33話
凛達はポータルでの移動の後に使用したポータルの回収を行い、揃って移動を始める。
そして少し早足で歩く事5分、凛達はサルーンの街から南南東の方角に位置し、(死滅の森に入ってからを含めて)直線距離で4キロ程の所にあるオーガの集落の北側まですぐそこの茂みにいた。
「もうすぐ着くよー。ナビの情報によると、オーガの集落は1キロ四方位の広さで、ボスであるオーガキングは集落の真ん中にいるんだって。そのオーガキングを4体の側近のオーガが守ってるみたい。他にも集落内にはオーガが12体と、トロールって言う魔物が5体いるって感じかな。それと、ゴブリンキングの時にいたグレーターゴブリンはいないみたいだ。これは集落の外に応援を呼ばれる事は薄いと考えて、攻撃に専念して良さそうだね。」
凛は少し声を抑え、皆へそう説明した。
トロールは身長3メートル程の巨人だが同じ巨人の魔物のサイクロプスとは違い、でっぷりとしたお腹を持っていてかなり太った体格をしている。
頭がかなり悪く乱暴者な性格なのだが、かなり太っている事もあってか物理攻撃が効きにくい。
その為厄介とされている、銀級上位の強さを持つ魔物だ。
「(オーガの集落の方向ではないんだけど、少し気になる存在が割と近くにいるんだよね。)…リンクを通じて皆に魔力を供給し続けるから、本気でぶつかる為にも最初から強めに身体強化して大丈夫だよ。そして皆で勝利のお祝いを兼ねてお昼ご飯を食べよう。それじゃ…紅葉、暁、旭、月夜、小夜。頑張ってね。」
「「はっ!」」
「「「(はい!)」」」
「…ガ?」
凛は死滅の森ではなく、平原の方に意識を向けてその様な事を考えつつ、紅葉達にそう言って激励を送る。
しかし紅葉達が行った返事により、近くにいたオーガに気付かれた様だ。
オーガが警戒した様子で凛達に近付いて来た。
「ゴァッ(行くぞっ)!」
旭がその事にいち早く気付いたのか、右手の小太刀を構えて身体強化を発動して身体能力を上げ、近くのオーガの元へ素早く動いた。
「ガッ…ガァ。」
一方の凛達に向かっていたオーガはガサガサとした音が近付いて来る事で侵入者だと判断したのか、集落にいる仲間に大声で知らせようとする。
しかしそれよりも旭が素早く動き、小太刀を用いた事でオーガを真っ二つにして斬り倒した。
そして旭がオーガを斬り伏せて前に進んだ為、紅葉達もこれを合図に走り出した。
旭を先頭としてすぐ近くを紅葉と暁が追うのだが、紅葉の後ろを小夜が、暁の後ろは月夜が走る形となっていた。
そして旭は走りながら、前方にいたオーガ2体を斬り伏せる。
しかし、この内の1体が断末魔の叫びを上げた事が切欠となり、集落内にいるオーガキング達に凛達の存在が気付かれてしまう。
建物内部にいるオーガキング以外の者達が紅葉達に意識を向ける中、旭はそのまま中央を抜けて集落の南に、月夜は途中から東方向へ、同じく小夜は途中から西方向へとそれぞれ別れて行った。
そして紅葉達は3方向に別れる前、声を揃えてご武運をと話していた。
やがて集落の中心付近に近付いた際、旭はそのまま走り抜けて行ったのだが、紅葉と暁の2人はオーガキングがいる中心付近で止まる。
「僕達もオーガキングがいる中央へ向かおうか。」
『(こくっ)』
「藍火は紅葉達がどういった動きをするか見ておく様にね。見る事も大事な勉強だよ。」
「分かったっす!」
旭達が見えなくなった所で凛がそう言うと、美羽達は頷いた事で一行は軽く走り出した。
そして走り始めて少しした頃に凛が斜め左後方にいる藍火の方を向いて話し、藍火は元気良く返事を返して共に集落の中央へ向かって行く。
月夜が向かった東側には、オーガが3体とトロールが1体いた。
月夜が東側に着く少し手前を走っていると、オーガの1体がすぐに攻撃を仕掛けるつもりで待ち構えていた。
オーガは真っ直ぐこちらへと走ってくる月夜に向け、持っている棍棒を振りかぶって攻撃するのだが、月夜はそれを少し右に移動した事で避ける。
すると棍棒を振り下ろした事でオーガの背後に隙が生じた為、月夜は後ろから薙刀を背中に刺し、刃を貫通させて倒した。
その様子を見ていたオーガ2体が、よくも仲間をと言わんばかりに月夜へ向けて吼えた後、100メートル程の距離を詰めて来た。
そしてオーガ2体は月夜の元へ着き、連携する様にして交互に月夜へ棍棒を振り回す攻撃を少しの間行うのだが、月夜は油断ない様子でそれらを避け続けた。
そしてオーガ2体が揃って攻撃するのだが、月夜は遅いわよと言って避けた後にオーガ2体の背後へ素早く回り、体を1回転させた勢いで薙刀を横へ大きく振りかぶった事で2体纏めて真っ二つにして倒した。
そして月夜がオーガ2体を倒してすぐにどすっどすっどすっと音を立て、トロールが肥えた体を揺らしながらやって来た。
トロールは体長が3メートル位はある為か、オーガが持っていた棍棒よりも大きい棒を持っていた。
そして棒の先にトゲ付の大きな鉄球の様な形をした物をぶら下げており、それを木の蔦で棒に繋げたモーニングスターの様にしていた。
トロールはモーニングスターの様な棍棒を右手で持って振り回して攻撃して来た為、月夜はその度に先程よりも距離を空けて避け続ける。
トロールは力が強い為か、月夜が鉄球の様な物を攻撃を避ける度にドゴォッと地面がめり込んだり、或いはゴシャッと音を立てて付近の建物を破壊していった。
そんな中、月夜はトロールからの攻撃の合間を縫って心臓部分へ向けて突きを繰り出したのだが、トロールのぶ厚い脂肪によって刃は通る事なくポヨンと音を立てて簡単に弾かれてしまう。
だがトロールは太っている事もあって攻撃の動きは遅く、それでいて単調だった。
その為、トロールは月夜の突き攻撃を弾いた事で隙が生じ、チャンスとばかりに攻撃を仕掛けたものの、月夜は余裕とばかりに避けた後にバックステップを行って距離を取る。
トロールはその事に腹を立てたのか、棍棒を両手で持って2メートル程飛び上がった後に空中で兜割りを行う様にして勢い良く棍棒を振り下ろした為、鉄球は月夜へ真っ直ぐ向かいながらかなりの勢いで叩き付けられた。
その衝撃によりドゴォォォンと音を立て、鉄球を中心とした半径5メートルの地面を抉らせる事に。
トロールは今の攻撃で勝ったと思ったのか、攻撃の反動により地面に突いてしまった右膝を地面からゆっくり上げようとしていた。
しかしそのタイミングで先程の攻撃を直前で大きくサイドステップして避けた月夜が(トロールが地面へと攻撃した事で起きた)土煙の中から現れ、そのままトロールの後ろを通り過ぎながら両足の腱をスパスパッと斬って行った。
その為トロールはバランスを崩して前のめりとなり、そのまま地面に両手と両膝を突くと言う四つん這いの構えとなってしまう。
月夜はその隙にはぁっと言いながら高さ5メートル程飛んだ後、落下しながら限界まで体と武器に魔力を最大にして纏わせ、トロールの背中から薙刀を激しく突き立てた事により倒したのだった。