301話
ダダダダダ…ドォーン
直後、複数の足音が聞こえた後に教皇の間の入口にある扉が破壊されてしまう。
「…異端者であるお前達がどうやってアーウィンを説得したかは知らんが、取り敢えず教皇に食べさせたとか言う林檎を渡せ。それと、教皇は少し元気になったそうだな。ついでにこの場で死んで貰うとしようか。」
「ヴェルナー枢機卿?これは何の真似だ?教皇様の御前であるぞ。それに貴殿こそ、こんな事をしてただで済むと思っているのか?」
「はっ、何を言う。アーウィンとレイラ以外の者達は丸腰ではないか。お前達はこいつらを守りながら、私の手下達30人を相手に出来るとでも言うのか?」
ヴェルナーが教皇の間の向こうから内部へ向けて歩き、顔を歪めてそう言った。
そしてヴェルナーが歩いている最中に、シスターの格好をした部下達が次々に教皇の間の中へと入り、順番に壁側へ並んでいく。
その様子を見たアーウィンは少し驚いた表情で尋ねるとヴェルナーは鼻で笑い、その後両手を軽く上に掲げながら誇らしげに話す。
「…ふふ、ふはははは、はぁーっはっはっはっはっはっ!」
「アーウィン…貴様!何がおかしいと言うのだ!」
「くく…いや失礼。私達が凛様達を守る?とんでもない。我々女神騎士団はね…負かされたのだよ、そちらにいらっしゃる凛様達に、な。それはもう私達全員が手も足も出ない程、見事なまでに凛様達に負かされたものだ。」
「馬鹿な!アーウィン貴様…追い込まれたからと適当な事を言うでないわ!」
「残念だがね…事実なのだよ、ヴェルナー枢機卿。この程度の人数では、誰1人として倒せやしない。…卿よ、貴殿こそ覚悟は出来てるのだろうな?」
「くっ…お前達!やれ!」
『はっ!』
アーウィン、ここでまさかの三段笑いを披露。
アーウィンは右手で額を押さえて高らかに笑った事で、ヴェルナーは激昂した様子で叫ぶ。
アーウィンは尚も笑いたそうな表情で凛達を指し示してそう話すと、ヴェルナーは驚いた様子を見せ、右手を横に払ってそう叫ぶ。
アーウィンは真顔でそう突き付け、ヴェルナーは言葉に詰まった後に部下達へ攻撃する様に指示を出す。
部下達は返事し、一斉に凛達へ向けて走り出した。
「…先程は動き足らなかったからのぉ、妾が相手をするとしようぞ。さて…」
『…人の子らよ、用意は良いかの?』
『…!』
「なんだあれは!忌々しい黒髪をした女がいきなり増えただと!?…ええい、お前達。しっかりとせぬか!」
「…まさか、早速僕の真似をされるとはねぇ。」
朔夜はそう言って歩き出し、先程凛が行った様に9つの分身体を造り出した。
そしてふわりと宙に浮いて近くの女性達の元へと向かい、それぞれ宵闇を使う等して驚いた表情の部下達の相手をし始める。
ヴェルナーが驚いた様子でそう言っている内に、次々と朔夜と分身体によって部下達が壁に叩き付けられる。
その後部下達は床に倒れた事でうずくまるのだが、ヴェルナーはそんな部下達を見て怒号を飛ばす。
そして凛は朔夜が戦っている姿を見て、苦笑いを浮かべながらそう独り言ちていた。
2分後
その間に騒ぎを聞き付けた騎士達が教皇の間へ入ろうとしたのだが、朔夜の分身体の内の1体が騎士達に軽く説明を行っていた。
更に部屋の中にいるアーウィンが目を閉じて首を左右に振った事もあって、それを見た騎士達は首を傾げながら持ち場へと戻って行った。
そしてヴェルナーの部下達の半分程は壁に叩き付けられた後に床へ前のめりに倒れてからも、与えられた任務を遂行しようとしたのかすこしふらふらとした様子で再び朔夜へと向かったりしていた。
「おりゃー、なのじゃー!」
しかし朔夜は先程、動き足りないと言っていたのはあながち間違いではなかったらしく、部下達に向けてドロップキックを放つ等してすぐにまた壁へ向けて叩き付ける事に。
部下達は流石に2度目も壁に激突する事は耐えられなかったのか、そのまま気絶する等して戦闘不能となった。
その為、みるみるうちに部下達はその数を減らしていった。
「どうやら、残りは其方だけになった様じゃの。」
「馬鹿な…手下達は全員(冒険者階級で言う)金級の強さを持っていた筈だ。何故こうも一方的に…。」
「其方達30人よりも妾1人の方が強かった…至極簡単な事であろ?」
「くっ(ぐいっ)…あべしっ!」
「其方は妾達へ刃を向けたのじゃ、そう簡単に逃がす訳がなかろ。」
そうしている内に残ったのがヴェルナーだけとなった為、朔夜は分身達を消した後に宵闇を広げ、満足そうな表情で宵闇を口元にやりながらそう言った。
ヴェルナーは納得がいかない表情でそう呟くと、朔夜は宵闇を口元に当てたままにこりと笑ってそう話した。
ヴェルナーは悔しそうな表情になってその場から逃げようとするのだが、その前に朔夜が自身の足元から伸ばした物質変換・闇によってヴェルナーの左足首が掴まれてしまい、ヴェルナーはそう言って顔面から叩き付けられる事に。
その後、朔夜はそう言いながらうつ伏せのまま悶絶しているヴェルナーを自身の元へたぐり寄せるのだが、凛達はその様子を痛そうな表情で見ていた。
そして朔夜はスキルを使い、ヴェルナー以下全員を黒いわっかの様な物で捕縛していく。
「さて、ヴェルナー枢機卿…いや今となってはただのヴェルナーだな。何故この様な真似をしたのだ?」
「簡単な話だ。異端者の事も気にはなっていたが、それ以上にそこのジジイに変わって儂が教皇になろうとした…ただそれだけの事よ。」
「愚かな…。」
「はっ。貴様はそう言うがな、儂も結構な良い歳だ。もう少しで教皇になれるかも知れないって時に…軽く歩ける程に元気になっただ?冗談ではないわ!恐らくだが、他の枢機卿2人も今のジジイの姿を見たら同じ事をするだろうよ。」
アーウィンが縛られているヴェルナーへそう尋ねると、ヴェルナーは座ったまま吐き捨てる様にして返事を返す。
アーウィンはヴェルナーの言葉を受けて残念そうな表情で言い、ヴェルナーは怒りの形相でそう叫ぶ。
「エリック卿、ヴェルナー卿が部下達を連れて教皇の間へと向かったそうだぞ。」
「馬鹿め。何があったかは知らんが、ヴェルナー卿は功を焦った様だな。あちらにはアーウィンとレイラの2人がいるのであろう?仮にヴェルナー卿の行った事が成功してもこちらが取り入れば良いだけの話だが…まず失敗するだろうな。マルコ卿よ、我らはヴェルナー卿の行いに対し、知らぬ存ぜぬで通す事にしようぞ。」
「うむ、そうだな。」
その頃、教皇の間から離れた所にて、残った2人の枢機卿がその様な話し合いを行っていた。
「…ん?何だか外が賑やかになってる様な…。」
「そこ!勉強を怠らない!」
「はいぃ…!」
また別な所では、銀髪の少年が騒ぎの方へと意識を向けた事で教育係の女性から怒られるのだった。