見てみたいと思います。取り敢えず伝えておきたい事は話しましたので、サルーンの事を見て来ても宜しいですか?」
「そうか、分かった。ならばアルフォンスを付けて街を案内させよう。」
凛はしばらくガイウスとゴーガンとで話し合いを行うのだが、店番をしてもらう為の人員をガイウスから紹介して貰おうとしたものの、当てが外れた事で少し落ち込んだ様子を見せる。
しかし凛は最初こそ奴隷と言う単語に眉を顰めたが、ガイウスが合格を出したと言う奴隷商に興味を示し、店番と戦力の確保が出来るかもしれないと喜んだ。
そして話の最後に、凛が街を見て回った後に奴隷商へと向かう事が決まった。
その後、ガイウスはアルフォンスを執務室に呼び、凛を案内させる様に命じる。
それから凛はアルフォンスに連れられる形で執務室を出るのだが、去り際にガイウスとゴーガンへまた後でと言って、美羽や紅葉と一緒に頭を下げて部屋を出て行った。
「凛君といると驚かされっぱなしだよね。」
「ああ、全くだ。しかし一緒にいると童心に帰った様な懐かしさが出てくるからな、安心もするぞ。」
「そうだね。」
凛達が出て行った後、ゴーガンは優しげな笑みを浮かべながら話し、ガイウスは凛から貰った十徳ナイフを弄りながら軽く笑って話すのだった。