353話
それからニールと凛達は互いの自己紹介へと移るのだが、その間に凛達の近くにいた兵士の1人がフレイムスピアを放って来た。
その兵士は武器こそ破壊されてしまったものの無傷で、皇帝から与えられた命令を少しでも遂行しようとした様だ。
そしてそのフレイムスピアが骸のいる方向へ向かうのだが、それをシャルルが血の刃を用いて軽く跳躍しながら霧散させる。
シャルルとシャルロットの2人は骸に向けて攻撃を仕掛けた事にキレたのか、考えを兵達の無力化から殲滅する事に切り替え、一気に魔力を解放した。
それにアレックスは慌てた様子となり、アレックス以外の帝国組やディラン達兵士が驚いたり恐怖で震えたりするのだが、2人はそれらを無視し、こめかみにビキビキと青筋を立てながら更に魔力を解放する。
それからシャルルは大剣程に大きくした赤い刃を両手に、シャルロットは50本程の赤い針をそれぞれ生成した後、兵達に攻撃を仕掛けようとして前傾姿勢の構えを取る。
しかしその際に骸がEXブレードを使って後ろからフルスイングを行い、シャルル達を遥か彼方へと吹き飛ばした。
これにアレックスは安堵して凛達以外の者が呆然となった後、1分程でシャルル達が少しよろよろとした様子で地上に戻って来た。
それからすぐに骸はすぐに2人を正座させ、自分があの程度の魔法にやられる訳がない旨を含めた説教をし始めた事により、凛が苦笑いの表情を浮かべながら骸を宥めていた。
その為シャルル達は落ち込んだ様子となるのだが、ディラン達は(先程のフルスイングの件も含めて)骸がシャルル達よりも上の強さだと嫌でも理解する事となった。
その後、凛達はニールを加えて移動を開始するのだが、すぐにメアリーが骸に対し、先程はシャルル達が怖かったから抱き抱えて欲しいとわがままを言い出した。
どうやらメアリーはこの機を利用して、先程美羽が凛に抱き抱えられていた事の真似をしようとした様だ。
これに骸は困った様子を見せるも、シャルル達が迷惑を掛けたのは事実だと思ったからか、溜め息混じりでメアリーを抱き抱えた後、メアリーの指示で歩き始める事に。
ディラン達も一応メアリーを抱き抱える事は出来るものの、骸程平然とした様子では行えない上に精神が耐えられない為、別な意味で骸に対して戦慄していたりする。
帝都を移動する際は凛達が前でディラン達が後ろを付いて行くと言った感じで進んで行き、帝国城へ入ってからはアレックスとディランが先導する形で謁見の間まで案内して貰う事に。
兵士達は城に着いたのを切欠に解放されたのだが、一様にして安堵の表情を浮かべていた。
そして凛達は謁見の間へ案内されると、謁見の間の奥にある豪華な椅子に身長190センチ程で40代後半の見た目をした皇帝と思われる男性と、身長162センチ程で40台半ばの見た目をした皇后と思われる女性が座っていた。
「ディラン、これはどう言う失態だ…と追及したい所だが、メアリーよ。お前、良い歳して何をやっているのだ…。」
「何って、骸様に抱き抱えて貰ってるだけざーますー。先程はあーたの指示のせいで、あーしは心に傷を負ったざます。それを骸様に癒して貰ってるざますのよ。」
「はぁ…そうか。」
皇帝ことゼノンは追及する為に真っ直ぐディランを見ようとするのだが、未だに骸からお姫様抱っこをされているメアリーが嫌でも目に入ってしまった様だ。
ゼノンは呆れた様子でメアリーに尋ねると、メアリーは得意げな様子で返事を行った後に骸の首に腕を回した為、ゼノンは右手を額に当てて力なさげに話していた。
「「…。」」
「…。」
そしてその様子をシャルルとシャルロットはじと目で見ており、皇后ことオリビアはゼノンにお姫様抱っこをして貰った事がなかったからか少し羨ましそうにしていた。
謁見の間には他にも重鎮と呼べる者達が何人かいたのだが、跪いたのがディランだけだった事や、今や厄介者となったアレックスが戻って来た事もあり、少し怒った様子で凛達を見ていた。
それと、この場にブンドール達がいないのだが、ひとまずアレックスの問題が解決するまでの間は地下牢に閉じ込める事にした様だ。
「親父。これは一体どう言う事だ。」
「それはこちらの台詞だ。ディランよ、俺は逃げたアレックスの捕縛を命じた筈だ。それがどうしてお前が案内する事になっておるのだ?」
「…恐れながら皇帝陛下、私達では全く歯が立ちませんでした。アレックス皇子殿下もですが、私からすれば一緒にいらっしゃる方々は正直異常としか言葉が見付かりません。」
「そりゃそうだ。今回の凛達の中で1番下の位置にいる垰ですら、親父と同じ位の強さだからな。それ以上のシャルル達や骸は言うまでもねぇだろ。」
「そこまででしたか…。」
アレックスがゼノンに話し掛けるも、ゼノンはアレックスの事を無視して真っ直ぐディランを見て尋ねる。
ディランが下を向いたままそう言うとアレックスは当然とばかりに説明した為、ディランは隣にいるアレックスの方を向いて悲しげな表情となる。
それと、ディランは何気にアレックスの事を異常だと貶していたが、アレックスは褒め言葉だと捉えた様だ。
「俺が垰とか言う輩と同じ位の強さ?シャルルとか言う輩はそれ以上だと?アレックスお前、罪人になったからと皇帝である俺の事を馬鹿にしているのか?」
「事実を告げたまでだ。…それに、元々俺はこの国を継ぐつもりがなかったしな。」
「貴様…。」
これに右手の拳で頬杖をついていたゼノンが怒りの形相となってアレックスに尋ね、アレックスは負けじとにやりとした笑みを浮かべる。
その後、アレックスが肩を竦めて答えた事でゼノンが立ち上がり、椅子の横に立て掛けていた(ウェルズの物よりも上質とされる)灼熱の大剣を手に取った。
「おっと。」
ギィン
「ユリウス…貴様!」
「殿下はやらせねぇぞ。」
「一応ここまでは予定通りか。…ディラン、ここは危ねぇから凛達の所に戻ってろ。」
「分かりました。」
ゼノンは灼熱の大剣を鞘から抜いてアレックスに斬り掛かるのだが、ユリウスがアレックスの前に立ち、そう言ってミスリル製の刀でゼノンの攻撃を防いだ。
これでつばぜり合いの様な状態となるのだが、ゼノンは目を見開いて、ユリウスはゼノンよりも少し力が足りないからか苦しそうな表情となる。
そしてアレックスは少しだけ考える素振りを見せた後にディランへ離れる様に伝え、ディランは返事を返して凛達の元へ向かう。
「親父。卑怯だと思うかも知れんが、こっちは2人であんたに挑ませて貰う。」
「帝国の…更に言えば極貧層の明日の為にな。俺達2人で皇帝、あんたを倒すぜ。」
「かかかかか!小癪な。反対に返り討ちにしてくれるわ!」
アレックスはアイテム袋から取り出したミスリル製の刀を抜いて前にやりながら話し、ユリウスも同様の構えをしながら話す。
対するゼノンは笑い声を上げた後に左手を横に払いながらそう叫び、3人がぶつかる事になるのだった。