37話
凛は5日前にサーチを弄り、仲間或いは魔物を含め、こちらに対して好意を持つ存在を青、
魔物含めこちらに対して害意がある或いは与えようとする存在を赤、
魔物を含めて無関心な状態を白、
魔物を含めて亡くなっている存在を灰色、
そして魔物含めこちらに対して興味を持つ存在を緑色の丸で表示する様にした。
凛は紅葉達がいたゴブリンの集落に建てた小屋から少し離れた所に目の前の女性がいた事は分かっていたが、その時にサーチを使って表示された色は無関心の『白』だった。
しかし凛がサクサクルースへ進化する為に休んだ後、再びサーチで確認してみる。
すると女性の表示がこちらに関心がある『緑』へと変わっていた。
そして今朝までは屋敷に向けて移動していたのが、どうやって知ったのか凛達の方へ反転して近付いて来た。
その為、凛は目の前の女性が転生者、或いは地球に対して何らかの知識がある者だと断定して興味を持つに至る。
因みに、凛はサーチの存在を美羽を含めた皆へ知らせない様にとナビに伝えてある。
これはサーチの便利さに慣れてしまい、凛はサーチに頼りきってしまうのではないかと判断した為だ。
凛はマクスウェルとの最終試験の際、凛は消えたマクスウェルに対して空間認識能力をフルに使って探そうとしたが、それでも見付からなかった経験を持つ。
その為、マクスウェル程の使い手と遭遇する事はまずないにしても、自分に圧力を掛けて来た魔物の事もあり、サーチを掻い潜って油断した所を襲われる恐れがあると考えた様だ。
凛自身も今の所サーチを使うのは1日数回程度に留め、少しでも戦闘による勘を鍛えようとしていたりする。
「よく分かったわねぇ~!キミが持ってるかれーって言うのはぁ、私多分初めて見ると思うんだぁ。だけどぉ、臭いとか見た目がぁ、何故か懐かしい感じがしたのぉ~。このかれーの臭いを~、風に乗せて私に送ったのもキミだよねぇ~?」
「そうです。貴方が非常食を置いた小屋近くにいた頃から変化がありましたので、もしやと思いまして。」
「あっ、そう言えばぁ、あれもキミだったんだよねぇ。これの事でしょ~?」
「そうです。それの事ですね。」
女性は嬉しそうに肯定した後に凛へ尋ね返し、凛は頷いて返事を返す。
そして女性は話をしながら、腰に着けた魔物の皮で作られたポシェットの様な物から銀紙で包まれた5センチ位の長さをした濃い茶色の棒状の物を取り出して凛に尋ね、凛は再度頷いたのを交えて返事を行った。
「これも初めて食べたと思ったんだけどぉ、何故か懐かしく感じちゃってねぇ。あの小屋はたまたま寄る事になってぇ、そこにあったこの食べ物が気になったからキミを探す事にしたんだよ~。」
「成程…。」
「…おい凛、話が長くなりそうだし、オレ達だけでも先に食べてて良いか?」
「あっ、ごめん。そうだね。それじゃ僕の隣に来て頂いて、もっとお話を聞かせて貰っても宜しいですか?美羽はごめんだけど、このエルフさんの分のカレーをお願いね。」
「はーい♪」
「あらぁ?ありがとうございます~♪」
女性は間延びした話し方をしており、普通の人が話す倍の時間を掛けて説明を行って凛が相槌を打つのだが、火燐は女性の説明は長くなりそうだと判断した様だ。
火燐はそれに加え、今すぐにでもカレーを食べたい思いで一杯だった為、凛へせっついた事で凛が謝罪する。
凛は特に女性から害意を感じなかった事もあって女性を近くに招き、美羽にカレーの用意をして貰う様に頼む。
美羽と女性はそれぞれ返事を行い、目的に向けて行動を開始する。
それから凛達は20分程時間を掛け、カレーを食べたり会話を行っていた。
凛の横に来た女性のエルフの名はリーリアと言い、身長160センチ位で金髪碧眼、背中までの長さの髪をゆったりとした三つ編みにして右肩の前に持ってきている。
見た目は20歳位で、垂れ目のおっとりした優しそうなお姉さんと言った雰囲気を纏っているのだが、実年齢はナイショ♪だそうだ。
そして見ての通りと言うかのんびりした性格をしており、翡翠以上に立派な物を持っていた。
リーリアはかなり久しぶりにカレーを食べるからか、カレーを一口食べてから嬉しそうに震えた後、んんー!と言いながら背伸びをする様にして少し上の方を向いていた。
その為、リーリアが背伸びをしている間は皆の視線が胸に集まり、雫だけは険しい表情で両手をわきわきと動かしていたりする。
凛は今回、元々地球にいた時から好んで食べていたゴール○ンカレーの様なスパイシーなカレーをベースに、初めて食べると言う事で少しした物にオークキングの肉を使ったポーク(?)カレーを用意した。
それでも辛いのが苦手な者がいるのではないかと思ったのだが、リーリアが一口食べてから皆も食べ始めた事でどうやら杞憂に終わった様だ。
その後も凛とリーリアが会話を、他の者達は談笑をしているのだが、火燐だけはひたすら大盛のカレーを皿ごと抱えながらガツガツと食べていた。
「それじゃリーリアさんは旅をしていて、僕の居場所や保存食…と言うか建物の事は一緒に行動している風の精霊から聞いたって事なんですね。」
「そうなのぉ。私小さな頃から里で変わり者扱いされててぇ、それが原因で親に迷惑を掛けるのも悪いと思ったんだぁ~。だから成人してすぐに里から出てぇ、物心ついた時からずっと一緒にいた風の精霊さんと旅をしているの~。私戦闘が苦手だからぁ、精霊さんに聞いて魔物がいない所を通って移動してるのよぉ~。」
「結構長く旅をしていたんですね…。リーリアさんはこれからも旅を続けるんですか?」
「そうねぇ。そう思っていたんだけどぉ、風の精霊さんが翡翠ちゃんと仲良くなっちゃったみたいなのよねぇ。どうしようかしらぁ~?」
凛とリーリアが話をまとめ、凛が何と言って良いのか分からない表情で呟いた後にリーリアへ尋ねる。
リーリアは右の頬に手をやり、そう話した後に困ったわね~と言いながら、翡翠と風の精霊の方を向いて悩んだ様子を見せる。
「~♪」
「あははっ!もー、くすぐったいよー♪」
リーリアの視線の先では、風の精霊が翡翠に懐いたのか、翡翠の周りを風の精霊が飛び回る様にしてじゃれる姿が映っていた。
「翡翠は風の大精霊の子供みたいなものですし、風の精霊と相性が良いのかも知れませんね。リーリアさんが良ければですが、これからは僕達と一緒に行動しませんか?」
「そうなんだぁ?さっきも言ったけどぉ、私戦闘が苦手だから弱くてぇ…。そんな私でもお邪魔して良いのかしらぁ~?」
「大丈夫ですよ。戦闘が嫌なら戦わせる事は致しませんし、あちらにいる紅葉達は少し前まで普通のゴブリンだったんですよ。それから少し手助けしたとは言え本人達に頑張って貰い、妖鬼にまで進化する事が出来ました。」
「あらぁ、それじゃ私も頑張ってみようかな~?私ぃ、今までは1人だったから無理出来なかったの~。風の精霊さんに負担が行くのも悪かったしねぇ~。」
「それではリーリアさん、これから宜しくお願いしますね。」
「宜しくお願いするわねぇ~?」
その後も凛とリーリアは話し合いを行い、これからは一緒に行動する事が決まる。
そして2人は話の最後、互いに笑顔で握手を交わすのだった。