400話
凛は移動する際、当事者のパトリシアやライアン達、それと国王への説得役のゼノン達とは別に、アレックス、美羽、火燐、雫、翡翠、楓、朔夜、ジークフリート、セルシウス、サラマンダー、デュラハンも一緒に連れていた。
凛達はそんな大人数でポータルを潜った後、皆で王都入口にある門へと到着する。
これに門番達が攻め入られに来たと感じて慌ただしい様子となるが、前に出たパトリシアから一緒にいるのが各国の代表達だと伝えられると、畏れ多いと思ったのかその場に平伏してしまう。
パトリシアは門番達を宥めて自分達を通す様に告げ、門番達は再び慌てた様子で入口を開け、凛達一行を通した。
門番達は凛達が通った後、緊張感のあまりその場でへたり込むのだが、順番で並んでいた者達は何事かと思ったのか呆然とした様子を浮かべていた。
凛達はその後もパトリシア先導の元で王都を進んだ為、王都中から注目を浴びるもそれらを全て無視し、やがて王城へ辿り着く。
王城の門番達も初めは警戒していたが、パトリシアの説明でゼノン達の素性が分かった為に顔が真っ青となり、先程と同様に凛達を通す事に。
「何事だ!」
凛達は引き続きパトリシアの案内で謁見の間へ入ると、奥に座っている身なりの良い男性が声を荒げていた。
その男性は年の頃が50代前半位。
身長164センチ程で茶髪をミディアムにした髪型をしており、髭を生やしてふくよかな体型をしている。
隣には金髪でエメラルドの色をした瞳の女性が座っており、少し離れた所ではその女性やパトリシアに似た男性や、重鎮と思われる者達が複数立っていた。
「(トランプの、トランプのキングがいる…!)」
「(ちょ!雫ちゃん!王様の外見が面白いのは分かったから、今は我慢して!)」
その男性はトランプのスペードのキングの絵柄と酷似した外見をしていた為、雫は小声でそう言いながら笑いを堪えてぷるぷると震えており、隣にいた美羽が雫へ小声で促していた。(2人共後ろの方にいた事で気付かれてはいなかったが)
「エリック王よ。話をしに来てやったぞ。」
「なっ!皇帝ゼノンに獣王レオン、フィリップ教皇にポール代表までいるではないか!…念の為、先に聞いておこうか。これは侵略行為ではないのだな?」
「ああ、勿論。俺達はあくまでも話をしに来ただけだ。それからどうなるかはエリック王達次第と言う所だな。」
「(ふん。ゼノンめ、これだけの人数で来ておいてぬけぬけと。)…分かった、話を聞こうか。」
凛達がその場で立ち止まってからゼノンが前に出てにやりと笑いながら話し、エリックは驚いたりゼノン達の事を窺う様にして促していた。
尚、フィリップは前回会った時よりも大分若返っているのだが、エリックは心の余裕がなかったのとゼノンに意識が向いてる為に気付いていない様だ。
「王!」
「良い。レナード、貴公は下がっておれ。」
「はっ。」
そこへ40代半ばと思われる、銀髪ショートの髪型をした男性が叫び、エリックがそう促した事でレナードと呼ばれる男性はおとなしくなる。
「お初に御目に掛かります、僕は凛 八月朔日と申します。ホズミ商会の会長を務めさせて頂いております。」
「ホズミ商会…?ああ、最近になって聞く様になった商会の事だったか。お前がその代表だとでも申すのか?」
凛がゼノンの前に出て自己紹介を行うのだが、エリックへ向けて話を始めるまで1度も跪いたり頭を下げる事はなく、今も跪いているのはパトリシアやライアン達だけだった。
それは美羽達も同様だった為、凛達以外で謁見の間にいる者達は一様にして顔を歪めながら凛達の事を見ていた。
エリックもその中の1人で、凛達が入って来てからずっと顔を歪めており、そのまま半ば吐き捨てる様にして凛へ尋ねる。
「はい。今回は何点かお話をする為にお伺いさせて頂きました。」
「…言ってみろ。」
凛が軽く微笑んで話すとエリックが椅子の手摺部分に肘を置き、頬杖を突きながら不機嫌そうに返事を返した。
「ではまず1つ目ですが、これからフーリガンを解放致します。その対価としまして、パトリシア王女殿下の身柄をアレックス第3皇子殿下へ譲り渡して下さい。」
凛は敢えてエリック達が不機嫌な様子を浮かべているのを無視し、満面の笑みでそう伝えるのだった。