31話 10日目
10日目
「向こうの世界にある植物がこっちでも育つかの実験をしたいからさ、森の中を少し拓いて野菜や果物を植えてみようと思うんだ。皆は拓くならどこが良いと思う?」
「あれ?マスター、ガイウスさんとはこの屋敷の周囲に育てるって事で話をしたんじゃなかったっけ?」
「僕も最初はそのつもりだったんだ。けど、ガイウスさんが王の側近の話をしていた時に嫌そうな顔をしていたからさ、この屋敷の周りで育てるのは一旦待った方が良いかも知れないって思ったんだ。」
「ふむふむ、それで?」
「いくつか可能性はあるんだけどね。仮に屋敷の周りで作物を育てる試みが成功したとするでしょ?」
「うんうん。」
「そしたらサルーンの街の長ガイウスさんではなく、王国がこの土地に目を付けた事で管理するとか言って、屋敷を含めた周辺一帯を取り上げる可能性が1番高いんじゃないかなって昨晩考えたんだ。今のはあくまでも僕の推察だから、後でガイウスさんと会った時に聞いてみようと思ってるんだけどね。」
「それは面白くねぇ冗談だな。つまり、オレ達が育てたのを我が物顔で横からかっさらうって事だろ?」
「火燐の言い方はちょっとあれだけど、端的に言うとそうなるね。死滅の森ならどこの国にも属さない訳だし、森で大丈夫そうな所に作物を植えたら手を出されにくいかなって思ったんだ。その為の候補地確保だよ。」
『成程。』
凛は朝食後に皆へ尋ねた後、それに美羽が疑問を浮かべた表情で、火燐は面白くなさそうな表情でそれぞれ答えたり尋ね返したりしていた。
そして凛がそう言って話を締めくくると、皆は頷きながら返事を行って話し合いを始める。
「(この家はガイウスさんみたくそれなりに親しい人ならまだしも、冷蔵庫や電子レンジみたいにこの世界にはない物があるからな。出来ればあまり知らない人に家を見せたくないんだよね。けど今の家の周りに作物を植えた事が切欠で、家が建っている土地を保有しているからとか言って王国が僕達を取り込もうとする事が予想出来る。何かしらで皆を守る手だてを考えないといけないかもな…。)」
「…凛様、宜しいでしょうか?」
「…! お、暁が意見するのは珍しいね?どうぞ。」
皆がオークやゴブリンの集落があった所はどうだ等で話し合っている間、凛はその様な事を考えていた。
そんな中、暁が腕を組んだまま難しい顔で考えるのを止め、すっと右手を挙げて尋ねると、凛は少し驚きながらも右手を前に差し出し、そう言って暁へ話をする様に促す。
「ありがとうございます。候補地…と言いましょうか、オーガの集落はいかがかと思いまして。あそこでしたら街からこの屋敷までと比べて少し遠い位だと思われますし、それに…。」
「因縁があるから、でしょ?」
「…! やはり凛様にはお見通しでしたか。」
暁は凛にお礼を言った後、少しためらった様子でそう話そうとする。
そこへ凛が軽く微笑んで話した事で、暁は驚いた後に納得の表情で答えた。
オーガの集落の場所は今の所(この中では)凛しか知らない事なのだが、暁はグレーターゴブリンがゴブリンの集落からそう遠くない所にあるのではないかと考えた様だ。
「暁達がいた集落を滅ぼされた原因かもしれないのがオーガの集落だもんね。僕達がオーガの相手をするのは悪いし、今回は暁達に頑張って貰う形になるけど大丈夫?」
「勿論です!絶好の機会を与えて頂き、感謝致します!」
「分かった。紅葉はどうする?」
「私も勿論暁達と一緒に参ります。」
凛は軽く微笑んだまま暁に尋ね、暁はやる気に満ちた表情で返事を行う。
凛は続けて紅葉の方を向いて同様に尋ね、紅葉はそう答えて深くお辞儀を行った。
「うんうん。それじゃ早速、皆で一緒に…。」
《マスター、ご報告です。間もなく藍火様がお目覚めになられるかと思われます。》
「…分かった。ごめん皆、藍火がそろそろ進化が終わって目覚めるみたい。僕は藍火の所に行こうと思うんだけど、皆も行く?」
『(こくっ)』
今日はこの後に森林龍の肉を受け取る為にサルーンへ向かう事もあって、凛は出来るだけ早く候補地を抑えておこうと考えた様だ。
凛が頷いた後にそう言おうとすると、ナビからその様な報告が届いた。
凛はナビの報告を受けた後に皆へそう尋ねると皆から頷いて答えられた為、皆で一緒に藍火の元へ向かう事に。
「………ん…んん?」
「おはよう藍火。進化して竜に戻るのかと思ったんだけど、人のままだったんだね。気分はどうかな?」
「ふぇ…?自分…進化したんすか?」
「うーん…見た目からだけだと、髪が少し水色っぽい青からしっかりとした青色になった位だし、ちょっと分からないかな。外に出て竜に戻ってみる?」
「あ、はいっす。」
藍火は倉庫の中心でもぞもしながら起き、凛からその様に声を掛けられる。
藍火は寝起きだからなのか魔の抜けた様な返事となり、ぼーっとした表情となっていた。
しかし凛からそう言われ、自分が無事進化出来たのかを確かめる為に皆で一緒に外へ出た。
「それじゃ藍火ー、人化スキルを解除して良いよー!」
「分かったっすー!」
凛達は門を出て少し進んだ所で止まり、藍火は念の為10メートル程離れて貰った。
凛は右手を挙げながら叫び、藍火も右手を挙げて大声で返事を行う。
「よし!それじゃ…行くっすよ!」
藍火はパン、と両頬を自身の掌で叩いて気合いを入れ、そう言って人化スキルを解除すると藍火の体が徐々に大きくなって行く。
やがて藍火は体長5メートル程の大きさとなり、サファイアの様に綺麗な青い鱗を持った龍へと変わるのだった。