403話
「エリック王、お久しぶりにございます。ヴァレリー侯爵家長女、アイシャ・ヴァレリーですわ。ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ございませんですわ。」
「う、うむ…。して、その縛られている者、まさかとは思うがフーリガンの領主…。」
「ああ。ルドルフとか名乗っていたな。」
「やはりか…。」
アレックス達が戻って来た後、アイシャだけがエリックの近くへ向かってカーテシーを交えた挨拶を行う。
エリックは困惑した様子で相槌を打ち、視線を縛られている男性へと向けながら話そうとする。
これにアイシャ程ではないがエリックへ近付いて来たアレックスが説明を行い、エリックは納得した表情で呟いてしまう。
「おいお前!いきなり襲い掛かって来ておいて、縛った俺に何か言う事はないのかよ!」
「お前達の方から王女殿下へ襲撃を仕掛けておいて、今更何言ってやがる。」
「ちっ。…!おい、そこのチビ。」
縛られた男性ことルドルフは後ろ手で縛られた状態のままで胡座の座り方をしてアレックスの方を向いて叫び、アレックスは鬱陶しそうな表情で返事を返した。
ルドルフは少し右の方を向いて舌打ちを行った後、その視線の先でこちらの事を見ていた雫に気付き声を掛ける。
「…チビとは私の事か。」
「お前以外にいねぇだろうが。ちょっとこっち来い。」
「………。」
「良し、さっさと俺の縄をほど…。」
「デュクシ。」
ブスリ
「ぎゃーっ!目がぁーーーーー!!」
「…失礼なやつ。」
これに雫はムッとした表情で返事を行い、ルドルフが不機嫌そうな表情で話した事で黙って移動を行う。
ルドルフは見た目からして雫が弱そうに感じたらしく、にやりと笑いながら縄を解く様に指示を出そうとする。
しかし雫はルドルフが言い終える前に、そう言いながら右手の人差し指と中指を使ってルドルフに目潰しを仕掛けた。
ルドルフは雫から受けた目潰しによる痛さの余り、叫びながら辺りをゴロゴロと転がり始める。
雫はそんなルドルフを見て、ふんっと鼻息を荒くした後にそう呟いていた。
「…何やってんだか。今みたいにいつまでも叫ばれたら面倒だな。ティナ、そいつを眠らせて貰えるか?」
「分かった。」
「おい!まだ俺の話は終わ…。」
アレックスは雫達の様子を呆れた表情で話した後、ティナの方を向いて促す。
ティナはルドルフのすぐ近くへ向かい、右の掌から(ミモザクイーンから得た)昏睡の効果がある水色の煙を発生させる。
ルドルフは痛みの影響で思いっきり目を閉じて転がってはいたが、それでもアレックスの言葉が聞こえた様だ。
ルドルフは転がるのを止め、目を閉じたまま海老反りの様にして上半身を起こしながら叫ぼうとするも、ティナが生み出した水色の煙を吸った事で眠ってしまう。
「終わったよ、お兄ちゃん。」
「ありがとうな。」
「えへへ。」
「さて、エリック王。これでひとまずフーリガンの鎮圧は終えた訳だが、大まかに4つの選択肢を選ぶ事が出来る。1つは凛に恭順の意を示してフーリガンの扱いを凛に任せる事、1つは恭順の意は示すが自分達でフーリガンを管理する事、1つは凛に付いていかずにフーリガンは任せる事、最後の1つは凛に付いていかず、フーリガンも自分達で管理する事。」
ティナはルドルフから離れてアレックスの元へ向かい、報告を行った事でアレックスに礼を言われて笑顔となる。
アレックスは軽く微笑んだ状態から真顔となり、右手の指を4本立て、説明を行いながら1本づつ指を折っていった。
「結論から言えば、どれを選ぼうがパティの身柄は俺が引き受ける事は確定している。」
「あっ。」
「ああ、今更返せと言われても断固拒否させて貰うぞ。他国ならまだしも、自分とこの国で危険な目に遭ったんだから当然だよな?それを踏まえた上で結論を出す事をオススメするぜ。」
「…少し、考えさせて欲しい。」
「まぁいきなり凛に従えって言っても困惑するだろうし、受け入れる参考にしたいってんなら帝都、聖都、獣国にある王都を見て貰っても良い。親父、レオン様、フィリップ教皇、構わないか?」
「ああ。」
「良いぜ。」
「宜しいですよ。」
アレックスは話をしながらパトリシアの方へ向かい、左手で抱き寄せるとエリックは困った表情を浮かべてそう呟いた。
パトリシアは頬を紅潮させ、目を潤ませた状態でアレックスの事を見ている中、アレックスはエリックの方を真っ直ぐ向いて話す。
そして話の最後にゼノン達の方を向いて尋ね、ゼノン達はこれを了承した。
「他にもあるんだが…あまり急ぎ過ぎるのもなんだし、今回はフーリガンに関する事だけにしとくか。こいつの処遇はエリック王に任せるとして、ひとまず俺はアヤカ達がいるフーリガンへ向かってから戻る事にするわ。」
「それなら僕も向かうよ。前に来た時は痩せた人が多かったし、今も変わっていないだろうからさ。」
「お、助かるぜ。皆はどうする?」
「アレックス、お前だけに良い格好はさせんぞ?俺も行く事にする。」
「ゼノンが行くなら俺も行くか。」
「そうですね。」
「皆で参りましょう。」
アレックスは溜め息混じりにフーリガンへ残した、部下である空狐の姉妹の元へ向かうと話し、凛が笑顔で伝える。
これにアレックスは嬉しそうにして周りに尋ね、ゼノン、レオン、フィリップ、ポールがそれぞれ話し、美羽達も頷いて答える。
「それじゃ行こうか。」
凛がそう言ってポータルを設置し、皆はルドルフの事に目もくれず次々にポータルを潜っていく。
そして最後に残った凛もポータルを潜るのだが、その前にレナードの方をチラ見して潜っていった。
「…くそ。あの若造め、このまま黙っていると思ったら大間違いだぞ。」
凛達がいなくなった事でポータルが消えるのだが、レナードはその場に俯いてからそう呟くのだった。