345話
ギィン
ウェルズは相当頭に来ていたのか、アレックスに大怪我を負わせる…或いはこの場で亡き者にするつもりでいる様だ。
最初から魔力全開の状態で業炎の大剣を横凪ぎに放つのだが、アレックスはフランベルジュを斜め左下から右上に掬い上げる様にして斬り払いを行った事でウェルズの斬撃を弾き返した。
「ぐっ!?…馬鹿な、一月位前までは俺が圧勝だったと言うのに。」
「そりゃ、凛のおかげで中々に濃い体験をさせて貰ったからな。これでお前じゃ俺に勝てないって事が分かっただろ?」
「くっ、ほざぁけぇぇぇ!!」
「やれやれ…。」
この事に一旦距離を取ったウェルズは信じられないと言った表情となってそう話すのだが、反対にアレックスはにやりと笑いながら返事を返していた。
これにウェルズはムキになったのか叫び声を上げて再びアレックスに突っ込み、アレックスは面倒そうにそう言いながらも油断なくウェルズを迎え撃つ構えでいた。
アレックスは凛の領地で過ごした事で強くなったとは言え、それでも本来ならばウェルズにはまだ少し届かなかった。
しかしウェルズが私兵を連れて戻って来る直前にコーラ味のブーストエナジーを飲んだ事(アイシャ達やユリウス達はブーストエナジーの効果を知らない為不思議そうにしていた)で強さが底上げされた状態となっており、時間の制限はあるもののウェルズを上回る強さとなっていた。
「マリアさん、ひょっとしてですが、家族や知り合いの誰かが人質に取られてるとかではないですか?」
「…私からは何も言えないわぁ。」
「肯定と捉えさせて頂きますね。…美羽。」
「うん、分かってる。翡翠ちゃん、楓ちゃん、垰ちゃん。一緒に来て貰って良いかな?」
「もっちろん!」
「「分かりました…。」」
それからアレックスとウェルズは斬り結び始めるのだが、凛はマリアの元に向かって尋ねると、マリアはそう言って悲しげな表情となった。
これで凛は察したのか、そう話しながら美羽に促し、美羽がそう言って翡翠達に声を掛ける。
翡翠達はそれぞれ返事を行い、その後美羽と一緒にレジスタンスのアジトの中へと走って行った。
5分後
ウェルズは先程の骸との戦いでまだそこまで体力が回復していない上に、兵士達にレジスタンスのアジトへ向かう様に指示を出した後の(城から地下通路を通る事を含めた)移動は走ってだった事、それに最初から全開で攻撃していた事ですぐに息切れを起こしていた。
「はぁ、はぁ。…んの、クソ野郎がぁぁぁ!!」
その為ウェルズは肩で息をしていたのだが、格下だと思っているアレックスから良い様にされている事に納得がいかなかった様だ。
それまで業炎の大剣の先を地面に付けていた状態だったのだが、力を振り絞って業炎の大剣を構え直し、そう叫びながら右斜め上に斬り上げ攻撃を行う。
ギィィン
「クソ野郎はてめぇの方だろうがぁぁぁ!!」
ザンッ
「ぎゃぁぁぁぁあああああ!!腕ぇっ、俺の腕がぁぁぁ!」
それに対してアレックスは今回初めてフランベルジュに魔力を纏わせ、右凪ぎの攻撃を放った事で業炎の大剣を刀身の根元から切断し、そう叫びながら返しの刃でウェルズの肘から先を切断した。
ウェルズはその勢いで地面に倒れた後、横向きになりながら血が吹き出た事で悲鳴を上げ、戦いた様子で真っ赤になった両腕を見ていた。
「これで勝負は決まりだな。一応言っとくが、これでもこいつに対して少し手加減したんだよ。だが手加減しなくても良いってんなら…纏めてお前らの相手になってやるぜ?」
『…!』
「おっ、そりゃあ良いな。俺もミスリル製の刀ってやつを試してみたいって思ってたんだよねぇ。」
『………。』
アレックスは血を払う様にしてフランベルジュを地面に向けて軽く振った後、そう言ってフランベルジュに纏わせている魔力の量を増やした。
その事でフランベルジュの周りにある炎の火力が一気に上がり、炎はゴウゴウと音を立てて激しく燃え盛る様子となる。
アレックスは凛の領地に滞在していた最後辺りに火燐から炎の適性を上げて貰っているのだが、その事を知らない兵士達はアレックスが強くなり過ぎたとでも判断したのか、まるで恐ろしい物でも見たかの様な表情を浮かべてウェルズやアレックスの事を見ていた。
そこへ更にユリウスがアレックスに乗っかる様にして、アレックスの元へ向かいながらそう言ってミスリル製の刀を抜いてみせた為、兵士達は今の状態の2人を見て一気に戦意を喪失していった様だ。
兵士達は次々に武器を捨て、その場でアレックス達に平伏していった。
「ただいまー!」
「ティナっ!無事だったのねぇん!」
「お母さん!」
「はい。お母さんの所に行っておいで。」
「ありがとう!」
そこへ美羽が先頭でアジトから現れ、満足そうな表情でそう言った。
そして美羽は背中まで伸ばしたピンク色の髪を1本に纏めた、17歳位の見た目をした女の子を抱き抱えた状態となっている。
これにマリアは驚いた様子を見せて少女ことティナの元へ向かい、ティナもマリアの方を向いてそう叫んでいた。
そして美羽がティナを下ろしてそう伝えた為、ティナは美羽にお礼を言った後に少しゆっくりではあるが走り出し、やがてマリアと抱き合う形となるのだった。