294話
「君は今、女神教と騎士団を矯正すると言ったが…つまりは神聖国そのものを相手する、とでも言いたいのかね?」
「そうですね。本当はもう少し後になってからこちらへ訪問させて頂く予定だったのですが…事情が変わりました。僕は管理者として、貴方達の行いを見過ごす訳にはいかなくなったんですよ。ですので少し強引ではありますが、こう言う形でこちらへ来させて貰う事にしました。」
「(管理者?)…そうか。君の何が神聖国に対して気に入らないのかは分からない。が、ひとまず…女神騎士団長である私が君の相手をするとしよう。」
「やはり貴方が団長さんでしたか。正直、団長さんが僕の前に姿を現すまで、もう少し時間が掛かるかなぁとか思っていたんですよね。手間が省けて助かります。」
アーウィンは凛に対して警戒した様子ではあるものの、表情だけを軽く緩めてそう話すと、凛も軽く微笑んで返事を返す。
そしてアーウィンは少し表情を引き締め、そう言いながら左の腰に差した剣を抜く。
これに対し、凛は臆する事なく微笑んだままで返事を行った為、アーウィンの左目がピクリと動いた。
「私を相手に余裕の構えとは…随分と舐められたものだ。」
「これは失礼しました。それでは僕も…自分の武器を使わせて頂くとします。」
「…君は空間収納(スキル)持ちだったのか。それに少し変わった武器の様だな。」
「ええ。これは刀と言いまして、神国には無い武器なんですよ。…では団長さん、準備は宜しいですか?」
「(先程までとはまるで雰囲気が違う、だと?)…ああ。それでは…私から行くぞ!」
アーウィンは冒険者階級で言う魔銀級上位の強さを持っているのだが、そんな自分を相手に凛が余裕な態度を見せているのが気に食わなかった様だ。
アーウィンが少し不機嫌な様子で凛へそう話した事で、凛は少し申し訳なくおもったのか苦笑いの表情となる。
凛はアーウィンへ軽く謝罪を行った後、そう言いながら左手で無限収納の中から玄冬を取り出す。
そして凛は体勢を低くして右手を玄冬の柄部分の近くへと動かし、左足を少し引いて居合いの構えへと持っていった。
これにアーウィンは少し驚いたのと興味が入り交じった表情でそう言い、凛は軽く微笑んで答える。
しかし凛は軽く微笑んではいるものの、そう言いながら居合いの構えになった事により、先程までとは明らかに纏う雰囲気が違うものとなる。
その事で周りの騎士達の間に緊張が走り、その影響からかごくりと生唾を飲む者もいた。
そしてアーウィンも緊張感にあてられた影響からかそう思いながら冷や汗を流すのだが、その一方で自分よりも強者かも知れないと悟ったのかゾクゾクしてきた様だ。
アーウィンは無意識の内に自然と口角が上がり、そう言いながら凛に攻撃を仕掛けて来た。
「はぁっ!(ギィン)くっ!?でぇいっ!!」
「はっ!おっと。」
「「はぁっ!」」
アーウィンは最初に抜刀からの横凪ぎの攻撃を行うのだが、凛が斜め右上に斬り上げる事で弾かれてしまった事に驚く。
しかしすぐにアーウィンが剣を振り下ろした攻撃を凛がバックステップで避け、互いにそう言いながら突っ込んだ事で斬り結んでいく。
周りの騎士達は凛とアーウィンの戦闘が始まってすぐ、戦闘の邪魔になるといけないと思ったのか、凛達を中心として30メートル程の距離を置いていた。
そして凛達が斬り結ぶにつれてアーウィンの方が劣勢となり、その光景を騎士達は驚いた様子で見ている。
3分後
「…やるな少年。私の剣がここまで酷い状態になったのは初めてだ。正直、私は驚いているぞ。」
「ありがとうございます。貴方もお強いですが、僕は師匠に勝つまでは誰にも負けないつもりでいるんですよ。」
「そうか…ならば、この技をもって私が君に勝ってみせよう!はぁぁあっ…光星剣っ!」
「おお!ですが…それでも僕を倒すには足りないですね。」
アーウィンが持つミスリルの剣は、短時間とは言え幾度となく凛の玄冬と斬り結んだ事で、刀身のあちこちが刃こぼれした状態となっていた。
アーウィンは一旦凛と距離を取ってから自分の剣を見た後に凛に視線を移し、剣にここまでのダメージを与えた事に対して感心した様に言うと、凛はにこりと笑ってそう答える。
アーウィンは時間を掛ければ掛ける程こちらが不利になると判断したのか、一気に勝負を決めようとする考えの様だ。
アーウィンが限界まで身体強化を行い、武器に光系上級魔法ジャッジメントを封じ込めた光星剣と言う技を凛に仕掛けて来た。
凛はアーウィンの剣の周りに光のオーラの様な物が出た事で格好良いと少し興奮した後、そう言って聖覇王気を纏わせた居合いで反撃を行う。
「馬鹿な!?私のミスリルの剣が斬られただと!ぐ…?なんだ…体が急に、重く…。」
「僕の刀にもミスリルが含まれていますが、入っているのはそれだけではないんですよ。それよりも団長さん、手持ちの武器が無くなった様ですが…まだ続けますか?」
「いや…私よりも君の方が強いと分からされたからな。何やら私の体が先程から重くなっている様だし、これ以上は困難だろう。」
「分かりました。それでは…。」
『仕上げへと入る事にします。』
『!?』
凛はアーウィンよりも素早く居合いを行った事で、アーウィンの持つ剣の刀身部分を根元から切断した。
これにアーウィンはかなり驚いた表情となるのだが、直後に聖覇王気による重圧の影響で体が重くなり、耐えきれずに左膝を地面に突いてしまう。
凛は笑顔でアーウィンに尋ねると、アーウィンはやせ我慢をしてはいるが笑顔でそう答える。
そして凛はそう言いながら篝の九尾と朔夜の物質変換・闇を使い、自身の周りに同じ黒髪の分身を9体生み出す。
そして凛がそう言った後、後を引き継ぐ様に分身達が続けてそう言って外側にいる騎士達の方を向く。
騎士達はアーウィン以上の強さを持った凛がいきなりこちらを向いた事により、一様にしてとても驚いた表情となるのだった。