326話
「雫、朔夜お疲れ様。戦闘が終わったばかりで悪いんだけど…この上に2人を休ませて貰って良いかな?」
「ん。」
「…よっと、分かったのじゃ。」
凛は戦闘後、2人を労った後にマットレスを地面に敷き、その上に元に戻ったバンパイアロードとクイーンを休ませる様に促す。
雫は既にバンパイアクイーンを抱えている為返事をしてすぐに凛の元へ向かい、朔夜はバンパイアロードを抱き抱えて返事を返し、雫から少し遅れる形で凛の元に向かった。
その後、雫と朔夜はマットレスの上に仰向けの形でバンパイアロード達を休ませ、凛達はイクリプスドラゴン達と互いに自己紹介(朔夜と段蔵の龍の姿を含む)をし始める。
そんな中でイクリプスドラゴンは500年程、ストリゴイ達は300~400年程、デスナイト達は200~350年程洞窟内で暮らしている事、ついでに朔夜と段蔵が600年程生きている事を談笑を交えて話していたのだが、アーウィンはそれを頬を引き攣らせながら聞いていた。
因みに、魔素点はバンパイアロード達に与えた魔素を回復させようとしていたのか、談笑しながらも警戒をしている凛達に襲い掛かる事なく沈黙を貫いていたりする。
30分後
「ん、んん…?」
「あれ…?私…。」
そこへ仰向けに休ませたバンパイアロードとクイーンが目を覚ましたのか、それぞれそう言ってマットレスの上で上体を起こした。
2体共超速回復スキルにより体や内臓のダメージは回復したものの、回復に費やした魔力が多かった為か少しふらついた様子だった。
「2人共目が覚めた様だね。」
「お前ら…手加減してくれた朔夜達に感謝しろよ?そのおかげで、お前らは今もこうやって無事でいられるんだぜ。」
「…!皆様、申し訳ございませんでした!」
「私…あの黒いのに(意識を)乗っ取られて、正直ここで終わるものだと思ってました…。」
そんな2体の後ろから笑顔の凛とやや呆れた様子のイクリプスドラゴンがそれぞれ声を掛け、その後ろから美羽達もやって来た。
するとバンパイアロードがはっとなった表情でそう言って土下座を行い、同じく土下座をしたバンパイアクイーンが悲しそうにそう話す。
凛は2体を宥めてから話を伺った所、視界を通じて何が起こっているかは分かってはいたもののこちらからは何も出来ず、意識までも少しずつ乗っ取られそうになっていたとの事。
2体ともこのまま完全に乗っ取られるか朔夜達に倒されるかのどちらかだと思っていた為、まさか今もこうして体が自由に動かせる様になれるとは思ってもみなかったそうだ。
話を終えた2体からはそれまで持っていたギラギラとした野心がすっかり消え、反対にこのまま消え入りそうな位に沈んだ様子を見せていた。
「(ナビに調べて貰った結果)どうやらあの魔素点は少し特殊みたいなんだ。だから君達は魔素点から乗っ取られそうになったんだと思う。」
「「特殊…?」」
「うん。僕の世界に『蠱毒』って言葉があるんだけど、これは同じ容器…今回で言えばこの洞窟内で魔物同士を戦わせて、最後に残った強い者を手駒として乗っ取るつもりだった。」
「…恥ずかしくて今までお前らに言った事がなかったんだが、俺ぁ昔、あの魔素点に襲われかけた事が何度かあったんだよ。それでこの部屋は危険だと判断し、隣の部屋に移動してずっと過ごしてたって訳だ。あっちだと俺に魔物を向ける程度しか出来ないのか、それ以上の事がなくなったからな。」
「「………。」」
凛は魔素点を見上げながらそう言うと2体は元気なさげに答え、凛は2体の方を向いて頷く。
そして凛が説明を加えるとイクリプスドラゴンが補足する様に言い、2体は真剣に凛達の話を聞いているのか黙っていた。
イクリプスドラゴンはデスドラゴンとして生まれてからしばらくの間、居心地が良いとして魔素点のすぐ近くにいた。
しかしある日イクリプスドラゴンが充分に育ったと判断したのか、魔素点はバンパイアロード達の様に乗っ取ってイクリプスドラゴンの事を操ろうとした様だ。
イクリプスドラゴンが魔素点の近くでのんびりしていた所、魔素点から黒い包帯の様なものが伸びて襲い掛かられてしまう。
だが魔素点が想定していたよりもイクリプスドラゴンの方が力が強かったのか、イクリプスドラゴンが激しく抵抗した為に乗っ取る事は叶わなかった。
そしてイクリプスドラゴンは数日の内に2度3度と襲い掛かられた事で魔素点を警戒し、魔素点がある部屋から隣の部屋へと移ってしまう。
その後、イクリプスドラゴンはしばらく魔素点を警戒していたが、隣の部屋だと黒い包帯の様なものの射程外になる様だ。
魔物達をけしかける事はあっても、魔素点から直接襲われる事はなくなった。
「だからあの魔素点は自分の所へ戻って来させようとして、(プライドが高い)君達を生んだのかも知れないね。」
「「………。」」
「でも大丈夫。」
「「あ…。」」
凛がそう言うと、2体は黙ったまま揃って項垂れてしまう。
しかし凛が2体の前に移動してその場にしゃがみ、2体の頭頂部にそっと手を置いて優しくそう言うと、2体は声が漏れた後に安心した様な表情となる。
「魔素点が完全に君達を支配する前に、無事に元へと戻す事が出来たからね。それに…元々ここの魔素点を消すつもりではあったんだけど、こんなに危険な存在だと知った今、益々魔素点をこのまま残す訳にはいかなくなったよ。」
凛は2体に向けて笑顔でそう言った後に立ち上がるのだが一転して少し怒った様子となり、魔素点を見上げながらそう話すのだった。