328話
「…!このっ!」
凛は魔素点の中でディバインパニッシュメントを発動させた直後に離脱しようとしたのだが、左腕を魔素点に入れた直後に突っ込んだ腕全体を掴まれた様に感じた。
その事に凛は驚いてしまうのだが、すぐに天歩を用いて足元に足場を用意し、下半身に力を入れたと同時にディバインパニッシュメントを発動させる。
そして跳躍と魔法の発動の勢いでその場から離脱しようとするのだが、思っていたよりも抵抗が強かった為か腕の方が少し遅れる形で魔素点から弾かれてしまい、その後体勢を整えながら美羽達の近くへ戻される事となった。
「うぉっと!…あーびっくりした。(ディバインパニッシュメントを展開した衝撃で)左腕が吹き飛ぶかと思っちゃったよ。」
「マスター、大丈夫ー?」
「うん、どうにかね。けど…無茶をしただけの効果はあったみたいだよ。」
「んー…大分弱ってる?」
凛が少し驚いた表情でそう言いながら、衝撃で左手が少し痺れたのか軽くぷらぷらと振る仕草を取っていた。
美羽が少し心配そうに尋ねると凛は笑顔で答え、凛が視線を魔素点に移してそう話すと、美羽は魔素点の事を窺う様に凝視しながら答える。
美羽や凛の視線の先にある魔素点は球体あちこちに黒い煙を上げ、心なしか弱った様子を見せていた。
「恐らくね。…ところで、朔夜が美羽にしがみついてるみたいに見えるんだけど…どうかした?」
「あはは…朔夜ちゃん、マスターの魔法を見て怖くなっちゃったみたいなの。」
「ん。端的に言えば、朔夜が凛(の魔法)にビビった。」
「わ、妾はビビってなぞ…おらんのじゃ。」
「あー…さっきので驚かせちゃったんだ、ごめんね朔夜。今から魔素点に魔素喰いを試みてみるからさ、3人共こっちに来て僕のフォローを頼めるかな?」
「分かったー!」
「ん。」
「分かったのじゃ。」
凛は頷いた後、気になったのか魔素点から美羽の後ろに隠れている朔夜に視線を移して尋ねてみる事に。
これに美羽は苦笑いで答えて雫が澄まし顔で言い、朔夜は少しだけ腰が引けた状態で困った様子を見せて話す。
凛は苦笑いの表情を浮かべて朔夜へ謝った後、美羽達へ自身の元に集まる様に促し、美羽、雫、朔夜はそれぞれ答えて凛の元へ向かって行った。
「さっきに比べて大分勢いが弱くなっちゃってるみたいだね。これならボク1人で対処出来るかも。」
「…うん、そうだね。それじゃ今の内に(魔素喰いを)始めようか。」
3人の先頭にいる美羽と凛がそれぞれ白いオーラを纏わせて魔素点の元へ向かい始め、魔素点は近付けさせまいとして黒い包帯の様なものを凛達に伸ばすのだが、先程と比べて勢いが明らかに弱まっていた。
美羽と凛はそれぞれ黒い包帯の様なものの対処を終えた後に凛は魔素点の隣の位置に移動し、そう言って左手で魔素喰いを発動させる。
これにより魔素点は凛に魔素を吸われていくのだが、魔素点は凛を取り込むのではなく処分しようと判断した様だ。
最後の抵抗とばかりに魔素点全体から先を尖らせた黒い包帯の様なものを放出し、様々な角度から凛の事を串刺しにしようとして来た。
「マスターはやらせないよ!」
しかし美羽がそう言って、白いオーラを纏わせた状態で双剣と次元移動を用いてそれらを阻止し、その後も凛が魔素喰いを続けては美羽が黒い包帯の様なものを切断する流れを繰り返していった。
凛が魔素喰いを発動させてからすぐにアーウィン達が凛達の様子を見に来たのだが、凛は後は自分達だけでも充分だと判断したのか、雫だけをこのまま部屋へ残す事を告げる。
そして洞窟が崩れるかも知れない事を伝えた上で朔夜はアーウィン達を連れて外へ向かう事となった為、朔夜は頷いてアーウィン達を連れ、やや早歩きで凛達がいる部屋から出て行った。
5分後
「ディバインパニッシュメントで弱らせてたからか、思ったよりも大分早く(魔素点の)吸収が終わったみたいだね。…ん?あれはなんだろう?」
魔素点は凛の魔素喰いにより完全に消失する直前に、ビー玉位の大きさの黒い球の様なものを落とした様だ。
凛はそう話している途中で落ちて行く黒い球に気付いたのか、視線を魔素点があった所から黒い球へ移しながらそう言った。
直後
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
「…魔素点がなくなったからか、ドネグ湿原が維持出来なくなったみたいだね。僕達も急いで脱出しよう。」
「うん分かった!」
「ん。」
「…とその前に、今後何かの役に立つかも知れないし、|あれ(黒い球)も回収しておこうかな。」
洞窟全体がゆれ始めた事で天井から小さな石等が落ちて来た為、凛は天井や辺りを見回した後にそう言い、美羽と雫が返事を行って移動を始める。
しかしすぐに凛はそう言って後ろを振り返り、黒い球を無限収納に直して美羽達の後を追うのだった。