3話
「ほっほっほっ。よく来たのう。」
凛は白神によって別な場所へと移され、転移した先の目の前でそう語って来たのは好好爺然としている老人の男性だった。
その老人は身長160センチ程で全身紫色のローブに身を包んでおり、腰までの長さにのばした白髪と立派な白い髭を貯えていた。
凛が転移された先は白い煉瓦で組まれた広さ50メートル四方程の部屋の中で、どうやら端に位置する場所の様だった。
そしてその部屋の真ん中辺りには、8角形に組まれた長机と座る為の椅子が設置してある。
「(…何だかパッと見た感じ、ドラ◯エとかで見かける城の中にある会議室、って感じだね。)…ここはどこでしょうか?それに、貴方は…?」
凛は転移された場所を軽く見回した後、そう思いながら老人へと尋ねる事に。
「儂の名はマクスウェル。四大精霊の纏め役…と言う所じゃろうか。この部屋はまぁ…儂達精霊の会議室みたいな物、と思ってくれれば良いぞい。そしてここに呼ばれた理由じゃが、白神様から其方に説明をする様にと仰せつかっての…。儂は其方が来るのを待っておったのじゃ。」
「白神様?」
「ここに来る前に其方がお会いした方の事じゃよ。儂の上司に白神様、それと少々引っ込み思案であまりお姿を現したがらない黒神様がいらっしゃるのじゃ。」
「(そっか。シロとは別に、もう一人黒神様ってのがいたんだ。引っ込み思案って事は恥ずかしがり屋さんなのかな?)」
マクスウェルは凛からの問いに、少々ウンザリした様な表情で答える。
凛が再びマクスウェルへと尋ねると、マクスウェルは丁寧に説明を返す。
凛はマクスウェルからの説明を受けた後、その様な事を考えていた。
「白神様は面倒くさがり屋…ゴホン、お忙しいお方なのでな。儂が代わりに…。」
「ごめんなさいウェル爺。凛ちゃんへの説明は私がするわ。」
「…?(凛ちゃん?それに、どこかで聞いた事がある声の様な…。)」
マクスウェルは更に凛へ説明を行おうとすると、凛の右方向から優しく話し掛けようとする女性の声がした。
凛はその女性の声に聞き覚えがあった為、内心そう思いながら聞こえた方向へと振り向く。
「おぉ…創造神様…!」
「え!?里香お姉ちゃん!?」
「久しぶりね、凛ちゃん!!」
マクスウェルはこちらへと歩いて来る女性を見て心から安堵し、敬う様な言い方をする。
そして凛はマクスウェルより少し遅れて女性を見ると、全く予想していなかった人物だった為か驚きを露にした。
女性…里香は自身を見て驚いている凛の元へと駆け寄り、凛の事を優しくぎゅっと抱き締める。
「里香お姉ちゃん、いきなりいなくなって皆びっくりしたんだよ?里香お姉ちゃんがいなくなってからずっと探しているのに、何の手掛かりも見付からないしさ。父さんや母さん、それに他のお姉ちゃん達も、日に日に元気がなくなって来てたんだ…。」
それから少し時が経ち、凛は抱き付いたままの状態で目に涙を浮かべ、悲しそうな表情で里香へそう話す。
「ごめんなさい…。皆には本当に申し訳ない事をしたと思ってるわ。私一応この世界の創造神でね、向こうの世界で3年前…こちらの世界で1500年程前に大きな戦いがあったの。皆の協力でどうにか勝つことは出来たのだけれど、その分被害も大きくてね。それから随分年を重ねてから凛ちゃんが来たと言うのに、まだ落ち着けそうにないのよ…。」
里香は申し訳なさそうに凛へ謝った後、苦笑いの表情を浮かべてそう説明する。
「以前は違う世界の名前だったのだけど、新たにやり直そうって事で世界の名前を《リルアース》に変えたの。向こうで過ごした経験を元にして、地球にある食べ物とか文化をこっちでもやってみようとしてるのよ。だけど、私が少し家事が苦手な事が反映されてるのか、中々思うほど上手くいかないのよねぇ…。」
里香は苦笑いの表情のまま更に説明を行い、言葉の最後にたははと言いながら右手で後頭部を掻く。
「里香お姉ちゃんは、どうして世界を《リルアース》って名前にしたの?」
「あぁそれ?それはね…。」
凛から尋ねられた里香は凛から少し離れて佇まいを正し、ふふんと言いながら嬉しそうにする。
「瑠璃ちゃん、いらっしゃい。」
「…はい。」
里香が凛にとって聞き慣れない名前を呼ぶと、いきなり里香の隣にメイド服の少女が現れる。
そしてその少女は凛に瓜二つと言う位に良く似た姿をしており、凛と同じ黒髪を腰迄の長さに伸ばし、ミニスカートのメイド服に身を包んでいた。
それと、その幼い容姿には似つかわしくない、メイド服から溢れそうな位の巨乳…いわゆるロリ巨乳の持ち主でもあった。
「紹介するわね。この子は瑠璃ちゃん。私の眷属よ。」
「初めまして凛様、瑠璃と申します。以後お見知りおきを…。」
里香がどや顔で瑠璃の事を紹介し、瑠璃はそう言って凛へ向けて深々とお辞儀をする。
「………………………………。」
凛は衝撃が強すぎたのか、自分とほぼ同じ見た目をした瑠璃を見て固まっていた。
「………はっ!?ちょ、ちょっと里香お姉ちゃん!?何で僕にそっくりな子がメイド服を着てるのさ!?」
「だって…凛ちゃんが可愛すぎるのがいけないのよ!!凛ちゃんが生まれた時から、なにこの天使って思ってたわ。そして成長するにつれ、どんどん可愛くなるんだもの。男の子なのに女の私達よりも可愛いとかズルいわ!だから私にとっては凛ちゃんがまるでダイヤモンドの様に光輝いて見えたのよ!だから瑠璃ちゃんを眷属として呼んだ時、凛ちゃんの『り』が入ってる名前にしたの。そして…里香の『り』に瑠璃の『る』を中心とした地球っぽいものを作りたくなったのよぉぉぉっ!!」
凛は我に返り、慌てた表情で里香へと尋ねる。
里香は今までの鬱憤を晴らすが如く、凛へ向けて熱く説明する。
そして説明の最後に見せた、ぐっと握った拳を真っ直ぐ上に挙げる姿は、まるでどこかの世紀末覇者の様だった。
「(あー…。今のお姉ちゃん、物凄く良い顔をしてるなぁ…。そのまま我が生涯に一片の悔いなし…とか言わないよね?)」
凛は里香の満足しきった表情を見てうわぁ…とドン引きしていた。
因みに長女は理彩、次女は莉緒と言う名前だったりする。
「(そう言えば…理彩姉ぇやねえねえを含めて、僕達姉弟は4人共『り』から名前が始まるんだよね。だから一緒にいると、たまに混乱する事もあるんだけど…。両親は『り』に何か思い入れでもあるのかな…?マクスウェル様はこの事を知っては…いなさそうだね。)」
凛はふと思い出した様にそう考えた後、同じ様に説明を聞いたマクスウェルを見てみる事にした。
どうやらマクスウェルも今知ったらしく、口をあんぐりと開けている。
凛はその様子を見て、密かに安堵していた。
凛は続けて瑠璃の方向を見るが、瑠璃は当然分かっていたのか特に反応はなかった様だ。
凛は瑠璃から軽く微笑まれた為、軽く微笑んで応える事にした。
「取り敢えず突っ込みたい事は山程あるんだけど、なんとなくは分かった。それで…僕はどうすれば良いのかな?シロからこの世界を救って欲しいって言われてはいたんだけど。」
「そうだったわ!凛ちゃん。しばらくの間、目を瞑っててくれるかしら?」
「うん?これで良いのかな?」
「ええ。そのまま力を抜いて、自然な状態でいてね。」
凛は里香に尋ねると、里香はそう返事を返す。
凛はそう言って目を瞑ると、里香はそう言いながら凛の頭の上にぽんと右手を置き、何やら作業を始めた。
「…取り敢えずはこんなものかしらね。凛ちゃん、目を開けて良いわよ。」
「ん?分かった。」
そしてそのまま10分程経ち、里香にそう言われた事で凛は目を開ける事にした。
「どうかしら?シロちゃんよりも更に手を加えてみたんだけど。」
「(全然違う…。さっきまでより、何倍も良い動きが出来そうだよ。)凄いねお姉ちゃん…!」
「まぁこれでも私は創造神で1番偉い訳だし、向こうでも時々凛ちゃんに力を与えていたからね。凛ちゃんに与えたのは自分の魔力だし、同じ家族で親和性が高いのもあってか調整しやすいのよ。ただ、向こうでは私達姉妹が凛ちゃんに色々やり過ぎちゃったみたいね。凛ちゃんの感情が暴走した結果、私が与えた魔力も暴走しちゃったりしたから少しヒヤリとしたわ。」
里香がそう言うと、凛は自身の両手足を見て内心そう思った後に答える。
すると里香はそう説明し、説明の最後にペロッと舌を出した。
「(えっ、ちょっと何それ!?僕初耳なんだけど!?)…じゃあ、誰も使わなくなった廃屋がいきなり炎上したり、近くの公園で少し大きな砂嵐が起きたり、夏なのに直ぐ近くをバスケットボール位の雹が落ちたりしたのって、もしかして…?」
「ええ!感情の暴走による魔力の暴走ね!」
「そんなぁ~…。」
里香の説明を受けた後、凛は内心そう突っ込みを入れて里香へと尋ねる。
そしてうんうんと頷いて答える里香の姿を見て、凛はそう言ってがっくりと項垂れたのだった。