346話
「…こちらの方達が、私の事を助けに来てくれたの。」
「そうだったのねぇん。凛ちゃん…いえ、恩人だからこれからは凛様よね。凛様や美羽様達には娘を助けて貰い、何てお礼を言って良いか…。」
「皆さん、私なんかの為にありがとうございます。」
「「いえいえー。」」
10秒程経った後、ティナはマリアから離れてそう説明すると、マリアはそう言って首を左右に振る仕草も交え、申し訳なさそうな表情で凛に頭を下げ、ティナも申し訳なさそうにして謝罪を行っていた。
これに凛と美羽は揃って右手を振りながら笑顔で答えた為、翡翠、楓、垰の3人はそれを見てくすくすと笑う仕草を取る。
「ティナは昔から体が弱かったからな、大方あの野郎に人質とかにでもされてたんだろ。」
「やっぱりでしたか。マリアさん、ティナさん。今まで大変でしたね…。」
「「はい…。」」
凛達はマリア達が頭を上げるまで待った後、アレックスが説明してくれた事で凛は納得の表情で頷き、2人へ向けて悲しげにそう話し掛ける。
マリアとティナはそれぞれ悲しそうな表情となり、揃って返事を行った。
凛は先程マリアへ話し掛ける直前にサーチを展開し、(帝国城から1キロ程東に離れた)凛達がいる地点から北西に10キロ程離れた所にて、誰かを隔離して逃がさない様に10人以上の者達が配備されている怪しい建物を確認していた。
そして美羽達はアジトに入ってすぐにポータルを使って目標の建物近くに移動した後、素早く建物を鎮圧してティナを救い出してからポータルでアジトに戻って来たと言う流れとなる。
ティナは一応無事だったが、元々体が弱いのにも関わらずあまり良い介護をして貰えていなかった為、マリアが帝都を出た時に比べて少し弱った様子となっていた。
それとティナはスレンダーな体型ではあるが整った見た目をしている為、見張りをしている兵士から手を出されそうになった事があるのだが、手を出した後にマリアから追い掛け回されたくはないと判断されたのか無事で済んでいた。
一方のマリアは凛の領地にいる間、ライアンを追い掛け回す等と言った感じでハッスルしているイメージがあるのだが、夜に1人でいる時はティナの事を憂う母親となって過ごしていたりする。
「それにしても…。」
「親子なのに全然似てない…だろ?ティナは亡くなってしまった、冒険者の親父の方に似たんだよ。」
「そうだったんですか…。2人共ごめんなさい。」
「良いのよぉん。それにぃ、私にはライアン様がいるしねぇん。」
「お母さん、まだライアンさんの事を追い掛けてたんだね…。」
凛は親子なのに全くと言って良い程似ていない2人を見て、ティナは本当にマリアの子供なのだろうかと思った様だ。
そう言って尋ねて良いものか悩んだ様子を見せていると、アレックスが凛に説明を行う。
これに凛は申し訳なくなったのか2人に謝るのだが、マリアはそう言って体をくねくねとさせており、ティナはマリアを見て苦笑いを浮かべながらそう呟いていた。
「…前から思ってたんだがよ、ライアンって本当に失くなった旦那さんに似てるのか?」
「そうよぉん!ティナちゃんを見たら似てるって分かるでしょぉ?」
『(いや、全く…。)』
「あはは…母がごめんなさい。」
そこへアレックスが複雑な表情でマリアに尋ねてみると、マリアはティナを右手で指し示しながら自信満々にそう言い切る。
しかしティナはマリアと違って綺麗ではあるのだが、ライアンとは全然似ていなかった。
その為、ライアンの事を知っているアレックスやアイシャ達や凛達は内心そう思い、ティナも困った様子でそう話していた。
「ぉぉぉぉ…!」
「はぁ…。これが次の皇帝になるのかと思うと少し憂鬱だぜ。凛、後で支払うからよ、ゼリーの方のエクストラポーションを貰えるか?」
「分かった。」
ウェルズは未だに地面に倒れながら血を流して呻き声を上げており、周りにいる兵士達はそれ(凛達の和やかな様子を含めて)をドン引きしながら見ていた。
アレックスは溜め息をついた後にフランベルジュをアイテム袋の中へ入れて凛の元へ向かい、そう言って凛とやり取りを行った後、凛からパウチ状の容器に入ったゼリーの様な物を受け取る。
その容器にはエクストラポーションゼリーと記載こそされているものの、パッと見た感じではウィ○ーインゼリーだと言われても仕方がない見た目となっていた。
凛は先日、雫がシャルル達に掛けたハイヒールポーションと同じタイミングで、超級回復魔法エクストラヒール相当の回復力を持ったエクストラポーションも用意していた。
そしてハイポーションとエクストラポーションには飲む用と幹部に直接掛ける用の2種類を用意しており、飲む用としては先程アレックスが受け取ったパウチ状のゼリーを、掛ける用としてはR―○位の大きさに入ったペットボトルでとろみのある液体の物を用意していた。
凛はどうやら、飲む用としてパウチ状にしたのは持ち手を握れる事で調整しながら飲める様にし、小さな容器でとろみを持たせたのは少ない量でも効果の期待が出来、かつその場で複数人の回復を行える為として用意する事にした様だ。
ザンッ
「…ひっ!」
「兄貴、取引だ。腕の回復ついでに、兄貴が皇帝になる為の手伝いをしてやる。だから今後一切俺達の不利益になる様な事をしない、俺の言う事を素直に聞く…分かったな?」
「(こくこくこく)」
「よし!…そのまま動くなよ。」
「むぐっ!」
アレックスはフランベルジュではなく、腰に指していたミスリル製の刀を抜いてウェルズの目の前の地面に刺し、悲鳴を上げたウェルズを無視してにやりと笑いながら交渉を持ち掛ける。
ウェルズは黙ったまま何度も頷いた事でアレックスはにかっと笑い、地面から刀を抜いて鞘に収めた後にエクストラポーションゼリーの蓋を外し、そう言ってウェルズの上体を起こして飲み口をウェルズの口に突っ込むのだった。