393話
一方、凛がアウラと話をし始めた頃の帝都では
先日、火燐が商業ギルド本部で説得をした事で、ホズミ商会関係者に対して被害を与えようとする者は激減した。
しかしその代わりに、宝石を購入した客が店を出てすぐにガラの悪い者達に襲われ、購入した商品を含めた金品が奪われると言う被害が相次いでしまう。
火燐は先程、ポールや雫達と一緒に商業ギルド本部へ赴いた際にギルドマスターからその様な報告を受け、すぐにステラを呼んで調べて貰う事に。
何故火燐はステラを呼んだかと言うと、ステラが猫の獣人だけで構成された諜報機関『ねこにん隊』の代表を務めているからだ。
ねこにん隊は情報収集、それと場合によっては武力による鎮圧を主な仕事としており、現在は現場に出ているねこにんが80名程、現場以外にも見習いとして100名以上の者が在籍している。
ステラは獣国王都で前獣王のガルシアを捕縛した際、一緒にいた猫の獣人を保護して凛に彼らを自分の部下とする様に頼んだ後にねこにん隊を立ち上げた。
ねこにん隊は最初こそ10名位しかいなかったが、帝都やジラルドから人々が移動した際に200名程の猫の獣人がおり、そのほとんどがステラの勧誘により加わった。
ねこにん隊は既にサルーン、獣国王都、商都にそれぞれ20名程が向かっており、明日から帝都にも20名派遣する予定だった為、ステラと共に獣国王都で最終調整を行っていた。
しかし火燐からの要望で予定を前倒し、今日から派遣する事となる。
「よっ。」
「がはっ…。」
ネコミミと尻尾を出した状態で忍装束姿のステラが素早く男性の目の前に立ち、男性は腹部を殴られた事で気絶しながら前に倒れていく。
ステラは透化スキルで透明になりながら宝石店の近くで張り込みを行い、月の目スキルを用いる事で目を閉じた状態で上空から帝都の様子を見ていた。
そして月の目で部下達の働きぶりを見つつ、宝石店を出た客に集団で暴行を加えようとする犯罪者達の鎮圧係として働いており、丁度何回目かの集団を倒し終えた所だった。
「(火燐ちゃーん。こっちは終わったよー。部下達と合流してそっちに向かうね。)」
「(お、すまねぇな。だが大丈夫だ。こいつらは見せしめとして帰る場所を失って貰う事にするからな。)」
「(えっ?それって…。)」
ステラは何回も頭を下げながら礼を言って来た客に返事を行ってから念話で火燐へ報告すると、火燐からその様な返事が返って来た。
ステラは少し嫌な予感がした為、そう言いながら火燐がいるであろう方向を向く。
ドォォォォォォン
「あー…やっぱり。」
すると案の定と言うか、火燐が向かった犯罪者達のアジトと思われる建物から巨大な火柱が上がった為、ステラは何とも言えない表情となってそう呟いていた。
「火燐は派手なのが好きだからねぇ。まぁでも、これに懲りて悪い事をする人達がいなくなるのを期待したら、考え方によっては必要悪なのかも。」
「…凛様か。帝都に住んでる人達が怯えそうな気がするから難しい所ではあるんだけどねぇ。所でそちらの方は?天使族の人?」
「彼女はアウラって言ってね、追放されたエルマと違い自分の意志で集落を出た事で堕天使になっちゃったんだって。」
「…何そのトンデモ効果。」
「本当だよね。堕天使に堕ちて光の適性が半分に減ったけど、代わりに闇の適性が現れたそうだよ。」
「喜んで良いのか悪いのか…微妙な所だね。」
凛はポータルを使って美羽達と一緒にステラの後ろへ移動し、巨大な火柱を見ながらステラに声を掛ける。
ステラは少しだけ困った様子を見せた後に凛の方を向いて尋ね、凛は笑顔で答えるのだがステラは凛からの答えを聞いて複雑な表情になりながら話していた。
「ステラ様、間もなく全ての鎮圧が終了するかと。」
「ご苦労様。それじゃ引き続き帝都の事をお願い。相手を無力化する目的でなら雷輝石とか使って良いからね。」
「分かりました。」
そこへステラの部下と思われる(ステラと同様の姿をした)男性が跪いた状態でステラの後ろにしゅっと現れ、跪いたままでステラに報告を行う。
ステラは男性を労った後に指示を出し、男性は跪いたまま更に頭を下げて返事を行い、瞬時にその場から消えたのだった。