38話
握手をした後も2人は話を行うのだが、凛はそれまでリーリアの方が年上だと判断して敬語で話していた。
しかしリーリアは自分が加わらせて貰う立場だからと言う理由で、凛に敬語ではなく普通に話して欲しいと告げた為、今では普通に話す仲となる。
「リーリアさんはさっき戦闘が苦手って言ってたけど、戦闘から逃げられそうにないって時はどうしてたの?」
「その時は風の精霊さんに手伝って貰った精霊魔法とぉ、一応は弓を使っていたんだぁ~。けどぉ、あまり弓の扱いが上手くなくてぇ…。」
「ならあたしが教えてあげる!今から向こうで練習しよっ!」
「あらぁ~~?」
ふとした時に凛がそう訪ねると、皆の視線が集まった状態のリーリアは困った様子で答える。
翡翠はリーリアの口から弓と言う単語が出た事で、弓を使う仲間が出来たと感じた様だ。
嬉しそうに話しながらリーリアの左手を掴み、そのまま引っ張って練習しに走り始めた為、リーリアの上げた悲鳴が遠ざかって行った。
「あらら、翡翠が弓を使う仲間だと思ってやる気を出しちゃったか…。あ、そう言えば、紅葉達も超効率化が使える様になったから魔素を集めやすくなってる筈だよね。旭、月夜、小夜は妖鬼へ進化出来るようになったんじゃないかな?」
「「「(はい。)」」」
凛は翡翠とリーリアを顔だけ向けて見送った後に真っ直ぐ皆の方向を向き、それから旭、月夜、小夜を見て尋ねて肯定される。
「これで明日か明後日には皆が人になれ…。」
《マスター。旭様、月夜様、小夜様の事についてですが、今までの経験を元にして超効率化を併用致しますと、5時間程で旭様達の進化が可能となります。如何なさいますか?》
「…そうなんだ、凄いねナビ。えっとね、ナビが言うには、今から進化を行えば5時間で旭達は妖鬼になれるんだって。どうしようか?」
「(…凛様にお任せします。)」
「夕方に森林龍の肉を取りに行くんだけど、量が量だから街の皆に振る舞おうか悩んでいたんだよね。折角の機会だし、皆のお披露目も兼ねて街で食べる事にしようか。それじゃ旭達の進化に備える為、家に一旦戻ろう。」
『(こくっ)』
凛は旭達の進化にどれ位時間が掛かるか分からなかった為、森林龍の肉を受け取った後にガイウス達と少し話をして帰るつもりだった。
しかし話の途中でナビからその様に伝えられ、思ったよりも早く進化出来る事を知る。
凛は旭達に尋ねると3体は互いに顔を見合い、旭が代表して答えた事でこの後の予定が決まった。
凛は話の最後に一旦屋敷へ向かう事を話し、これに皆頷いてから昼食の片付けを始める。
「(よし、片付けも終わったし後は翡翠達を呼ん…あ、そうか。旭達がこれから人の見た目になって一緒に行動すると言う事は、下手すると毎回10人以上がポータルでの移動になる訳か。移動の度にポータルを設置しては後で回収ってのはかなり手間だね…。)」
昼食の片付けを終え、凛は翡翠とリーリアを呼んで屋敷に向かおうとした所ではっとした表情となり、今更ながらその様な事を考えていた。
凛はその後、既に設置してあるポータルに繋ぐ為の一回限りで消滅する使い捨てタイプのポータルを創造魔法で創り、次回からはアクティベーションで用意出来る様にした。
凛は早速(通常の物と色が異なる)使い捨てポータルを設置して皆と一緒に屋敷へと帰るのだが、それから30秒程で使い捨てポータルは役目を終え、徐々に下から消滅していって最後には何も残らなくなった。
「それじゃ旭達は休んだ事だし、まだ時間には早いけど僕はサルーンの街へ行ってくるよ。美羽も行く?」
「もっちろーん♪」
「ガイウスさんと色々と話をして了承を得る事が出来たら、向こうにポータルを設置して5時頃に皆を迎えに戻るね。設置がダメでも肉を受け取って6時過ぎには戻って来る予定だよ。」
「分かった。それまではリーリアみたい…は流石に無理だが、程々に寛ぎながら待つ事にするわ。」
凛は旭達を自室で休ませた後に皆をリビングに集まらせてそう伝えると、美羽は笑顔で答える。
凛は追加で説明を行い、火燐は話をしながら頷いた後にリーリアの方を向く。
「わぁ~!ふかふかだぁ~♪」
「~♪」
リーリアはソファーを堪能する様にして寛いでおり、風の精霊はリーリアがご機嫌だからか喜んだ様子を見せて近くを飛んでいた。
凛は美羽と一緒に街へ飛んで向かい、門の手前で着地する。
「こんにちは。」
「こんにちは。今日は森林龍の肉の受け取りにと言うのと、ガイウスさんに色々話したい事が出来たので来ました。」
「そうなんですね。誰か案内に付けましょうか?」
「いえ、お気遣いだけで充分です。あ、それとですが、夕方には僕と美羽以外に13人程来るかもです。」
「「じゅっ!?」」
「それでは、僕達はガイウスさんの所へ向かわせて頂きますね。」
凛は門番から声を掛けられた事で少し話をした後、そう言って会釈をしながら街の中へ入って行った。
「…ばっか!お前が変な事言うから本当になっちまったじゃないか!」
「ちょ!俺のせいじゃないだろ!不可抗力だ不可抗力!!」
門番の1人は凛達が遠ざかったのを確認し、相方に文句を言う。
これに相方が必死な様子で反論するのだが、これを切欠に2人はしばらくの間騒ぐ事になるのだった。