321話
「…終わった様だな。お前らを相手してくれた雫の強さも分かったみたいだし、もう充分だろ。(ちらっ)」
「…。(にこっ)」
イクリプスドラゴンはバンパイアロード達が戦意を喪失したと判断したのか、バンパイアロード達の元へ向かってそう言った後に雫へ視線を移した。
雫はイクリプスドラゴンから視線を受けた事で軽く微笑み、少しだけ頭を斜めに傾ける。
どうやらイクリプスドラゴンは先程の戦闘の際に凛から雫の説明を受けた為か、雫が朔夜とほとんど変わらない強さである事を理解した様だ。
「…!これは王、お見苦しい所を!」
「すぐに挽回致します!」
「だから止めろって。」
バシッ
「「アッーーーー…!」」
ドゴーン
しかしびしょ濡れの状態のバンパイアロードは恥ずかしそうにしており、その後慌てた様子で立ち上がってそう言った事でバンパイアクイーンも同様にして立ち上がり、揃って凛達の所へ向かおうとする。
そこへイクリプスドラゴンがやれやれと言った感じで尻尾を振るい、バンパイアロード達へと当てる。
バンパイアロード達は背中に尻尾を当てられた事で悲鳴を上げ、揃ってそのまま凛達の頭上を越えて壁へ激突する事となった。
「あの…あの子達の所に向かわなくても宜しいのですか?」
「ああ、あいつらは今の姿になってからしぶとくなったみたいでな。この位でへばる様な(柔な)体じゃねぇんだよ。…色々とすまなかったな。」
「いえいえ。今回僕達はですね、周りに住んでらっしゃる人達に安心した生活を送って貰おうと思い、ここまで来させて頂いたんですよ。」
「えっと、話が良く分からねぇんだが…要は俺達はここで始末されるか、ここから出て行けって事なのか?」
凛はバンパイアロード達が壁に激突した事で土煙が発生した為、土煙の中の様子を窺う様にして少し心配そうな表情でそう言うと、イクリプスドラゴンは問題ないとばかりに返事を返した。
どうやらイクリプスドラゴンにとって、今の一連の流れは自分がバンパイアロード達に突っ込みを入れた感覚として捉えている様だ。
その後イクリプスドラゴンが申し訳なさそうにして言い、凛がドネグ湿原へ来た理由を伝えると、イクリプスドラゴンは困った様子でそう話す。
「いえ、貴方は今もこうして、落ち着いた様子で僕とのやり取りが出来るだけの知性を持っていますからね。そんな貴方の事を始末するなんて嫌ですし、僕の方からお断りさせて頂きますよ。それとですが、ドネグ湿原全体を作り替えて(地上部分に)人が住める様にしますので、貴方の仰る通りここから追い出す形になると思います。それで…皆さんが良ければなのですが、一緒に僕達の所へ来ませんか?」
「始末されずに済むって分かっただけで俺ぁ充分なんだが…良いのか?俺は朔夜と違って見た目がこんなんだぜ?」
「…シエル、ちょっとの間だけ人間になって貰って良いかな?」
「キューイ(はーい)!…よっと。」
「お?見た目が変わったな。」
「はい。僕はこの子の様に、貴方を僕達みたいな見た目に変える事が出来ます。ですので、見た目の点はご安心頂けるかと。」
「♪」
「「(じー…)」」
凛は苦笑いの表情を浮かべた後に笑顔でそう提案すると、イクリプスドラゴンは凛の事を窺う様にして尋ね返す。
凛は頭の上にいたシエルを両手で持った後に地面に下ろしてそう頼むと、シエルは凛の方を向いて右手を挙げて返事を行い、姿をカーバンクルから少女へと変えてイクリプスドラゴンの方を向いた。
イクリプスドラゴンは姿が変わったシエルを見て感心した様にそう言い、凛は返事を行った後に斜め左前方へ1歩進んで右手でシエルの頭を撫でながら笑顔で話す。
シエルは凛に撫でられた事で嬉しそうにするのだが、その様子を美羽と雫が羨ましそうに見ていた。
そしてアーウィンとレイラはシエルが少女の姿になれる事を今知ったのか、揃って驚いた様子となっていたりする。
「…分かった。それじゃこいつら共々、これからはあんたの世話になる事にするぜ。お前ら、分かったな?」
『(こくっ)』
「それと早速だが、俺の見た目を変えて貰って良いか?」
「分かりました。貴方と話を交えながら(人化スキルの)作業を行っていきますね。ナビ、1時間位を目処に人化スキルを施して貰えるかな?」
《畏まりました。》
イクリプスドラゴンは10秒程考えた後に頷き、凛にそう返事を行う。
これはイクリプスドラゴンが同じドラゴンである段蔵が格上である事が本能で分かり、その段蔵よりも朔夜の方が何段も強い事を理解していた為だ。
そして先程朔夜が凛から名前を貰ったと聞いて、凛がこの集団の代表である事が理解出来てしまった為、自分も朔夜の様に凛の下に付くと言う判断に至った様だ。
イクリプスドラゴンが凛からストリゴイ達に視線を移してそう言った事で、ストリゴイ達は頷いて凛の配下になる事が決まる。
そして凛に頼んで凛が了承し、凛はナビに頼んだ事でイクリプスドラゴンと話をしながら人化スキルをインストールしていくのだった。