322話
今回の話はほぼ説明会になります。
凛は先程、イクリプスドラゴンにドネグ湿原を人が住める様に作り替えると伝えたが、これは昨日フィリップやアーウィンと話をした事が切欠となる。
フィリップ達によると、周辺(と言っても湿原から30キロ程離れた所)の街や村、それと通路を隔てた先の聖都に住んでいる者達が、ドネグ湿原に棲息している魔物達が湿原の周りにある土壁を越え、いつか自分達の所へ来るのではないかと言う思いを常に抱きながら日々を過ごしているのだそうだ。
これは今から1500年程前の大戦が終わった頃にまで話が戻るのだが、先人達は(当時はただの平原だった)ドネグ湿原がある地点がアンデッドの生まれる魔素点だと分かり、そこから50キロ程西に住み始めた事で今の聖都となった。
ただ、元々は銀級のアンデッドまでしか出ない魔素点だったのだが、今から1200年程前に何故か(或いは地下部分が水と土が交わる竜脈の様な場所だった事が関係するかも知れない)魔素点が地中へと移動した事で事態が変わる。
今から1000年程前には金級のアンデッドが生まれる様になり、600年程前には年に数回の頻度で魔銀級の魔物が生まれ、100年程前から魔銀級の魔物が生まれる頻度が増していった。
新たに凛の配下となったイクリプスドラゴンは500年程前にデスドラゴンとして生まれ、それから年を経る毎に上級吸血鬼がストリゴイやストリゴイカへ、ハイ・スケルトンをデスナイトへと進化させて少しずつ配下を増やしていった。
そして50年程前に同じ場所で2体の上級吸血鬼が生まれた事をイクリプスドラゴンが珍しがって育てた所、30年程前に2体共バンパイアロードやクイーンへと進化するに至った。
ストリゴイ達はじっくりゆっくり育てた為かイクリプスドラゴンに対して忠誠心を持っており、控え目な性格をしている。
しかし一方のバンパイアロード達はストリゴイ達と比べて付き合いの期間が短く、それでいて自分達が王になりたいと言う強い願望(野心とも言う)があった事で今の姿になれた様だ。
話は変わるが、凛達がいるドネグ湿原は霊峰エルミールとは違い、寒くて厳しい環境にある訳ではない。
これは魔素点が1200年程前に地上から地下へと移り、姿を平原から1階層の洞窟や湿原へと変えた事にも関係がある。
それまでは魔素点から1日に生まれるスケルトン達やゾンビ達の数が500体程度だったのだが、場所を変えた事により悪い意味で調子が出てきたのか、一気に5000体にまで数が増えてしまった。
これにより当時のドネグ湿原の周辺にいた女神騎士団の騎士だけでは魔物達を捌き切れなくなり、魔物達が騎士達の包囲網から漏れて離れた所にある街や村へ向かった為、そこに住んでいる者達へ被害を与えると言う事が数日の内に何度もあった様だ。
その為、当時の教皇が神聖国内の各地にいる騎士達をドネグ湿原の周りに集めて魔物達の間引きを行い、湿原の周りを巨大な土壁で囲む様にとの命令を下した事で数日掛けてそれが実践された。
その後、騎士の大半を聖都に集めて交代で湿原に向かわせるのだが、年が経つ毎に洞窟内部が広くなって魔物達が強くなるだけではなく、洞窟内でのキツい臭いに耐えられなくなっていった様だ。
いつしか、騎士達は(ドネグ湿原内で比較的弱い部類の魔物が出る)地上部分の間引きが精一杯となってしまう。
凛はフィリップ達からこの話を聞いて魔素点の事を学ぼうと思ったのかすぐにレオンの所へ向かい、美羽と3人で獣国内にある最も弱い魔素点へと向かう事にした。
凛達がその魔素点のある所へ向かうと、地上部分の平原から2メートル程の高さの所に、ピンポン球位の大きさで黒い球体状の形をした物が存在していた。
凛達は1時間程魔素点を観察していると、普通のゴブリンが一定の時間毎に魔素点が支配する範囲内のどこかに生まれ、少し強い個体のホブゴブリンが魔素点そのものの近くから生まれる事が分かった。
その後、凛は落ちている石や木の棒等を使って魔素点に直接触れても大丈夫かの検証を行った結果、バチバチ…と黒くて小さな稲妻が発生しただけではなくちょっとした痛みを伴うものの、手でも直接触れられる事が可能だと分かった。
凛は魔素点に触れ続けながら掃除機の様に魔素喰いで魔素点を吸い続けると、30分程で魔素点が完全に消失した。
これには凛だけでなく、美羽やレオンも驚いた様子を見せていた。
凛達はその場でお茶やお菓子を摘まみながら30分程待ってみたのだが、その場にゴブリン達が生まれる事はなかった。
ナビはその間、嬉々として早速得たばかりの魔素点の情報を解析して魔素喰いを改良したり、吸い込んだ魔素を凛の強化に充てていたりする。
その後、凛達は獣国内であまり人が立ち寄らない魔素点を何ヵ所か巡り、その都度銅級、銀級、金級の魔素点の魔素を吸収しては魔素点そのものを消失させ続けていた。
魔物の強さや広さの規模によって魔素点そのものの高さや大きさは変わるのだが、いずれも黒い球体状の形をしていた。
そしてちゃっかり最初の所にいたゴブリンや、
銅級の強さで茶色い見た目をしており、1メートル程の大きさの姿をした土蜘蛛、
同じく銅級の強さを持って水辺の魔素点にいた上半身が女性(かつてのハーピィと同様にトップレス)で下半身が蛇の姿のラミア、
銀級の強さを持ち上半身が女性(やはりトップレス)で下半身が複数の犬の頭や魚となったスキュラをそれぞれ何体かずつつ配下にしたりする。
それらの経緯もあって凛は魔素点を吸収する度にナビへ魔素喰いの改良(と同時に凛や眷属である美羽の強化も)を行い、今回のドネグ湿原の魔素点の魔素を吸収して消失させようとした様だ。
「…王よ、貴方はその者の下に付くと言うのですか?」
「ならば貴方は私達の王ではない。王は…私達が務めさせて貰う!」
「あ、おいお前ら!…あいつら(魔素点がある部屋へ)行っちまった。」
凛達は少し移動してイクリプスドラゴンと話を始めて30秒程経った頃に、すっかり元の綺麗な衣装へと戻ったバンパイアロードが納得のいかない表情で凛達の元へ向かいながらそう話して来た。
そして同じく納得のいかない表情のバンパイアクイーンがそう言った後に2体は走り出してしまい、魔素点がある奥の部屋へと向かって行った。
イクリプスドラゴンは少し慌てた様子で2体を止めるのだが、2体は止まらずにそのまま走って向かって行った為、少し元気なさげに話す。
どうやら上級吸血鬼辺りから衣服は体の一部になるらしく、魔力を消費して見た目を綺麗にする事も出来る様だ。
「奥に魔素点…床から浮いている黒い球があるんですよね?でしたら、今度こそ追い掛けた方が…。」
「あれは魔素点って言うのか。その…魔素点ってやつが危険ってのはこいつらは勿論、あいつらにも伝えてある。だからああは言っていたが、すぐに(2人は)戻って来ると思うぜ。」
「そうですか…。」
凛は心配そうな表情でイクリプスドラゴンにそう伝えるのだが、イクリプスドラゴンから平然とした様子で返事を返された。
その為、凛はそう呟いて今いる部屋の奥にある、魔素点があるであろう部屋の方を心配そうに見ていた。
バンパイアロードとクイーンの姿が見えなくなってから1分が過ぎた頃
バチバチバチバチィッ
『!?』
凛達はバンパイアロード達が戻って来るのを待っていたのだが、奥の部屋から強い電気にでも当てられた様な音が響き渡った事に驚き、急いで奥の部屋へと向かうのだった。