366話
凛達はお昼前に合流して昼食を済ませた後、帝都から600キロ程北東の位置にあるソルヴェー火山へとやって来た。
ソルヴェー火山は大陸の北東部にある魔素点で、度々起きる噴火により溶岩が近隣へ流れ出たり、或いは塊となって飛んで来たりする場所だ。
そしてその溶岩には様々な鉱物が含まれており、鉄等の鉱物以外にも僅かではあるがミスリルや火鉱石が入っている事もある。
その為、ソルヴェーは危険な為近付かない様にと推奨されてはいるものの、冒険者や商人等が小遣い稼ぎとして火口から離れた地点で冷えた溶岩を採取していたりする。
凛達が今回ソルヴェーへやって来たのは、以前火燐が帝都でアレックスを助けた際に商業ギルド本部へ戻った後、しばらくした頃に商業ギルドマスターが火鉱石を多く含んだ溶岩を火燐に見せた事が切欠となる。
火燐がその溶岩に興味を示した事で(ギルドマスターを含めた商業ギルド員やポールから)ソルヴェーの話を聞き、すぐに調査と称してソルヴェーへと向かう。
そして向かって来た魔物達を蹴散らしつつ、地上や空中の様々な角度からソルヴェーを軽く見て回ったり、流れている溶岩に触れたりしていた。
それから少しして火燐はふとした時に火竜が地上から飛び立った事に気付き、急いでその火竜がいた(噴火口から離れた位置にある)所へ向かうと、横に空いた穴からソルヴェーの中に入れる事が分かった。
火燐はユリウス達の歓迎会の際に嬉しそうな様子でソルヴェーへ本格的な調査をしに行こうと凛へ伝えると、そこにいた(暑いのが苦手な)雫から信じられないと言わんばかりの表情をされてしまう。
それから火燐と雫の2人で口喧嘩が始まってしまうのだが、結果として雫以外の者達がソルヴェーに興味を示した為、少し落ち着いたら行こうと言う事になった。
雫はこれに納得いかなかったのか、火山全体をアブソリュート・ゼロで凍らせようか等と物騒な事を話した為、すぐに全員から止められていたりする。
因みに、今回のソルヴェー火山探索のメンバーは凛、美羽、火燐、翡翠、楓、ステラ、アレックスの7人となった。
昨晩再び火燐からせっつかれた為にソルヴェーへ行く事になったのだが、今回は火山で危険だからと言う事でシエルは昼食を済ませた後にお留守番となった。
シエルは現在、屋敷の屋根で横向きの紫水達や大の字で仰向けになっている藍火と共に、仲良く日向ぼっこを行っている。
垰はソルヴェー火山の探索を楽しみにしていた火燐とアレックスとステラに気を遣ったのか、ジラルドの商業ギルド本部近くに建てたホズミ商会にて対処係として残り、リーリア、ヤイナはナルやルルと一緒に帝都を散策する事となった。
それと朔夜と骸は溶岩に落ちても大丈夫ではあるが、フィリップ達やシャルル達の相手をすると言う事でまた今度に。
「…よっと。」
ソルヴェーに到着してすぐに火燐は右手を挙げ、そう言いながら自身を中心として半径10メートル程の範囲で、赤い半透明の障壁の様なものを展開した。
その障壁は熱さだけでなく、飛んで来る溶岩を防ぐ効果がある。
「これで暑くはならねぇとは思うが、調子に乗ってオレから離れるんじゃねぇぞ。凛達は溶岩に落ちてもかなり熱いで済むっちゃ済むが、流石にステラとアレックスは溶岩に落ちたら終わりだからな。お前らは特に気を付けて進めよ?」
「うん、分かってる。」
「ああ。俺達は今回、戦闘に参加しないで見てるだけだな。」
火燐は右手を下ろしてから皆を見た後にステラとアレックスを見て話すと、2人は深く頷いて答える。
「ああ、それが賢明だ。…と言う訳でオレも戦闘に参加出来そうにないから、戦闘は凛達に任せるわ。」
「分かった。」
「はーい♪」
「はーい!」
「分かりました…。」
火燐がやる気の表情で頷いた後に凛達の方を向き、肩を竦めて話す。
凛達はそれぞれ答え、皆で一緒にソルヴェーへ向けて歩き出した。
10分後
凛達は歩き出して5分程でソルヴェーの入口が見える位置に来たのだが、それまでおとなしかったワイバーンや火竜が一斉に襲い掛かって来た。
凛と美羽は武器を構えて凛が隊列の前、美羽が隊列の後ろへと移動し、それぞれ前や左右、それと上空へ向けて幾つもの飛ぶ斬撃やディメンションスラッシュを放っていく。
「…数体いたワイバーンと火竜はすぐに倒し終えたが、まさか一帯にいた岩スライムが一斉に動き出すとはな。」
「けど何故か、凛くんや美羽ちゃんが残した沢山のディメンションスラッシュに次々突っ込んで行くんだよね。なんだろう、岩が自動的に真っ二つになっていく作業を延々と行っている感じって言えば良いのかな…?」
「こんなん初めてだし正解が分からねぇな…。」
先日火燐が訪れた時は岩スライムはじっとして動かなかったのだが、何故か空中に放ったディメンションスラッシュに対抗意識でも燃やしている様だ。
次々に空間の切れ目に突っ込んでは真っ二つにされるを繰り返していった。
その為火燐が不思議そうな表情で呟いたのだが、翡翠が何とも言えない表情でそう話し、火燐も複雑な表情となって再び呟くのだった。