292話
タッド達は聖都に入ってから15分程歩き、一行は聖都中央からやや西にある女神騎士団本部の中へと入る。
「ご苦労、後はこちらでやっておく。お前達は馬車を置いてさっさと帰るが良い。」
「…ありがとうございます。ですが私達はこれから女神教ではなく、この中にいらっしゃる凛様にお仕えしたいと思います。…つまり、お前の馬車を置いて帰れとの指示には従えんと言う事だ。」
「…何?お前達、血迷ったか。」
「…違いますよ。血迷っているのは女神教、並びに神聖国そのもので、タッドさん達はある意味被害者の様なものです。」
「凛様!」
「なんだ貴様は…黒髪!そうか、こいつが例のやつだな。敵襲っ!敵襲だー!!皆でこいつらを取り押さえろ!」
タッド達は門を抜けた後、100メートル程進んだ先にある建物の入口に立っている騎士に止められてそう言われる。
建物の入口に立っている騎士の数は4人で、いずれの騎士もタッド達よりも上質で白く輝く鎧を身に纏っていた。
タッドは一方的に、しかも完全に上から目線で言われた事でカチンと来そうになるのを抑え、なるべく冷静になって頭を下げる。
しかしタッドは頭を上げた後にそう言った後、にやりと笑って騎士からの指示を拒否した。
騎士がタッドの言葉を受けて顔をしかめながら尋ねると、凛がカーテンをめくって外へ出た後に馬車から下り、タッドの横へ移動しながらそう話す。
タッドは感激した様な表情で凛を見ながらそう言い、騎士は更に顔をしかめて言った後に凛の事に気付いたのか、大声で仲間を呼び始める。
この世界には写真は勿論、個人が趣味で行う以外での似顔絵等が少ない為、文書等で箇条書きされた情報がほとんどとなっている。
その為騎士が凛に気付くのが遅れてしまい、他の3人の騎士はタッドが指示を拒否した時に腰に差した剣に手をかけていた。
その後騎士が大声で仲間を呼んだ事で1人は笛を吹き、残りの2人は剣を抜くと言う状態となる。
「敵襲ですか…残念ですね。タッドさん達は危険ですので馬車の中へ入って下さい。それで暫くの間、エリオットさんと一緒に中で待ってて下さいね。」
「分かりました!お前達、凛様のお言葉を聞いたな?すぐ言われた通りにするぞ!」
『はっ!』
「…うん、タッドさん達が馬車の中へ入ったね。それじゃ美羽、雫、エルマ、イルマ、ジーク、朔夜、段蔵。出て来て良いよ。」
「「「はーい!」」」
「ん。」
「「うむ。」」
「分かったのじゃ。」
「…承知。」
「な、なんだこいつら…。あんな狭い場所にこれだけの人数が入っていたと言うのか?」
女神騎士団本部にいる騎士達は、建物の中や凛達の横にある訓練所から次々に馬車を囲う様にして集まって来た。
凛は自身の前方にいる、先程凛へ敵襲と言った騎士を見て悲しそうな表情でそう言うのだが、すぐに気を取り直して左にいるタッドへそう指示を出す。
タッドは頷いて返事し、部下達の方を向いてそう言った後に素早く移動を始め、部下達も返事して馬車の中へと素早く向かう事に。
凛はタッド達が馬車の中へ入るのを確認し、馬車の中にいる美羽達に外へ出る様に促す。
美羽達はそれぞれ返事し、美羽と朔夜が凛の両隣へ、雫達は凛の後ろに移動して来た。
大声で仲間を呼んだ騎士はあんな狭い馬車の中にこれだけの人数が出入りしたとでも思ったのか、そう言いながら恐ろしいものでも見た様な表情となる。
因みに、凛は戦闘の可能性があると思って門を抜けた後に馬車内部のカモフラージュを解除するのだが、そこには凛とくっ付ける位にまで近い距離で暫くの間過ごした事が影響したのか、エリオットが恍惚の表情となっていた。
凛は外の様子に意識を向けていたり、タッド達が騎士からの指示を拒否した事でエリオットの様子を見ていなかった為気付いていないが、美羽達や馬車に入って来たタッド達は驚いたりドン引きしていたりする。
「…まあいい。たったの8人程度じゃ、女神騎士団本部にいる1000人以上の騎士達の相手をする事は不可能だ。」
「そうかの?妾達にとって其方達全員の相手をする事なぞ、存外難しい事ではないのじゃがの。」
「ん、朔夜の言う通り。私達が貴方達の手合わせをしてあげる。」
「2人共、少し言い過ぎじゃないかなぁ…。」
「あまり相手を煽らない方が良いような…。」
「そうか?僕は妥当だと思うのだが。」
「こいつら…舐めやがって。我ら女神騎士団を馬鹿にした罪、その身に分からせてやる。皆、行くぞ!」
『おおっ!!』
兵士は面倒になったのか考えるの止め、変わらず上からの態度のままでそう吐き捨てた。
これに朔夜は宵闇を広げ、口元にやりながら笑いを堪える様にして言うと、雫はふんすと少し鼻息を荒くしたりする様子で話す。
出来れば穏便に済ませたかったエルマとイルマは苦笑いの表情でそれぞれそう言うのだが、ジークフリートはきょとんとした様子でそう話した。
これに騎士達は段々と怒りの形相となっていき、こめかみに青筋をピキピキと立てたりしていた。
そして騎士の1人がそう言い、一斉に返事をして凛達に攻撃を仕掛けるのだった。