40話
「ガイウスさん。以前、僕と美羽はこの世界の人間ではないと言った事を覚えていますか?」
「ああ、言っていたな。」
「僕達の世界では魔法がなく、魔物がいない代わりに文明が発達してまして、この世界では見た事がない様な便利な物が沢山あるんですよ。僕はある程度の品質でしたら、向こうの世界にある物を再現出来る能力があります。この世界でも役立つと思いますので、出来ましたらガイウスさん達に普及の手伝いをお願いしたいなと思っていました。」
「魔物がいないとは羨ましい限りだな…。便利な物とは例えばどんな物だ?」
「例えば…これはライターと言う物で、野営等で使える火種となる道具です。」
凛はガイウスと話を行いつつ、説明の最後に無限収納からライターを取り出し、自身の目の前で火を点けて見せる。
「これは缶詰めと言う物で肉、魚、果物に味を付けて保存食にした物です。これはレトルト食品と言う物でお湯で温めて食べる物、これは十徳ナイフと呼ばれる野営等で活躍する物、そしてこれがペットボトル飲料と呼ばれる物でして、水やお茶等がこの容器の中に収まってて飲みたい時に飲める物です。条件にもよりますが、今出した食べ物や飲み物はいずれも開けなければ口に出来る期間が何ヵ月かあります。少し多目に買ってしまったとしても、そうそう無駄にはならないかと。」
「「…………。」」
そして凛は説明を加えながら無限収納から肉、魚、果物が味付けされた缶詰、レトルトのミネストローネやクラムチャウダーのスープ、十徳ナイフ、水と紅茶のペットボトルを次々に取り出しては机に並べていく。
ガイウス達は凛が何でもない様にして次々と見た事のない物を出しては並べていった為、揃って固まってしまう。
「お二人共見た事がないものばかりだと思いますし、戸惑うのも分かります。それに味を知らないと判断が難しいですからね、良ければこれらを口にしてみませんか?」
「あ、ああ、そうだな…。」
「凛君には驚かされるばかりだね…。」
凛がそう提案するとガイウスは口ごもりながら話し、ゴーガンは驚きの余り素の話し方となってしまう。
その後、ガイウスとゴーガンは凛が開封した缶詰、レトルト食品、ペットボトル飲料を一口分ずつ口にしてはおぉっ、ふぅむ、等と言い、リアクションを交えながら感動している様だった。
その中でも特に2人は十徳ナイフの見た目や仕組みが気に入ったらしく、しばらく弄っていたのもあって凛はプレゼントする事にした。
「これらはまだほんの一部ではありますが、冒険者に売れば注目を集められるのが1つ。後は冒険者ギルドの近くに公衆浴場を建てたり、この缶詰やレトルト食品の様な食事が出来る所を設ける、或いは既存の食事処で出せる様にする…と言うのはどうでしょうか?」
「間違いなく人は集まるだろうな。しかし、ここまでやって凛殿に何の利点があるのだ?」
「僕にとっては、まずこの世界に住んでらっしゃる皆さんに知って貰う事が第一優先なんですよ。折角食べるなら美味しい物を食べたいですし、僕自身お風呂が好きだから皆にも共感して欲しいって言う打算的な考えもありますけどね。」
「成程…。」
ガイウスは凛からの説明を受けた後に尋ね、再び説明を受けた事で考える素振りを見せて呟く。
どうやらガイウスはこれをチャンスだと捉えたのか、凛から得た情報を元にサルーンをどう発展させるか考えている様だ。
「それでと言う訳ではないのですが、2点お願いがあります。」
「お願いとは?」
「まず1点目ですが、先程の缶詰、レトルト食品、ペットボトル飲料は空になるとゴミ…不要な物となる為、街の内外に捨てて問題となる可能性があります。それらを入れるゴミ箱の設置と、ゴミを回収する人員を確保して欲しい事ですね。他人が口を付けた物を触る訳ですし、少し嫌がられる職種だと思います。その方達に対しては賃金を多めにしても宜しいかと。」
「ふむ、考慮しよう。2点目は?」
「折角ガイウスさんから街の住民票を戴いたのですが、居住地を死滅の森に入ってすぐの所にある地点、ここからだと南南東のオーガの集落があった所に移そうかと思っています。」
「…それは何故だ?」
「以前、藍火…ワイバーンの女の子が説明を行った際、ガイウスさんが王の側近の事を良く言わなかった事が引っ掛かりまして。あのままサルーンの街の一角として住んだ場合、そう遠くない内に僕だけでなく、ガイウスさんにも何かしらでとばっちりが行きそうな気がしたんですよ。」
「あー、俺の配慮が足らなくて凛殿に要らぬ心配を与えてしまったか…すまない。確かに、今凛殿が出した物は恐らく世界中どこを探してもないだろうからな。妬みの類いは当然の様に来るであろう。」
「缶詰やレトルト食品やペットボトル飲料…だったっけ?これらを王の側近達は王に献上したり、自分の手柄にしようとして画策するだろうね。こんなに美味しくて便利なのに、開けさえしなければ長い間食べれるなんて、普通なら有り得ないもの。」
「それに、僕が住んでいる家は向こうの世界を再現した物ですからね。土地を借りている立場ではありますが、命令されたからと言ってそのまま明け渡したくないのが本音です。」
「「ほう。」」
ガイウスは凛と話し合いを行いながら相槌を打ち、その途中で右手を額に置き、上を向いてやってしまったと言う表情になってから申し訳なさそうにして説明をする。
その後、目の前に置かれた飲食物を見ながら価値や有用性を伝え、それにゴーガンも加わった。
そして凛が話した中の向こうの世界の家と言う単語に、ガイウスとゴーガンは興味を示す。
「森へ移動しても構わないのでしたら、家を建て直した後にお二人を招待致しますよ。既にアルフォンスさん達は招いた事になる訳ですし、上司のガイウスさんを招かないのは申し訳ないですからね。」
「そうだったな。あいつと部下二人が凛殿からもてなしを受けたと報告していたんだった。昨日凛殿が帰ってからゴーガンとクッキーを食べたんだが、俺達が知ってる物よりも全然美味くてな。クッキーと言う名の別物ではないかって位に驚いたよな。」
「そうだね。あのクッキーを知ってしまったら今までのは食べれなくなるよ。凛君、話に出た様なクッキーも勿論買えるんだよね?」
「はい。他にもチョコレートと言う甘い物や、芋を揚げたポテトチップスと呼ばれる物等も販売する予定ですね。」
「それは楽しみだ。凛君が良い人で良かったと僕は思うよ。」
「ああ、俺もつくづくそう思う。」
「何か恥ずかしいですが…ありがとうございます。」
それからも話し合いは続き、凛が何故か褒められた為に照れ臭そうにしてお礼を言う。
「ふふっ。(照れてるマスターも可愛いなぁ。)」
その光景を美羽は微笑ましく見ているのだった。