34話
小夜はオーガの集落の西側に着くと、そこにはオーガ2体とトロール1体が待ち構えていた。
そこにいたオーガ達は既に自分達の集落が何者かに攻撃されている事が衝撃音や悲鳴等で伝わっており、やって来たオーガは見た目こそ似ているものの見慣れない服装を身に纏い、両手にはそれぞれ短槍を持っている事で敵だと判断した様だ。
オーガ達は50メートル程離れた位置にいる小夜へ向けて走り出し、1番近くにいたオーガが右手に持った棍棒で小夜に右薙ぎ攻撃を放つ。
小夜はそれを右手の短槍で防いだ後、5秒程力比べの様にしてそのままの状態となる。
しかし小夜はそうしている内に他のオーガが自身の右方向から近付いている事が分かった為、左手に持った短槍を横薙ぎに払い、短槍の太刀打ち部分でオーガの右の横腹を打って吹き飛ばした。
小夜の右にいたオーガは攻撃しようとして棍棒を上に振りかぶった所なのだが、そこへ吹き飛ばされたオーガがぶつかる事で2体がXの字に重なった。
小夜はそのタイミングを逃さずに攻撃を仕掛けようとしたのか、右手に持った短槍を槍投げの構えに持ち替え、かなりの魔力を消費して身体強化を掛ける。
「ガァァッ(やぁぁっ)!」
小夜は短槍の周りにも魔力を纏わせて左足を前に踏み出し、唸り声を上げながらオーガの胸目掛けて短槍を思いっきり投げ飛ばした。
短槍はボッと音を立てて小夜の右手から放たれ、2体のオーガの胸を軽く貫通した後もしばらく真っ直ぐ飛び続けていた。
短槍はそれから森の木を何本か貫通した後、木にドゴォッと音を立てて刺さった事でようやく止まる。
オーガ2体は呻き声を上げながら両腕を前に出し、共に数歩歩いた所で前方に倒れていった。
「グォォォォォ!」
「…!」
小夜はオーガ2体が倒れる所を見届けている事に意識が向いていたのか、トロールが20メートル程前にいる事に気付かなかった様だ。
その為小夜はトロールの唸り声ではっとなり、オーガへ投げた事で失った短槍を回収するのをとりあえず諦め、残った左の短槍を右手に持ち替えてトロールへ臨む事にした。
「グォォッ!」
「…。」
トロールの速度はゆっくりではあるが、走りながら右手に持った棍棒を振りかぶって小夜に攻撃する。
小夜はそれをバックステップで避けた事で棍棒が地面に当たり、ドゴォッと音を立ててめり込んだ。
トロールはそこから更に1歩踏み込んで棍棒を右に薙いで攻撃し、小夜はしゃがんで避ける。
小夜は立ち上がりながら胸に短槍を突き立てるも、軽く刺さっただけでトロールを倒すまでに至らなかった。
「…。(駄目か。)」
小夜は内心そう思いながらその場で飛び上がり、右手に持った短槍を両足で挟む様にしてトロールの胸に足をやる。
そしてそのまま短槍を引っこ抜いてトロールの胸を足場にする形で跳び、10メートル程距離を取った。
しかしこれによりトロールはちょこまかと動く小夜に対して少し頭に来たのか、雄叫びを上げる等して先程よりも凶暴さが増す事になる。
トロールは小夜との距離を詰め、(先程は小夜の顔目掛けてだったが)少し下段の腰に当てる様にして左に棍棒を薙いだ。
小夜はこれを先程よりも低くしゃがんだ事で避け、ついでにトロールへと足払いをかけた後に右上へと跳び、再び10メートル程離れる事にした。
トロールは低い位置に攻撃を仕掛けた事で重心が前に向いた為、小夜が放った足払いをまともに受けてしまう。
これによりトロールはバランスを崩し、ドォンと音を立てて思いっきり顔面から地面に倒れる事となった。
トロールは10秒程時間を掛けて起き上がるも、今の攻撃を受けた事でかなり頭に来た様だ。
口を全開にした状態でガァァァと大声で叫んだ後、小夜の所へ向かいながら力任せに棍棒を振り回しては叫び続けていた。
「…!(今だ!…ふっ!)」
小夜はこれを好機と捉えたのか、先程のオーガの時と同じく短槍を槍投げの構えで持ち直し、トロールの口内目掛けて力一杯投げる。
短槍は吸い込まれる様にして真っ直ぐトロールの口へ向かい、貫通した後もしばらくそのまま飛んで行った。
トロールはそれから少しの間呻き声を上げるも、やがてゆっくり前方へ倒れる事となる。
旭が向かっている集落の南側は外の北側、西側、東側と比べて森にいる魔物が来やすいからなのか、オーガが4体とトロールが3体と言った感じで他の箇所に比べて守りが厚くなっていた。
しかし旭は集落が滅ぼされた時に怖くて隠れていた自分を恥じ、訓練や討伐は熱心に取り組む様になった。(他は性格故にと言うか、サボり癖があったりするが)
その結果、旭は紅葉、暁に次ぐ強さとなり、すぐにでも妖鬼へ進化出来るまでの状態になっていた為、これ程の数の敵がいても気負わずに済んだ様だ。
南側にいたオーガの1体は旭が向かって来る事が分かったのか、敵が来たぞとの意味で雄叫びを上げ、辺りに旭の事を知らせる。
するとどうやら旭の近くにある建物の陰にオーガがいたらしく、すぐに旭の目の前にまで走って来た。
そのオーガは旭の存在を認識して右手に持った棍棒で攻撃を仕掛けて来たが旭はそれを軽く右に避け、お返しとばかりに左の小太刀を逆手に持った状態でオーガの首を飛ばす。
「…。(まずは1体…!おっと。)」
旭は前を走りつつ横目で倒したオーガを見てから視線を元に戻すと、そこにはオーガ2体が並んで立っていた。
そして真っ直ぐ走って来る旭に向け、オーガ達が左右から棍棒を振り下ろす攻撃を仕掛けるも、旭は上に5メートル程跳ぶ事でそれを避けた。
「ガッ!(はっ!)」
旭は上に跳んですぐにオーガ達は必ずこちらを向くだろうと予測し、体と左右の小太刀に魔力を纏わせながら小太刀をそれぞれ逆手から順手に持ち替え、オーガ2体の頭目掛けて左右の小太刀を投げる。
すると案の定と言うか、オーガ2体は振り下ろした棍棒を持ち上げた後に旭を探そうとして空を見上げ、その時にはすぐ目の前にまで小太刀が迫っていた。
オーガ2体は何かが飛んで来た位にしか認識出来ずに絶命し、旭が投げた小太刀は2本共地面に突き刺さる事に。
旭は着地してから小太刀を回収し、地面に向けて振るって付いた血をある程度払って前を向くと、5メートル程前でトロールが走りながら棍棒を振り上げている所だった。
旭は慌てる事なく更に身体強化を行い、左の小太刀でトロールの攻撃を受ける。
トロールは自分の攻撃を受けると思わなかったのか目を見開いて驚いており、旭は右に移動しながら左の小太刀を滑らせるようにして棍棒をずらす。
その事で棍棒が空を切って地面に付いて隙が出来た為、旭はトロールの首目掛けて飛び上がり、左右の小太刀を首に突き立てた。
旭はトロールの首に刺した小太刀を抜いたと同時に少し距離を取ると、首から小太刀を抜かれた事で血が吹き出した。
そのトロールは首を押さえてもがいていたのだが、旭はこれで倒したと認識したのか次の敵を探しに走り出し、それから少しした頃にトロールは痙攣して動かなくなった。
「…!(捕まるもんか!)」
2体目のトロールは旭を捕まえてしまえばどうにかなると思ったのか、棍棒を持っていない左手で旭を捕まえようとして掴み掛かって来た。
それを旭は直前に少しバックステップを行って避けた為、トロールは空振った事でよろけた体勢となる。
「…。(はぁ、何やってるんだか…。)」
よろけた事でトロールの頭は低い位置に来ており、旭が手を伸ばせば届く距離にあった。
しかも旭から見たら隙だらけとしか言い様がなかった為、呆れ顔になりながら内心溜め息をつき、トロールの額に右の小太刀を突き立てて倒した。
その後すぐに3体目のトロールがやって来て武器を振り下ろし、旭はそれを左手の小太刀で往なす。
すると先程のトロールと同様によろけた為、旭はトロールの足を引っ掛けて前方に倒し、がら空きとなった後頭部に左右の小太刀を突き立てて倒した。
残ったオーガはまさかこんな一方的にやられるとは思っていなかったのか固まっていた為、あっさりと旭に首を落とされて倒される事になるのだった。