2話
「ふぅ~、疲れたわ。」
シロは凛の転移を見送った直後、そう言いながら溜め息をついた。
「お疲れ様なの…。シロ。」
「? …なんじゃ、クロか。」
シロの後ろから少女と思われる声が聞こえた為、シロは後ろを振り向く。
すると先程まではいなかった筈の少女が、振り向いたシロの直ぐ目の前に立っていた。
シロはクロと呼んだ少女に対し、両手を腰に当てながらそう返事をする。
その少女は年の頃は10歳位。
膝下までの黒いワンピースに身を包んでいた。
そして黒髪のショートヘアーで黒い瞳を持ち、気の弱そうな表情をしている。
「シロ、その姿疲れないの…?元に戻ったらどうなの。」
「そうじゃの。」
クロにそう言われた後、シロは両手を下ろして返事を返す。
するとシロの全身が光輝き、大人の大きさだったシロが次第にクロと呼ばれた少女と同じ位にまで光が小さくなり、やがて光が収まっていく。
「やはり、こちらの姿の方が落ち着くのじゃ!」
光が収まった後、そこにはクロと呼ばれる少女と同じ年頃の見た目をした少女が立っていた。
そしてその少女は腰に手を当ててむんと胸を張り、満足気な表情でそう言う。
その少女は膝下迄の白いワンピースに身を包み、腰までの長さの白い髪をウェーブがかった髪型をしていた。
そして目が少しつり上がっており、活発そうな性格の印象を受ける。
「それでシロ。話してみてどうだったの…?」
「…む?そうじゃの…。」
シロはふぅ~と言いながらコキコキと首を回したり肩を回していたのだが、クロがそう尋ねた事によってシロはそう言いながら顎に手を乗せ、少し思案顔になる。
「こちらではまだ生まれたてみたいなものだからと言うのもあるのじゃが、流石と言うべきか物凄い可能性を秘めてそうじゃった。」
「やっぱり…。あの方の弟だからなの?」
「然り。あの方の弟とは思えない様な優しさを持っている事に、妾も少し驚いたがの。これからどうなって行くのか楽しみでもあるのじゃが…同時に怖くもあるのじゃ。」
シロが少し難しい表情でそう言うと、クロは驚いた表情で呟く。
そしてクロが普段の表情に戻した後にシロへ尋ねると、シロは腕を組んで頷きながら答える。
「やっぱり…シロだけじゃなく、僕も一緒に会えば良かったの…。」
「ダメじゃダメじゃ!クロは人見知りじゃし口数も多くない。お主は不馴れな者へ会うのには向かないのじゃ!それに、あの方がおっしゃってた凛とやらを少し弄っ…ゲフンゲフン、おっと。何でもないのじゃ。」
クロは後ろ手を組み、やや残念そうに唇を尖らせながら言う。
それに対してシロはクロへそう言って否定をするのだが、シロは話をしてる間に段々と悪戯っ子の様な悪い笑みを浮かべていく。
ーーーーーその話、詳しく聞かせて貰えるかしら?ーーーーー
「!!」
「?」
シロがそう言い終わってすぐに、ピシッと空気が凍った気がした。
実際にはその様な事はないのだろうが、女性の声が聞こえた事により、シロはびっくぅぅぅと言った感じで盛大に驚く。
クロはシロの様子を見て不思議そうにしており、シロは声が聞こえた方向へぐぎぎぎぎ…と顔を向ける。
すると50メートル程先に、満面の笑み(ただし目は笑ってない)を浮かべてこちらに向かってゆっくりと歩いている女性がいた。
その女性は年の頃が20代半ば位。
身長が175センチ程で背中まで黒髪を伸ばした髪型をしており、優しそうな印象を持っている。
「お母さんなのっ!」
「は、ははははは母上。ど、どどどどうしてこの様な所へ…?」
「あら?シロちゃん、私…前に言ったわよね?私の凛ちゃんが今日こっちへ来る様にしているから、凛ちゃんを迎える為の準備をしといてって。向こうである程度は私の力を与えているけど、こっちに来たばかりだと不具合起こすかも知れない。だからここで調整するから呼んで頂戴って。もう凛ちゃん来てる筈なんだけど…一向にシロちゃんから連絡が来ないんだもの、こっちから来ちゃったわよ。それとシロちゃん、私がなんですって?」
その女性が現れた事で、クロはそう言って嬉しそうに女性の元へと駆け寄る。
しかしシロは反対に動けずにだらだらと汗をかき、かなり慌てた様子で尋ねる。
女性はシロからの問いに、にこりと笑って答える。
女性はシロと話をしつつ、左側の腰元に抱き付いて来たクロを母が子を慈しむように優しく撫でる。
その事でクロは幸せそうに目を細め、女性からされるがままにしている。
「…………。」
シロは女性からの問いに答えない。
いや答えられない。
シロは上手い言葉が見付からないからか、目の焦点は泳ぎ過ぎて全く定まっておらず、更に汗が勢いを増して流れる様になる。
先程まで凛と話していた時の、穏やかそうな美女のイメージはどこに行ったのだろうかと言う位、現在のシロは見事なまでにその残念ぶりを見せていた。
「そういえばシロちゃん?貴方さっき…凛の体を弄ったとか言ってなかったかしら?」
「はっ!ち、違うのです母上。妾は凛に妾の加護を与えようとしただけで…。」
「加護?何故貴方の加護を?貴女は私の子だから強力な加護ではあるけど、私の方が上じゃない。」
女性はシロへ質問を行うのだが、その中に怒気を混じらせていた。
その事でシロは我に返るのだが、シロは泣きそうになるのを抑え、女性へ取り繕う様にして弁解しようとする。
しかし女性はシロの言葉に対し、少し呆れた表情でそう言った。
先程から白い少女をシロと呼び、2人の少女から母と呼ばれてるこの女性はこの世界の創造神だったりする。
そして創造神はシロ…白神より力も格も当然上の為、与える加護も勿論上となっている。
「うぐ………。」
「シロ…まさか貴女…。」
「(ギクッ!!)」
それでもシロは言葉に詰まるだけで、中々答えようとはしなかった。
女性がそう言うと、シロは嫌な予感がしたからか体を強張らせる。
「…まさか凛ちゃんに対しても、いつもの面倒だからって理由で適当にやって、諸々端折った上にウェル爺に丸投げしたんじゃあ…ないでしょうねぇ?」
「(!!)」
「………。(わなわな)」
女性が低い声でシロにそう尋ねると、シロは驚きのあまり白目を剥き、絶望の表情となる。
その為、一応シロは神であるにも関わらず、更なる残念ぶりを発揮していた。
シロの態度を見た女性は、これを肯定と捉えた様だ。
女性は下を向いて腰の辺りで両手をぐっと握り、わなわなと震えている。
クロは怖くなってしまったのか、既に少し離れた場所へと行ってしまった。
「あんたって子はーーーー!!凛ちゃんは私が受け持つって言ったでしょうがぁーーーー!!」
「わーーーー!!母上ーーーーーっ、許してたもーーーーーーっ!!」
「いーーえっ!許しません!あんたって子はぁっ!!」
女性が大声で叫ぶと、シロはそう言ってダダダダッと逃げ出してしまう。
しかし女性に瞬時に回り込まれ、シロは女性の左腕に抱えられる様にして捕まってしまう。
シロは抜け出そうとしてもがくのだが、女性の腕からは全く抜け出せる気配がない様だ。
「いい加減にしなさい!!」
「アッーーーーーーーーーなのじゃーーーーー!!痛いのじゃぁーーーー!!」
女性はそう叫んでシロのお尻を右手でバシィッと叩く。
シロはワンピースの上からでも女性から叩かれた痛みが全然和らぐ事がなかった為、猛烈な痛みに耐え兼ねて思いっきり叫んでしまう。
「これに懲りたらあんたもいい加減に反省しなさいっ!魔力の残滓があるって事は、既にウェル爺の所へ無理矢理送ったんでしょ!!」
「許してたもっ!許してたもーーーーー!!」
女性は更にそう叫びながらシロのお尻をビシィッと叩いた。
シロは女性へ必死に懇願するも、女性がシロを許す事はなかった。
それからも暫くの間、お尻を叩く音とシロの喚く声が続く事に。
「うっうっうっ…痛いのじゃぁ…。」
暫くして、シロはそう言ってお尻を摩りながら床に蹲っていた。
「あっ!クロ!それはらめぇぇなのじゃあ。後生じゃ…抓るのでは無く、優しく撫でてたも…。」
「シロ、自分が悪いの。自業自得以外、僕には掛ける言葉が見付からないの。」
「うぅ………。」
そしてシロは傍でぶつぶつ言っているクロに抓られた事で悲鳴を上げてしまう。
その後、シロはクロへ懇願する様に言い、クロはそう言いながらもシロのお尻を優しく摩る。
シロはそれでも痛く感じるからか、呻き声を上げるしかなかったのだった。