299話
「…これはこれは。アーウィン様ではありませんか。本日はこちらへ訪問される予定はなかった筈ですが…?」
「ヴェルナー卿か、本日は教皇様に用があって来たのだ。すまないが急いでいてな…これにて失礼する。」
『(ぺこっ)』
「はい、失礼致します。(…教皇に気に入られているだけの若造風情が。しかし今の動き…それにアーウィンの後ろにいた黒髪はもしや、異端者か?…怪しいな。誰かに様子を見させる事にするか。)」
凛達は移動中、60代後半と思われる痩せ型の男性から穏やかそうな表情で声を掛けられる。
これにアーウィンは左の眉がピクリと反応してしまうのだが、何事もなかったかの様にそう言って軽く頭を下げ、頭を上げた後に再び移動を始める。
凛達も軽く頭を下げ、アーウィンの後を付いて行った。
ヴェルナー枢機卿は穏やかな笑みを浮かべて頭を下げるのだが、下げている間は醜悪な表情となってアーウィンの事を貶していた。
そして頭を上げた後に凛達の後ろ姿を見てその様な事を考え、後程ヴェルナーの息のかかったシスターを教皇の間へ送る事に。
因みに、神聖国のトップは教皇となっているが、教皇の次に偉いのは女神騎士団長と枢機卿3人となっている。
しかしアーウィンはフィリップ教皇から可愛がられてきた事もあって、自然と周りからはフィリップの次にアーウィンが偉いと言う事になっている。
その為ヴェルナー達は面白くないと思っており、アーウィンの事を目の敵にしていたりする。
「(こんこん)…教皇様、女神騎士団長アーウィンです。本日、火急の用事が出来た為参りました。」
「…アーウィンですか?どうぞ、お入り下さい。」
「…失礼致します。」
「失礼します。」
「失礼しまーす。」
「邪魔するのじゃ。」
「…おやおや、今日は大勢の方と一緒に来られたのですね。今日はどうしたのですか?」
アーウィンが教皇の間の前でノックを行い、そう言った後に中から了承の返事が返って来た。
アーウィンはそう言って中へと入り、凛、美羽、朔夜の順でそれぞれそう言いながら皆が教皇の間に入って来る。
そして部屋の奥でベッドに腰掛けている高齢の男性から、凛達は優しく声を掛けられる。
その男性は70代後半の見た目をしており、体調が優れない為かかなり痩せた体格をしているものの、とても優しそうな雰囲気を纏っていた。
「凛様、こちらはフィリップ教皇猊下であらせられる。教皇様、本日は以前教皇様が仰られた管理者様についてのご相談で参りました。」
「管理者様…?」
『?』
「…何でしたっけ?」
『(ズルッ)』
「あらら…。」
アーウィンはフィリップ教皇を左手で指し示しながら凛に紹介を行った後、フィリップの方を向いてそう伝える。
フィリップは首を傾げながらそう言った後に動きが止まってしまった為、凛達は不思議そうな表情でフィリップの事を見ていた。
やがてフィリップが苦笑いの表情でそう言った事でアーウィンを始め、凛達も一斉にその場で崩れ落ちてしまう。
どうやらフィリップは高齢の為だけではなく、少しばかり天然な所がある様だ。
体勢を戻した凛が苦笑いの表情でそう言い、美羽達も苦笑いを浮かべていた。
そして反対に、アーウィンとレイラの2人は少し申し訳なさそうにしている。
「教皇様が3ヵ月程前に夢で女神様からお告げがあった、と言うお話の件についてです。」
「女神様…ああ!思い出しました。近い内に管理者様がいらっしゃると言う夢の事ですね。」
「はい。こちらにいらっしゃる凛様がその管理者様でして、女神様の弟様でもあるとの事です。」
「なんと…!女神様の弟様にお会い出来るとは…長生きはしてみるものですねぇ。これで私は、いつ天に召されても良くなりました。」
「教皇様、その様な事を仰らないで下さい…。」
「アーウィン、良いのですよ。自分の体の事は自分が1番分かっていますからね、そろそろお迎えが来る頃だと思いますよ…。」
「教皇様…。」
アーウィンがフィリップへ向けてそう言うと、フィリップは少し考える素振りを見せた後に嬉しそうに話す。
アーウィンは思い出せて良かったとの安堵の表情を見せながらそう言うとフィリップは驚いた表情となり、フィリップは満足そうな笑みを浮かべてそう言う。
これにアーウィンが悲しげな表情でフィリップへそう伝えると、フィリップは首を左右に振った後に弱々しく微笑んでから元気なさげに話した為、アーウィンはそう言って今にも泣いてしまいそうになる。
「…凛と申します。教皇様、アーウィンさんの言う通り、その様な話をするのは早いですよ。それで、教皇様が良ければなのですが…こちらを食べてみられませんか?」
そんな中、凛は1人でフィリップの横へ移動してから少し割り込む形で話し始める。
そして凛は話の途中に右手で無限収納から黄金の林檎を取り出し、フィリップの前に差し出す様にして尋ねるのだった。