325話
一方、朔夜と同様にカルネージバンパイアクイーンが向かって来た雫はと言うと
「グァガァァァァ!!」
「…遅い。」
「グォ?ガァァアアアッ!」
左手の先に60センチ程の赤い刃を生成したカルネージバンパイアクイーンが、吼えながら雫に斬り掛かって来た所だった。
雫はそう言って左に半歩避けた事で攻撃をあっさりとかわした為、カルネージバンパイアクイーンはえ?と言いたそうな表情で声を漏らす。
しかし着地してすぐに体勢を整えてバックステップで距離を取った後に自身の血液を纏わせた右手を何回か雫がいる前方へと振るい、飛ばした血液を鉄の様に固めて刃状にした。
「ん。ん。…お返し。アイシクルショット・ディケイド。」
「ギャァァァァ!!」
雫は淡々とした様子でカドゥケウスを用いて赤い刃を全て弾いた後、そう言ってアイシクルショット・ディケイドを唱えた事で、雫の前方に直径2メートル程の魔方陣が現れた。
その魔方陣から直径2センチ、長さが10センチ程の鋭利な氷柱が飛び出し、カルネージバンパイアクイーンの全身至る所にかすったり、何ヵ所か体を貫通した事でカルネージバンパイアクイーンは悲鳴を上げる。
アイシクルショットは氷系中級魔法の1つで、上から下に向けて降って来るアイシクルレインと違って真正面に氷柱を飛ばすものだ。
飛ばす時間はアイシクルレインと同じく5秒程で大きさも同じなのだが、雫は魔力を込めた事により通常のものよりも大きさや威力がかなり増した様だ。
「グルルルルル…。」
「ん。やる気がある事は良い事。…けど、周りをしっかり見ないと…。」
「ガ…?」
「…こうなる。」
カルネージバンパイアクイーンは太ももも撃たれた事でガクッと崩れるのだが、ぐぐっと力を入れて再び立ち上がった。
雫は満足そうにして頷いた後、そう言いながらカドゥケウスをすっと前に出す。
すると先程のアイシクルショット・ディケイドだったものがカルネージバンパイアクイーンの後ろへと迫り、ドドドド…と音を立てて次々に背中に刺さる。
カルネージバンパイアクイーンは前に上体が傾きながらえ…?と言いたそうな表情で呟き、雫は澄まし顔でそう話した。
「グァァ!」
「うっ。」
「グァ!グァ!グァァァァ!!」
「…!…!…!」
カルネージバンパイアクイーンは僅かではあるが背中の方を向いた後、お返しとばかりに左手で背中に刺さった氷柱の内の1本を抜いて雫に投げ付ける。
雫は何故か特に避けようとはしなかった為、カルネージバンパイアクイーンが投げた氷柱が右の胸に刺さった事で呻き声を上げる。
カルネージバンパイアクイーンはこれを好機だと捉えたのか、叫びながら背中の氷柱を両手で抜いては雫に向けて投げ、全ての氷柱が雫に刺さる。
そして止めとばかりに先程雫から弾かれた血液も含めて50本程の赤い針を生成し、両腕を振るう仕草を取った事で針達は雫の元へ向かっていった。
それら全ても雫に刺さった事で、カルネージバンパイアクイーンは勝利を確信したのかニヤリとした笑みを浮かべる。
しかしすぐに雫の形がでろっと崩れた後、バシャッと音を立ててその場に水溜まり等を残す形となった。
「グァ…?」
「…それは私の残像。」
「グ…?グァァ…!」
「おやすみ。」
カルネージバンパイアクイーンはそう言って不思議そうな表情となるのだが、自身の10メートル程後ろの位置で雫が淡々とした様子で呟く。
これにカルネージバンパイアクイーンは驚き、そう言いながら雫に攻撃を仕掛け様として後ろを振り向こうとするのだが、雫は既に自身のすぐ近くにまで迫っていた。
そして雫はそう呟いてカルネージバンパイアクイーンを通り過ぎ、一気に彼女を氷漬けにした。
雫は先程カルネージバンパイアクイーンが背中を見ている隙に、水神化と物質変換・水を用いて自身の分身を瞬時に用意していた。
そして洞窟内の各所に設置されている青白く光る水晶の様な物の光と影操作を用いて自らの影の中に潜り、自らの分身を残したままカルネージバンパイアクイーンの影を伸ばして背後に現れたと言う流れとなる。
因みに雫はカルネージバンパイアクイーンにやられたのは残像だと言っていたが、単にそう言いたかっただけで実際は水で出来た分身だったりする。
カルネージバンパイアクイーンは氷の中で驚いた表情のまま固まっているのだが、黒い入れ墨だけが動き始めて氷の外に出て集まっていく。
そして10秒程でテニスボール位の大きさになった所で真っ直ぐ雫の元に向かっていった。
「…ナビ、解析宜しく。」
《畏まりました。》
しかし雫が顔の高さにカドゥケウスを持って来て無限収納を展開し、黒い球は避ける事なくそのまま吸い込まれる様にして無限収納内に突っ込んで行った。
雫は無限収納を閉じた後にそう言い、ナビは返事をして黒い球の解析をし始める。
「さて…。(パチン)」
「………。」
雫は氷漬けしたカルネージバンパイアクイーンの元へ向かいながらカドゥケウスを無限収納へしまい、彼女のすぐそばに立った所で指を鳴らした。
すると氷はパリィィンと音を立てて砕け、カルネージバンパイアの姿が露となる。
「…手の掛かる子。」
しかしカルネージバンパイアクイーンは気を失っているのか目を閉じており、そのまま下に落ちようとしていた為、雫がお姫様抱っこの形で彼女を支える事に。
そして雫はそう言いつつも、優しげな表情でカルネージバンパイアクイーンの事を見るのだった。