397話
パトリシアが馬車から出て走り始めた事を合図に襲撃者達は再び動き出すのだが、それに合わせて凛達も移動を行い、襲撃者達の前に立ちはだかった事で戦闘へと入る。
パトリシアはアレックスの元へ真っ直ぐ走ってから抱き付いた事で泣き始め、アレックスは右手に大剣を持ち、苦笑いの表情を浮かべながら左手でパトリシアを宥めていた。
「…ぐすっ。夢じゃない、アレクが…アレクが来てくれた。」
「ああ、俺だ。何で泣いてるのかは分からんが…まぁ、パティがやりたい様にしてくれ。」
「うん、分かった…。」
パトリシアは抱き付いたまま涙声で話し、アレックスはアイシャ達から毎日抱き付かれる様になった事もあって、特に抵抗する素振りを見せずに返事を行う。
パトリシアはアレックスが少し見ない間に変わったのかと内心疑問に思いつつ、折角の機会だからと判断したのか、そう呟いた後にアレックスへ抱き付いた腕に込める力を強めていた。
2分後
凛達は戦闘を終え、アレックス達の元へ向かった。
それに気付いたアレックスは左手でパトリシアの背中をぽんぽんと叩いて戦闘が終わった事を告げ、パトリシアはゆっくりとアレックスから離れて凛達の方を向く。
「…皆、私のせいでごめんなさい。」
「いえいえ。ですがこのままここにいたらフーリガンから応援が来るでしょうし、ひとまず僕の屋敷へ向かう事にしましょう。」
「分かった…。」
「ライアン達もそれで良いか?」
「僕達は王女殿下の護衛や付き人だからね。王女殿下と一緒に行動するのは当然の務めだよ。」
『(こくっ)』
パトリシアは申し訳なさそうな表情で皆に謝罪を行い、凛がそう提案すると元気なさげに頷いた。
アレックスがライアン達の方を向いて尋ね、ライアンは凛の屋敷へ行ける事に内心歓喜しつつ、それを表に出さず爽やかに返事を返す。
そしてライアン以外の護衛や付き人達は頷いて返事を行った為、美羽が馬車を無限収納へ直して凛はポータルを設置し、アレックス先導で屋敷へ戻る事に。
「戻ったぞー。」
「アレク様、お帰りなさいませですわ。」
「…え?アレク…様?」
「お兄ちゃんお帰りなさーい。」
「…え?お兄ちゃん?」
アレックスが先頭でポータルを出た後にパトリシアが周りを窺いながら出て来るのだが、アイシャ、ティナがそれぞれアレックスの元へパタパタと走って来ては声を掛けた為、パトリシアは驚きつつも段々と険しい表情となっていった。
『お帰りなさいませ、アレックス様。』
「ちょっとアレク!?これは一体どう言う事なの!?」
「あー…うん。まぁ色々あってな…。」
しかしそこへ止めとばかりに空孤2人(姉妹でアヤカとアヤネと言う)を含めたフラム達がダイニングからやって来た後、そう言ってアレックスに頭を下げた事でパトリシアはアレックスに追及をしようと思った様だ。
先程までの元気なさげな様子から一転し、怒った様子でアレックスに詰め寄って来た為、アレックスは気まずそうな表情で返事を行っていた。
それからパトリシアによる追及が始まるのだが、アレックスは困った様子で説明を行う一方、少し離れた位置にいるライアンは口笛を吹いたりして(沢山の女性に囲まれていると言う意味で)アレックスを褒めていたりする。
「しばらく会わない内にアレクが神金級の聖人と言うのになってて、アイシャとティナは金級と魔銀級。配下となったフラム達は全員神金級の魔物や亜人か…。なんだか説明を聞いただけで目眩がしそうになるわね。」
『………。』
凛達はダイニングへ入ってすぐの所に場所を移し、パトリシア達にアレックスに関する説明を行う。
一通り説明を聞いた後にパトリシアは溜め息混じりに疲れた表情で話しつつ、ロゼの事が気に入ったのか太ももの上に座らせて頭を撫でまくっていた。
ロゼはパトリシアに撫でられている事で気持ち良さそうにしており、ライアン達護衛や付き人達はパトリシアの矛盾した行為に呆然とした様子となっていた。
どうやらパトリシアは、強い魔物だと分かってもロゼの可愛らしさには勝てなかった様だ。
「(じーっ)」
「(ティナちゃんだったか、まさかマリア君にこんな綺麗な娘がいたなんてね。…そのティナちゃん、今回初めて会った筈なのに、真っ直ぐ僕の事を見ているな。はっ!?まさか僕に気が?いやいや、いくら可愛くてもマリア君の娘だし、聞けばアレックス皇子殿下の嫁になりたいそうじゃないか。いや、でも…。)」
そしてティナは母であるマリアの想い人で父親似とされるライアンの事をじっと見ていた為、ライアンはその様な事を考えながら1人で勘違いや葛藤をしているのだった。