344話
「義賊を語って帝都にいる貴族から強引に金品を奪い、それを帝都中にばらまく事で騒がせ続けたレジスタンスとやらも…ようやくこれで終わりだな。」
「謀反、ね。あんたらが帝都の人々…特に極貧層にいる人達にもう少しで良いから意識を向けてくれりゃ、(昔の人達を含め)俺達もわざわざここにアジトを構えてまで事を荒げる様な真似はしなかったんだがな。」
「黙れ。お前達はただ、このまま黙って城に連行されていれば良いんだよ。」
「んで、そうやって親父に取り入って褒めて貰い、俺を継承権から外して次期皇帝としての地盤を固めたいだけだろ…下らねぇ。そんなんだからお前は(帝都にいる人達からの)人気が全くないんだよ。」
「弟の分際でうるさいわ!!そう言うのは俺に実力で勝ってから話せ。まぁ、今まで1度も俺に勝った事がないお前に言うのは酷だろうがな。」
ウェルズは壁伝いに進みながら満足げな様子で話すのだが、ユリウスが不服そうな表情で答えると、ウェルズは一転して無表情となりながらそう言った。
これにアレックスが吐き捨てる様にして話した事でウェルズは激昂するのだが、すぐに嫌らしい笑みを浮かべて得意そうな様子でアレックスにそう伝える。
そしてウェルズの左右や後ろでは、ウェルズと一緒にやって来た私兵達が同調する様にしてへらへらと笑っていた。
どうやらウェルズ達は、アレックスがウェルズに負ける姿を何度も見ているからか、凛達やユリウス達が近くにいる事もあって、挑発しても乗らずに悔しそうな表情を浮かべて引き下がるとでも思っている様だ。
因みに、先程アレックスはウェルズに人気が全くないと言っていたが、これはウェルズが父であり皇帝であるゼノンの機嫌ばかりを取る事、自身が手柄を挙げたいが為に(現在武具を作れるだけ作って国力を高めている状態な為却下されているが)王国へちょっかいを出そうと、ゼノンへ向けて何度も進言している事が主な要因となる。
ウェルズは自分の事を持ち上げてくれる私兵以外の者達を大事にせず、自分の手柄の為に平気で敵地へ向かって死んで来いと言える性格である事は、帝都内で有名な話となっている。
その為帝国城へ通っている貴族や兵士達は、ウェルズが手柄を得る事だけの為に帝都や帝国の人達を徴集するのではないかと判断し、それを知人・友人・家族へ伝えた事でウェルズの人気は皇族の中で最低となっている。
勿論帝都は冒険者を含め、荒くれ者の比率は他の国と比べて高いが、それでも帝都全体の2割程しかなく、しかもそのほとんどは皇帝ゼノンや親しみやすいアレックスへと意識が向いている。
その為、半ば引きこもり気味の性格の持ち主ではあるが、城から少し離れた位置にある国立図書館と城とを往復する次男のニールにすら、ウェルズは都民からの人気が劣ると言う結果となっていたりする。
「…良いぜ。」
「…は?」
「だからウェルズ、お前と勝負してやるって言ってるんだよ。まさか、今更怖くなったから止める…なんて言わねぇよな?」
「…!当たり前だ。」
「分かった。それじゃ外に向かうから付いて来い…勿論マリアもだ。」
「…!…。(こくっ)」
しかしウェルズの思惑とは違い、アレックスが頷きながらそう言った事で呆けてしまった後、アレックスが説明を加えてそう話した。
これにウェルズはムキになった様子で頷き、アレックスはそう言ってちらっとマリアを見た後、入口へ向けて歩き出す。
マリアはそれまで俯いていたのだが、アレックスに声を掛けられた事で顔を上げ、頷いて歩いた事で凛達や私兵達も入口へ向かう事に。
因みに、ナルはかなりの面倒臭がりの性格ゆえ、アレックス達を見送った後にその場に残ろうとしていたのだが、美羽達が凛の後ろに付いた為に一緒に向かって行く事とった。
アレックスが先頭となって外に出た事でウェルズからの指示待ち状態だった城の兵士達が驚くのだが、アレックスはそれを無視し、ウェルズと少し距離を取る形で向かい合う。
「凛、火炎の大剣を使わせて貰うつもりだったんだが…気が変わった。本来ならもっと後で使うつもりだった…このフランベルジュで行かせて貰うぜ。」
「どうぞー。」
「キュッキュー(どうぞー)。」
「何だ…?変わった形をした剣だな。」
「…。(ウェルズは気付いていない様だが、殿下がわざわざ凛に了解を得る程の大剣だ。さっきのミスリル製の刀よりも間違いなく性能が上なんだろうな。)」
アレックスはウェルズの方を見ながらそう言い、凛(ついでにシエルも)が返事した事で自分のアイテム袋から黒い鞘に収まった大剣を取り出し、鞘から大剣を抜いて刀身の内側が赤、外側が白銀色をした波打つ形状をした姿が露となった。
これにウェルズは不思議そうな表情を浮かべ、そう言いながらフランベルジュを見ていたのだが、ユリウスはフランベルジュを見入る様にしながらその様な事を考えていた。
ユリウスの思惑通り、フランベルジュは凛が用意した物で、アーサーのエクスカリバーやジークフリートのバルムンク、そしてステラのマルミアドワーズと同性能となっている。
アレックスはステラが凛から新たに3本の剣を得た事でご機嫌になった事を羨ましがった為、見兼ねた凛がフランベルジュを差し出す。
しかしアレックスはまだ実力が伴わないからと言ってこれを断るのだが、凛がお守り代わりにと言う事で渡して来た為、渋々受け取ったものの今までは使わずにいた様だ。
「(まぁ、アレックス程度が使う物だ。単に変わった見た目と言うだけで大した事はないだろうな。)…どうした?昔みたいにそっちから掛かっては来ないのか?」
「ああ、もう俺がお前に負ける事はなくなったからな。せめて先手位はくれてやるよ。」
「貴様…!実の兄に向かって先程から呼び捨てにしたりお前お前と…いい加減頭に来たわ!覚悟しろ!!」
ウェルズはそんな事を考えた後、今までの様にアレックスが向かって来ない事を不思議に思ったのかそう尋ねる。
しかしアレックスが肩を竦めて話した事で怒りだし、そう叫んでアレックスに向かって行くのだった。




