36話
紅葉達はオーガキング達を倒し終えた後、集落の中心にある住処に集まって来た。
「お疲れ様ー。皆とても良かったよ。」
「「ありがとうございます。」」
「「「(ありがとうございます。)」」」
凛が紅葉達を労うと、紅葉達はそれぞれ答えて深くお辞儀を行った。
「紅葉達がオーガキング達と戦う前に、ナビに頼んで紅葉達も火燐達みたいに超効率化や無限収納が使えるよう調整して貰ってたんだ。その事で僕と紅葉達の間に、リンクって言う目に見えない繋がりみたいなのが生まれてね、そのリンクを通じて僕の魔力を皆に渡せたって訳。」
「「リンク…。」」
「うん。皆もオーガに触れて回収って念じれば、無限収納の中へ収納出来るようになってる筈だよ。今はオーガキング達の回収だけ済ませて、お昼にする為に一旦森から外に出ようか。僕はオーガキングの住処の近くに小屋を立てて、中にポータルを設置して来るね。」
『(こくっ)』
凛は皆にそう説明すると、紅葉と暁が嬉しそうな表情で呟きながら両手や右手を胸元にやり、旭達も黙って胸元に手をやる。
その後も凛からの説明は続くのだが、凛以外の者達は何故昼食を摂る場所はここではなく死滅の森の外なのだろうかと内心思いながら、凛の事だから何か思惑があるのだろうとの考えに行き着き、揃って頷いた後に集落内に散ってオーガの回収を行う事に。
美羽達は凛から指示を受けて各地に散ってオーガ達の回収を行い、凛はオーガキングの住処近くに土魔法を使って6畳程の小屋を建て、小屋の中にポータルを設置してから小屋を出た。
因みに、凛が皆に向けて説明をしている間、エルマとイルマは紅葉達も凛と同じ様に無限収納が使える事を羨ましそうに見ていた。
しかし凛は紅葉達に意識が向いていた為、エルマ達の視線に気付かなかったりする。
5分後
「僕と美羽、エルマ、イルマの4人で、お昼の用意をしに先行して森を出る事にするね。火燐は悪いんだけど、皆と一緒に僕達が向かう所へ案内して貰って良い?」
「ああ、分かった。」
『………。』
美羽達は空を飛び、紅葉達は駆け足でオーガ達の収納を終えて戻って来た後、凛と火燐が話をした事で次の予定が決まる。
しかし紅葉達は空を飛べないのが今の所自分達だけな為、それを不甲斐なく感じたのか少し悲しそうな表情となる。
「紅葉達もナビのサポートを得られる様になったから、早ければ明日には飛べる様になるかもだよ。それじゃ美羽、エルマ、イルマ。今から移動を始めるから、3人は僕に付いて来てね。」
「はーい♪」
「「はい!」」
凛が紅葉達を励ました後、美羽達の方を向いてそう告げてから宙に浮き、4人は一緒に北の方へ飛んで行った。
「是非とも凛様の期待に応え、少しでも早く空を飛べる様にならなければ…。」
「おーい、紅葉ー!オレ達も行くぞー!」
「…!申し訳ございません。すぐに参ります。」
紅葉は凛に頑張れば翌日には空を飛べると言われた事でやる気の表情となり、そう独り言ちていると少し離れた所にいる火燐から呼ばれる事に。
紅葉ははっとなった表情で辺りを見回すと自分しかいなかった為、慌てた様子で返事を行ってから追い掛けて行った。
「マスター。ボク達はお昼のお手伝いをって言ってたけど、今から何を作るの?」
「オークキングの肉もあるし、今日はカレーにしてみようかなって思ってるんだ。」
「あっ、マスターの記憶にあった料理だね!ボク、前からカレーに興味あったんだー♪」
「「かれー?」」
美羽が凛に尋ねた事で昼食がカレーだと分かって両手を合わせて喜びを露にするのだが、エルマとイルマは初めて聞く名前の為、どの様な料理になるのか全く想像が付かなかった様だ。
2人はそう言いながら揃って首を傾げていた。
「ふふっ。それじゃ下拵えからだね。今から僕が土魔法で簡単な調理場を作るから、皆は調理場で野菜とかを切っていってね。」
「「「はーい!」」」
凛はエルマ達を見て軽く笑った後に説明を行い、美羽達は揃って元気良く右手を挙げながら返事を返した。
凛は土魔法を用いて3人が並んで作業が出来る長めの調理場を作り、無限収納から玉ねぎ、人参、じゃがいもを取り出す。
そして説明しながら包丁で野菜の皮を向き、直径3センチ位の大きさになる様に切って見せる。
凛は軽く美羽達が野菜を切る様子を見た後に少しだけ離れ、土魔法で竈を作る。
竈の作成を終えた後、凛は予め作っておいた圧力鍋を取り出し、きちんと竈に嵌まるかのチェックを行う。
「凛さーん!」
「? どうかしたー?」
そんな時、エルマから必死な様子で呼ばれた為、凛は立ち上がってエルマの所へ向かう事に。
「目がっ、目がーーーーーっ!!」
「あー、玉ねぎを一気に切ったからそうなっちゃったんだね。エルマは目の痛みが落ち着くまで少し休んだ方が良いかも。イルマ、エルマを少し離れた所で休ませてくれる?」
「うん、分かった。」
「ごめんなさい…。」
そこではエルマが辛そうな表情で目を閉じながら涙を出しており、凛は苦笑いの表情で説明を行う。
凛は話の途中でイルマの方を向いてそう伝え、イルマはエルマを慰めながら、エルマは涙を流したまま元気なさげに調理場から離れていった。
「ふっ、ふふっ…。エルマちゃん、目が、目がって…。」
「…美ー羽ー?間違ってもそのまま滅びの呪文を唱えたりしないでよー?」
一方の美羽はエルマが叫んだ事がツボに入ったのか、右手に包丁を持ったまま必死に笑いを堪えており、下を向きながらそう呟いていた。
凛はエルマ達を見送った後、じと目で美羽の事を見ながら突っ込んでいたりする。
「わー!美味しそうな臭いだねー!」
「本当ー!この臭い嗅いでると更にお腹が空いて来るよ!」
「お腹空いた…。」
それから10分程でカレーが出来上がり、美羽、エルマ、イルマはカレーの臭いを嗅いだ後に目を輝かせながらそれぞれそう話す。
「所でマスター、さっきから何をやっているの?」
「うん、ちょっとねー…。」
「?」
今現在、カレーが入っている鍋は蓋が開いている状態となっているのだが、美羽は凛が先程から風魔法を使って何かしている事を不思議に思った様だ。
美羽が凛に尋ねてみるも、凛は誤魔化す様にして返事を行った為、美羽は首を傾げていた。
「おーい、凛ー!」
凛は竈の近くに10メートル四方のブルーシートを敷き、その上で美羽達と寛いでいた。
それから5分程経ち、火燐が先頭で手を振りながら叫び、皆と一緒に森からやって来た。
「何だこれ!変わった見た目をしちゃあいるが、滅茶苦茶美味そうな臭いじゃねぇか!」
「これはカレーライスって食べ物でさ、僕の国では国民食って言われてる位に人気がある料理なんだ。」
凛は美羽達も含めた皆をブルーシートの真ん中で円を作る様に座らせ、予め用意しておいたカレー皿にカレーライスを盛り付けて配っていく。
そして火燐がカレー皿を自身の目の前へと持っていき、臭いを嗅いでかなり興味を示した様子で話した為、凛は配膳を行いながら笑顔で答える。
「…そこに座ってらっしゃる貴方も、僕達と一緒にカレーを食べませんか?」
「あ、私の事はお構いなく~。」
『(誰!?)』
そして凛は一通り配膳を終えた後、ブルーシートの端っこにちょこんと正座している女性のエルフにそう尋ねる。
エルフは笑顔で右手をひらひらと振る等してやんわりと断った為、凛以外の一同は困惑した様子で心の中で突っ込みを入れる。
「貴方がここにいると言う事は、このカレーの存在をご存知と考えて良さそうですね。」
凛は右手に持ったカレーライスをすっと自身の前に掲げ、自信ありげな表情で女性に向けてそう話すのだった。