371話
火燐は発言してからすぐにその場にポータルを設置し、外に出てすぐの位置に繋がる様にした。
そして先に凛達を外へ向かわせた後に火燐が次は上位精霊が通る番だと伝えると、上位精霊は戦いが苦手なのか苦笑いの表情を浮かべ、両手を軽く挙げてやんわりと断る。
しかし火燐はそれを無視し、にやりと笑いながら上位精霊の元へ向かった後、上位精霊の髪(の様なもの)を掴んでからポータルがある斜め上へと放り投げる。
上位精霊は悲鳴を上げながら結構な勢いで斜め上へ向かって行き、ポータルを越えた後もそのままの勢いで放り出される事となった。
そして精霊が50メートル程進んだ辺りから高度が下がって行き、100メートル辺りの所で顔面からズザザザーと滑る様にして地面へ無事に着地(?)する。
「…よし、準備は出来た様だな。」
「ちょっと!これのどこが準備出来てるって言えるのかなぁ!?」
『(…確かに。)』
ポータルを潜って外に出た火燐は上位精霊の様子を見てそう話した為、上位精霊はお尻を上に向けた状態から急いで立ち上がる。
そして左手の人差し指で汚れや砂だらけになった自分の顔を指し示し、少し怒った様子でそう話した。
凛達も上位精霊に同感なのか、内心そう思いながら何度も頷いていた。
「うるせぇ。早く外に出て強くなりたいんだろ?今でどれ位なのかオレが見てやるよ。」
「そんなぁ…。」
「ほらほら。お前が来ないんなら、オレの方から行くぜ?」
「えっ、ちょっ、オイラ…まだ(心の)準備が…ぐえっ。」
「問答無用。」
火燐は上位精霊の文句を一蹴し、そう言いながら素手での構えを取る。
上位精霊はいきなり戦う事になった為か、そう言って渋い表情となるも、火燐はにやりと笑いながら上位精霊の元へ向かい始める。
上位精霊はそう言ってわたわたとしている内に火燐から蹴り飛ばされ、火燐はゆっくりと足を下ろして独り言ちていた。
火燐は藍火が不在の間、戻って来たら自分が稽古をつけようと考えたのか、凛に素手での戦いを教わる様になった。
そして今ではどうにか暴走状態の美羽を相手出来る様になった為、それを見た藍火から羨望の眼差しを受けてどや顔になり、次の日から藍火へ主に足技の稽古をつけていたりする。
それからしばらくの間、上位精霊がぎこちない動きで火燐に攻撃を行っては火燐が笑いながら上位精霊の攻撃を防いだり、反対に殴る蹴る等で反撃するを繰り返していった。
「…凛様。精霊って、火燐ちゃんがやってるみたいに簡単に殴ったり蹴ったり出来るものなの?あの上位精霊もセルシウスちゃんみたいな感じとか?」
「セルシウスは氷の大精霊で元々物質に近かったってのもあるからね。冷たいのを我慢するとか、凍傷にならない為の対策をしっかりすれば出来ると言えば出来るかな。けどあの精霊さんは炎で構成されている様なものだから、剣で斬ってもほとんど素通りしちゃうんだよね。それだけならまだ良いんだけど、構成している炎や溶岩の熱で剣が歪んだり溶けたりするし、かと言って火燐みたいな戦い方をしていたら間違いなく大火傷を負う。セルシウスみたいに名付けを行えば定着して少しは攻撃が通りやすくなるかもだけど、あれは火燐や僕達だから出来るってだけだから真似しちゃダメだよ。」
「いやー、流石に炎や溶岩そのものみたいな存在を相手にしようとは思わないかなー。アレクもそうだよね?」
「(ぎくっ)…そ、そうだなっ。」
「…アレク?まさか火燐ちゃんが戦ってる様子を見て、自分もあの精霊と戦いたいなんて…。」
「お、思ってねえぜ?本当、俺はこれっぽっちも考えてねえからな?」
「「(嘘だね。)」」
「「(嘘だねー。)」」
「(嘘ですね…。)」
上位精霊が火燐によって痛めつけられている(?)中、ステラが凛に疑問を投げかけてみると凛は苦笑いの表情で答える。
かれにステラは困った様子を浮かべて話し、アレックスに同意を求めたものの、どうやらアレックスは違った様だ。
体を強張らせた後、明後日の方向を見ながら普段よりも少し高い声でステラの問いに答えた。
これにステラはじと目となり、改めてアレックスへ尋ねようとするも、アレックスは明後日の方向を見ながら誤魔化す様にしてステラの言葉に被せて答える。
しかし凛達にはすぐに嘘だとバレ、それぞれ内心で突っ込まれていたりする。
「も、もうダメ…。」
「ふむ、まあこんなもんか。凛、こいつを休ませるからよ、サクッと名前を付けてやって貰えるか?」
「サクッとなんだ…。それじゃあ、君は炎を纏う蜥蜴と言う事で、名前は『サラマンダー』だ。宜しく…の前におやすみが先かな?サラマンダー、ゆっくり休んでね。」
「………。」
上位精霊は合計20分程の間、散々火燐から殴る蹴るを受けた事で満身創痍となってしまったのか、そう言って前方に倒れてしまった。
火燐はそう言って構えを解いた後に凛の方を向き、左手の親指で上位精霊を指差しながら尋ねる。
凛は苦笑いとなった後に佇まいを正し、上位精霊ことサラマンダーに名付けを行う。
サラマンダーは酷く消耗していた事もあり、特に何か言う訳ではなくそのまま眠りにつくのだった。