35話
旭と紅葉、暁がオーガの集落の中央に着くと、他の建物よりも少しだけ豪華な造りをした、オーガキングが住んでいると思われる建物があった。
そしてその周りをオーガキングの側近の4体が守っているのだが、その内の1体のオーガが紅葉達に気付いたのかこちらを向き、敵が来た事を知らせる雄叫びを上げる。
雄叫びを上げた事で残りの3体も集まるのだが、側近のオーガ4体は共通して銀色に輝く軽装を纏い、腰にはバスタードソードを差していた。
「(それじゃ僕はこのまま南へと向かいますね。お二人共、ご武運を!)」
「ええ、貴方も頑張ってね。」
「ああ、また後でな。」
「(はい!)」
紅葉達は少し話や念話を交わした後、旭だけ真っ直ぐ南へ向けて走って行った。
「私が側近のオーガ達のお相手を致しますので、オーガキングは貴方に任せます…が、凛様が今回の戦いを見ていらっしゃいます。決して無様な姿を晒してはなりませんよ?」
「心得ております。まずは姫様…失礼、紅葉様が目の前にいる(少し良い装備を身に纏った)オーガを倒す所からですね。」
「ええ。…それではあちらも準備が整ったご様子ですし、私は行って参ります。」
「はっ!」
紅葉と暁が話を行っている間に旭が走り抜けた事で側近のオーガの1体が旭の後を追おうとし、外の側近達がそれを抑えていた。
そして紅葉達が話を終える頃に側近の1体は旭を追うのを諦めてこちらを向いた為、紅葉はそう言って側近のオーガ達へ向けて優雅に歩き出し、暁は返事をして少し後ろへ下がる。
それから暁は立ったまま不動の構えを取り、紅葉は歩きながら右手で腰に差した鉄扇を2本共抜く。
そして紅葉は左手に颯、右手に圷で持ち替え、側近のオーガ達に臆する事なく軽い微笑みを浮かべていた。
紅葉の相手をするオーガは金級に近い銀級の強さになるのだが、例え小さな集落でもオーガキングの側近と言う為かプライドが高い様だ。
4体いる側近の1体が余裕の表情を浮かべている紅葉が気に入らないのか、大声で吼えながら紅葉がいる方へ走って来た。
紅葉はこれに対し、更ににこっと微笑みを浮かべて左手に持った颯を持ち上げ、魔力を纏わせた後に下へ真っ直ぐ振り下ろすと、1メートル50センチ程の大きさをした風の刃が生まれる。
その頃には既にオーガとの距離は5メートル程だったのと、オーガは見た事のない物が目の前に迫って来る事に驚きと動揺が重なってなのか、避けると言う行動が取れずにそのまま縦へ真っ二つにされて左右に倒れていった。
紅葉が生み出した風の刃はそのままオーガキングの住処へ真っ直ぐ進むのだが、その進行方向にいた他の側近は仲間が真っ二つにされていたのを見て怖くなった様だ。
3体のオーガ達が必死な形相で避けた事で風の刃がドガァッと音を立ててオーガキングのいる建物にぶつかり、そのまま貫通してどこかへ消えて行った。
すると建物の破壊された部分から、身長3メートル以上はあるオーガキングが右手に大きな斧を持ち、怒りの形相になりながら身を屈めて出て来た。
オーガキングは立ち上がった後に側近のオーガ達へ向け、お前達は何をやっているんだとでも言う様なかなり大きな怒号を飛ばした為、側近のオーガ達はオーガキングに怒られた事で身を竦ませていた。
そしてオーガキングは紅葉達に怒りをぶつけようとしたのか、走り出した後に近くにいた紅葉へ大斧を振りかぶる攻撃を仕掛ける。
しかしすぐに暁が紅葉の前に立ち、持っていた大太刀でオーガキングの攻撃を防いだ。
「お前の相手は俺だ、よっ!」
「グォア!」
暁は攻撃を防いだ後にそう言い、軽くつばぜり合いを行って攻撃を弾いた後に右足でオーガキングの腹に前蹴りを放った。
オーガキングは呻き声を上げて真っ直ぐ吹き飛び、そのまま自身の住処の建物へ突っこんで行った為、暁もオーガキングを追って住処へ向かう。
「さて、あちらも始まった様ですし、私達も再開する事に致しましょうか。」
「「「…!」」」
紅葉はそう言った後、再び側近達へ向けてゆっくりと歩き出した。
一方の側近達は紅葉が歩き始めた事でビクッと震えてしまうのだが、再度オーガキングから怒られるのが嫌だと思った様だ。
互いに顔を見合わせて頷き、紅葉へ向けて攻撃を仕掛け始める。
紅葉は側近達の攻撃を両手に持った鉄扇で悉く往なした為、側近達はこのままだと埒が明かないと判断する。
側近達は紅葉の正面や左右へ移動し、同時に攻撃を仕掛ける事にした。
これに紅葉は3方向からの同時攻撃に慌てる様子を見せる事なく斜め前方に跳び、10メートル程進んだ所で体勢を整える。
その後、右手に持った圷に魔力を込め、側近達へ向けてすっと前に突き出した。
すると地中から槍状に尖った土の塊が生え、側近達は首から下の至る所を貫かれてしまう。
側近達は身動きが取れない状態のまま、首だけをがくっと動かして息を引き取った。
オーガキングは暁から受けた前蹴りの影響で自らの住処に突っ込んでしまい、別な箇所にも穴が開いてしまった事で更に怒りが増す。
オーガキングは起き上がってすぐに近付いて来る暁の元へ向かい、大斧での横薙ぎ攻撃を放った。
ギィン
「…さっきもそうだったが、お前の攻撃は遅いし軽いな。」
暁はオーガキングに合わせて不動を同じく左へ薙いだ為、✕に近い角度でつばぜり合いの状態となる。
オーガキングは現在金級中位の強さで暁はそれよりも少し上な位の為、実は強さと言う意味ではあまり差はなかったりする。
しかしオーガキングは(今まで力任せでどうにかなった為に身体強化を掛けた事がなかったからなのか)ほとんど身体強化を掛けずに必死の形相を浮かべながら両手に力を込め、暁は身体強化を施しながら淡々とした様子で右手1本のみでつばぜり合いを続ける。
その後、10秒程つばぜり合いが続いてから暁が興味を失った様子でそう話し、オーガキングの攻撃を斜め右上へ跳ね返した。
オーガキングは攻撃が跳ね返された為に仰け反って隙が出来てしまい、暁はその場で軽く跳んでオーガキングの右頬に左の回転蹴りを放った。
オーガキングは再び蹴り飛ばされた事で壁に叩き付けられ、今の攻撃を受けて暁に勝てないと悟ったのか、武器を離して暁に対して命乞いをし始める。
「お前達はそうやって命乞いをして来た者達に対し、碌に話を聞かずに何体も殺したんだろうな…。」
暁は全く警戒を緩める事なくそう言うと、オーガキングはビクッと体を震わせ、その後命乞いが通じないと分かったからか再び攻撃を仕掛けようとする。
「一旦武器を離したのに、再び取らせて貰えると思ったのか?」
しかし暁は想定済みだったのかすぐに大太刀を構え、オーガキングの右腕を斬り落として隙が出来た所で首をはねて倒したのだった。