361話
凛達はポータルでジラルドの正面入口の前へやって来たのだが、そこにあったのは城塞の様に白く、高さ20メートルはある土壁だけだった。
そして凛達は現在外にいる事で見えなかったのだが、ジラルドの内部は6割程を埋める大きなT字の形をした屋敷があり、空いた空間を埋めたり1人1人を管理する目的でなのか、土壁や屋敷に沿って非常に多くの檻が存在していた。
その檻の外側部分にある城壁の様な高い壁の上は通路となっており、ブンドールの私兵達はその通路を用いて奴隷達の事を見張っていた様だ。
凛達は正面からブンドールの屋敷に入り、簡単ではあるが左右にある奴隷達が過ごしていた檻等を見る事にした。
しかし屋敷から出て見える範囲だけでも所々に乾いた血の跡があった為、凛達は惨いと思ったと同時に、普通の人は1度ジラルドに入ったら2度と出られなそうな雰囲気を感じた様だ。
ここで過ごして来た人達の事を思ったのか、一様にして悲しい表情となった。
一応ジラルドでは屋敷を境として屋敷の東側と西側で男女が区切られていたのだが、雫達が解放しに来るまでは奴隷全体の4割程いる男性は東側で力仕事、残り6割程の女性が西側で(色々な意味を含めて)兵士達の世話や屋敷の手入れや食事を行っていた。
「…何と言うか、物凄く大きな屋敷以外は監獄みたいな所ですね。」
「ジラルドはブンドールが自分の為に興したと言っても過言ではないからな。(人数的に)都市と呼ばれてはいるが、ほとんどが自分達が住む屋敷と奴隷を住まわせる為の檻で出来ている。…そうだな?クリスティーンよ。」
「はい…。私は死んだ後も数年間ここの様子を見てきましたが、酷いなんてものではありませんでした…。」
凛が辺りを見回した後に複雑そうな表情となって話すと、ゼノンがその様に返事を返した後、紅葉が甦らせた者の代表で説明の為に一緒に来た女性…クリスティーンの方を向いて尋ねる。
クリスティーンはゼノンの問い掛けに、俯きながら悲しそうに返事を返した。
クリスティーンは年の頃が18歳位。
身長167センチ位で、少しオレンジがかった黄色い髪色をウェーブにした髪型をしている。
クリスティーンは元子爵家令嬢だったのだが、5年程前にブンドールから目を付けられた事が原因で家が借金まみれとなり、借金の形としてブンドールに買い取られてしまう。
そしてジラルドに来て1年もしない内に苦痛に耐えかねて亡くなったのだが、紅葉の手によって上級吸血鬼として生まれ変わる。
クリスティーンは同じアンデッドとして頂点にいる骸やクロエを尊敬し、同じアンデッド仲間19人や移動して来た人達を纏める代表となった。
「…見ていてあまり良い気分はしませんし、時間もあまりないですので作業に移らせて頂きますね。クリス、嫌な思いをさせてごめんね?美羽、楓、垰、始めようか。」
「いえ…。」
「はーい。」
「「はい…。」」
凛は少し悲しくなって来たのか俯きながら話すと、クリスティーンや美羽達も少し元気なさげに返事を行って作業に取り掛かる事にした。
アレックスを含めたゼノン達や雫と翡翠、それとクリスティーンにはジラルドの外で待って貰い、凛が屋敷の中心部から広がる様に、美羽達が外側から内側に向けて作業を行い、1時間程でジラルド全体を更地へと変えた。
それから凛達はゼノンの元へ向かい、普段どう言った感じでジラルド周辺は人が流れるか、商店等はどこにあると利便性が高いかを皆に尋ねる。
これにゼノンは帝都から王国へ抜ける部分が最も人の通りが多い事を告げた為、それから話し合いを行ってジラルドの東西部分に商店や宿等と言った建物を建て、中心部にホズミ商会ジラルド支部を建てる事が決まった。
午後4時頃
ゼノンが少し土地を拡張しても良いとの事で30キロ四方程の面積に広げ、(東西の箇所が大きめではあるが)東西南北の4ヵ所に入口を設けた。
そして東門から西門までの通りをメインとし、そこを中心(といってもポツポツとだが)に一般的な宿や商店等を建て、北や南にも少し建物を建てた事でひとまず完成として帝都に向かう。
午後5時前
凛達は帝都の南から西にかけてあった極貧層を更地にした後、端と端に商店を2ヵ所と喫茶店とレストランを建て、残りの北と東部分も同様にした。
そして中心に近い西部分に宝石店の建物を、北部分に高級レストラン風の建物を、南部分に高級料亭風の建物を建てて完了とした。
それと並行して鬼蜘蛛達が獣国王都へ向かい、商店や喫茶店や粉もの屋、それと高級料亭を小さくした様な寿司屋やビュッフェ式のレストランを建てていた。
それらは先程紅葉が領地へ戻った際に鬼蜘蛛達へ伝えて貰い、凛達の作業が終了する少し前に念話で終わったとの報告を受ける。
「ふぅ…これで作業は終わりになります。」
「感謝する。…凛様方が次々に建物を建てた事で錯覚しそうになるが、我々がこれ程の建物を建てようとなった時にどれ位の日数が必要になるやら…。それに、果たして同じ物が出来るのかと言われたらかなり怪しい所ではあるな。」
「ですね。こればかりは慣れた僕達の方が有利ですから仕方ないかと。」
「そうか…。しかし良いのか?こちらから頼んでおいてなんだが、凛様達が得た売上の内の2割も譲らなくて良いのだぞ。」
凛は本日最後として高級料亭風の建物を建てた後に溜め息をつき、後ろにいるゼノン達へ向けてそう伝える。
ゼノンは凛に感謝を述べた後に料亭の建物へ向かい、複雑な表情を浮かべて外壁を触りながらそう言うと、凛は苦笑いの表情で返事を行う。
これにゼノンは頷き、複雑な表情のままで凛へそう話す。
「大丈夫ですよ。僕の領地の上にあるサルーンと言う王国の街…あ、今は発展途上とは言え都市か。都市サルーンでも売上の2割を納めさせて貰ってますし。」
「そうか…。(城へ戻ったら、凛様から頂くお金の使い道を考えないとだな…。)」
「それよりもゼノン様、先程の件を宜しくお願いしますね。」
「ああ、勿論だ。早速帝都内の至る所に案内を貼らせよう。」
しかし凛が笑顔でそう言った為、ゼノンが内心そう思ったのも含めて答え、最後に2人が話した事で解散となった。
ゼノンは城に戻ってからすぐに使いの者を走らせ、凛の関係者に危害を与えようとしただけでなく近付いただけでも厳罰となり、勧誘や無理矢理引っ張ると言った行為も同様に処する旨を書いた案内を帝都のあちこちに貼らせた。
その後、明後日から受け取る予定となっている商店等の利益を極貧層があった所を含め、これからの帝都の発展に使う事を決める。
凛達も領地へ戻り、この日からアレックスも凛の配下となる事で(クリスティーン達も含めての)歓迎会を行い、この日を終えるのだった。




