336話
「(アレックス皇子…さっきは一気に今日で面倒事を終わらせて、明日から領地で遊ぶって言ってたのにね。)」
凛は内心苦笑いを浮かべてファイに返事を行いつつ目を閉じた後、ファイを通じて得た情報や記録を載せたサーチを展開する事に。
すると地下牢にいるファイから少し離れた場所にある広い部屋にて、皇帝や兄を含めた皇族、それと皇族を支える重役達全てが固まった位置に纏まってはいるが真っ赤で表示された。
「(…あー、アレックス皇子のお父さん…皇帝って言った方が良いか。皇帝達が赤で表示されてる。)」
これに凛は困った様子となって念話でファイにそう話す。
アレックスと藍火はファイに連れられる形で2日目以降も毎朝の朝食や訓練に参加しており、3日目からはアイシャが、その次の日からマリアと昔アレックスの世話係だったバダム(ただし朝食のみ)が参加する様になる。
そしてそれは当然、朔夜達が魔物の姿で手合わせを行う所も見る事になる為、アイシャ達は最初揃って呆然とした様子で魔物の姿となった朔夜や猛達を観ていた。
しかしアレックスが楽しんだ様子で観ていた事もあって、朔夜達の姿を見ながら少しずつ楽しむ方向に考えを変えていった為、先日レオン達が初めて来た際に同じ様に驚いていた時はちょっとした優越感に浸っていたりする。
「昨晩は1時間もあれば帝都に着く距離の所で夜営もした事だし、今日中にブンドール公爵や(ブンドール公爵が治めていた都市)ジラルドの扱いを片付けてやる。そんで今まで不在にしてた分、明日からは凛の領地で思いっきり楽しむ事にするぜ!」
やがて日にちが経ち、今朝の朝食の際にアレックスが満面の笑みを浮かべながらそう言ってかなりのやる気を見せていたのだが、どうやら知らない内に自らフラグを立てていた様だ。
アレックスは藍火とアイシャ、マリア、バダム、それと後ろ手を縛った状態のブンドール、カスメール、ウーバウの3人を連れ、謁見の間にて父親である皇帝を含めた者達へ事情を説明する。
アレックスは凛達が神輝金級の強さを持つ者が多い事を何度か説明に交え、その証拠として藍火の右腕をドラゴンの物へと変化させる所を見せたりもした。
しかし皇帝達はブンドールと言う厄介者を排除出来ると言う喜びやジラルドと言う都市を得られる事で頭が一杯なのか、アレックスの説明を途中までは話を盛った余興感覚で聞いていた。
「(はい。アレックス様が謁見の間で報告を行っていた際、ブンドール公爵の決闘までは皆様楽しんだ様子でいらっしゃいました。ですがブンドール公爵が負けた事でジラルドの統治権がマスターへ移ると伝えた辺りから皆様の表情に笑顔が消え、ジラルドにいらっしゃる奴隷の方々の扱いもマスターに一任すると伝えましたら激怒されました。)」
「(アレックス皇子を含めた帝国の人達の情報や、ブンドール公爵自身の人柄からして、奴隷の人達はこれまで酷く扱き使われてきたんだろうなと思ったんだよね。だからまずはこちらで奴隷の人達を引き取ってから、しばらくの間屋敷で休んで貰うつもりだったんだけど…。皇帝達は奴隷の人達をまだまだ働かせるつもりなのかな。)」
「(恐らくですが、マスターの仰る通りかと。それからはどなたがジラルドを治めるかで揉め始めました為、アレックス様はこれに焦れた様です。皆様にこれは既に決まった事だと告げまして、それから私達を連れて私室へと案内し始めました。それから少し経った頃に、アレックス様が召使いの方へ何か飲み物を持って来る様にと頼まれたのですが…。)」
「(その飲み物の中に睡眠薬が入っていたって事か。)」
「(はい。アレックス様から依頼された方が一旦別の方と接触された様ですが、すぐに紅茶を届けに来られました。ですがアレックス様は喉が乾いていらっしゃったのか、紅茶を受け取る事なく部屋の入口で立ったままカップへポットに入った紅茶を注がれた後にその場で一気に飲み干されました。しかし飲まれてすぐにその場に倒れそうになった所を召使いの方が支えたのですが、隠し持っていたナイフをアレックス様の喉元に突き付けられた事により、そのまま私達はアレックス様と一緒に檻の中へと捕らえられました。申し訳ありません、動きが怪しい事に気付いていた私がアレックス様を止めていれば、この様な事には…。)」
「(僕もまさか家族や身内から睡眠薬を盛られるなんて思わなかったからね。だからそこまでの考えに至らなかった僕のせいであって、ファイのせいとかじゃないから気にしないで。)」
「(マスター、ありがとうございます。ひとまずアレックス様を起こし…どうやら長男のウェルズ様がこちらへいらっしゃった様です。)」
「(アレックス様のお兄さん?何で檻に来たのかな?)」
「(分かりません。少し様子を見る事に致します。)」
「(分かった。)」
凛はしばらくの間ファイと念話でのやり取りを行っていると、アレックスと8歳離れた兄のウェルズが数人の部下らしき者を連れてファイ達が捕らわれている檻へとやって来た様だ。
ファイは凛との念話を一旦切り、様子を見る事にした。
ウェルズは身長188センチ程で見事なまでに引き締められた体をして上質な鎧を纏っており、真っ赤な髪色を短く刈り上げた髪型をしていた。
「先程右腕をドラゴンに変えた藍火とやらはお前だったな。何故ドラゴンである筈のお前が人の姿をしているかは知らんが…俺がお前の主になってやろう。」
ウェルズは藍火から真っ直ぐ正面の位置に止まった後、右手に持った黒い首輪の様な物をちらつかせながら、にやりと笑ってそう言うのだった。