343話
「そう言えば、どうしてユリウスはウェルズ様と一緒にいたの?」
「ん?ああ、昨日の晩に殿下から今日の朝に城に着くって聞いてたんだよ。だから今朝の内に城に忍び込んでな、ウェルズ達が移動を始めてすぐに兵士の1人と入れ替わったんだ。本物の兵士は今頃おねんねって訳さ。」
「成程…。」
「………。」
通路を移動中、凛は前方にいるユリウスと話を始めたのだが、アレックスはユリウスと同様に、自分の事も呼び捨てにして欲しいと思った様だ。
2人の事を羨ましそうに見ていた。
5分後
「さ…着いたぜ。」
「ん?あ、ユリウスー、帰って来たんだねー。お帰りー。」
ユリウス先導の元で一行は木の扉を抜けた先に8畳程の広さを持つ部屋へと出たのだが、そこには低い身長の女の子が左の頬を机につける形で寝そべっており、浮いた足をぷらぷらとさせていた。
そして女の子は寝そべったまま、ういーっすとでも言いたそうな感じでやる気なさげに左手を挙げ、やはりやる気を抑えた様子でそう話す。
その少女は小人族だからと言うのもあるのだが、見た目が8歳程で身長が100センチ程しかなかった。
しかしその少女は金級冒険者をやっていると同時に、レジスタンスのサブリーダーを兼ねていたりする。
そして同じ金級の強さを持ち、自身とそう変わらない身長であるキリングラビットの毛皮を服の上に纏っており、フードの部分を下ろしているからか群青色のツインテールが机の上に乗っていたり、或いは机から垂れ下がっていたりしていた。
「…む。」
「…むむっ。」
「「………。(がしっ)」」
「ボクは美羽だよ。」
「あたしはナル!美羽、お話しようよお話ー!」
「(くすくす)分かった。翡翠ちゃん、楓ちゃん、垰ちゃんも一緒に話そ♪」
しかし少女ことナルがユリウス、アレックス、凛に続いて入って来た美羽…特にツインテールを見たからかそう言ってがばっと起き上がった。
美羽の方も梓以外でツインテールを見た事がなかった為、そう言ってナルの方を見た後に近付いて行く。
そしてナルと美羽は5秒程見つめ合った後にナルがすっと椅子の上に立ち、2人はがっしりと握手を交わし、互いに自己紹介を行う。
それからナルは椅子の上に乗って握手をしたまま、空いている左手で机をバンバンと叩いた後に美羽にそう言い、美羽はくすくすと笑ってそれに答える。
その後、美羽は翡翠達を招き、翡翠達もそれに答えた事でガールズトークが始まった。
「なんだありゃ…。」
「あー…多分だけど、2人共似たような髪型だし、親近感が湧いたとかじゃないかな。」
「そう言うもんか…。あ、親近感と言えばなんだが、ユリウス、昨晩食料やらを渡した中にミスリル製の刀があっただろ?ユリウスに似合うと思って買ったやつだから使ってくれて構わないぜ。」
「刀…?ああ、変わった剣の事か。それならあそこに立て掛けてある。大層な値打ちもんだから間違って入れたのかと思ったが、くれるってんならありがたく貰っとくぜ。…へぇ、こいつはすげぇな…ん?殿下、今、この刀を買ったって言わなかったか?」
「凛の領地で売られてるんだよ。最近になってアダマンタイトを混ぜたアズリール(シリーズ)ってのも売り出したんだとさ。」
「…確かに、凛が住んでる所は死滅の森の中にある位だしな。本気で挑もうとするなら普通に売られていたとしても納得は出来る、か。」
アレックスはいきなりガールズトークが始まった事を目の当たりにした為か複雑な表情でそう話し、凛が苦笑いの表情を浮かべて説明を行うとアレックスは頷いた。
それからアレックスは思い出した様にしてユリウスの方を向いて言うと、ユリウスは部屋の一角の方を向いてそう話した後に刀の元へ向かう。
そしてユリウスはミスリル製の刀を抜いてまじまじと見ながら話した後、アレックスの方を向いて尋ねた。
アレックスは頷いて答え、ユリウスは納得の表情で再び刀を見ながらそう話す。
10分後
「ん?そういや忘れていたが…マリアと兄貴はどこ行った?」
「あれ?本当だ…。」
凛達は家を改造したアジトにて話をしていたのだが、アレックスが再び思い出した様子で辺りを見回しながら尋ねる。
凛がそう言ってサーチを展開してみた所、少しだけ離れた地下通路にウェルズとマリアを含めた50人程、それと(通った位置で大体の場所が特定されたのか)帝国城からこの家に向けて200人程の兵士が向かっている事が分かった。
「あー、地下の通路や地上から兵士が沢山来てる。どうやら、マリアさんはウェルズ様のスパイだったみたいだね。」
「マリアがスパイ…?だからか。凛の領地から帝都へ向けて帰っている時、たまに寂しそうな表情を浮かべる事があると思ってたんだよな。」
凛が少し悲しそうに言うと、アレックスも同様に悲しげな様子で話した。
バァン
「まさか…城の地下がこんな所に繋がっていたとはな。アレックス、それにユリウス。2人共以前から疑わしいとは思っていたが、お前達を謀反の罪として城に連行させて貰うぞ。」
「………。」
地下通路から真っ先にやって来たウェルズが右手で扉を開けながらそう言い、その後ろではマリアが寂しそうな表情で立っているのだった。