288話
「それじゃ準備も整ったみたいですし、皆で神国へ向かうとしましょうか。」
「あの…凛様。馬車が先程と少し変わっている様にお見受けするのですが…。」
「同じ乗るなら少しでも過ごしやすい方が良いかと思いまして、皆さんが休んでらっしゃる間に(内装を含めた)馬車の改造させて頂きました。」
「…ふむ、これなら寛げそうじゃの。」
「ん。私も寛ぐ。」
「イルマちゃん!髪色があたしとお揃いになったねー♪」
「うん、お揃いだね♪朔夜さんはそのままみたいだけど…。」
『………。』
凛は休憩に入って直ぐに馬車の元へと向かった後に馬車を一旦無限収納の中に直し、無限収納内で揺れを軽減する為のサスペンションの設置と言った改造を馬車に施す。
凛は馬車の外装の改造を終えて無限収納から外へと出し、その中へ入って空間拡張で中を20畳程に広げた後、床をフローリングに張り替えてソファーやベッドと言った家具を設置する。
凛は一通り作業を終えて皆の所へ戻り、そろそろ(凛の)屋敷へ向けて出発する事を伝える。
一行がVIP宿を出発して直ぐに、凛は段蔵へ馬車を屋敷の敷地内へ運ぶ様に頼む。
段蔵は黙って頷いた後に忍者の様にしゅっと音を立て、その場から姿を消した事でエリオット達を驚かせていた。
そして一行は屋敷に戻り、凛は朔夜とイルマの2人へ神聖国だと黒髪は目立つ為、髪色を変えるかどうかを尋ねる。
イルマは髪色を変える事に乗り気だったが、朔夜は凛が変えないのならこのままで良いとの返事を行った為、美羽はひとまずイルマを連れて屋敷の中へ向かう事に。
美羽達は30秒程で凛達の元へ戻るのだが、戻って来たイルマは今までの黒髪からエルマと同じ白い髪色となった事で、更にイルマとそっくりに見える様になっていた。
凛はイルマを見て頷いた後にそう言うと、馬車の隙間から中の様子を見ていたエリオットが複雑な表情でそう言う。
それに対して凛が笑顔で答えると、朔夜と(何故かしれっと付いて来る事になった)雫はそう言いながら馬車の中へ入って行った。
エルマはこちらへ歩いて来るイルマへ向けて笑顔でそう言い、イルマも笑顔でそう答えながら互いに左右の手を繋ぐ。
そしてイルマは馬車の中へ入って行った朔夜(と段蔵)の方を見ながらそう言い、エリオット達は何とも言えない表情で馬車の中の様子を見ていた。
「あれは…オバノンか?」
「…どうやらその様ですね。僕達はこのまま馬車の中にいますので、タッドさん達はオバノンでの受付が済んだ後も聖都へ向けて進み続けて下さい。」
「はい、分かりま…(ごほん)分かった。」
「ありがとうございます。一応僕達は捕まったと言う立場ですので、タッドさんは普通に話して貰えると助かります。では、一旦失礼しますね。」
「ああ、そうだな…。(いやいや!向こうの方が明らかに俺達よりも立場が上だと言うのに…今更普通になんて話せるか!)(キッ)」
『…。(さっ)』
凛達は入口が広い名付け部屋に入って直ぐの所に設置した大きめのポータルを潜り、死滅の森南東部から出て少し進んだ所に出る。
そして女神騎士団の隊長であるタッドが、神聖国北西の街のオバノンの外壁に見覚えがあった為か立ち止まってそう言った。
すると凛が馬車の入口に設置したカーテンをずらし、首だけ出した状態で外を覗く様にして答える。
凛はタッドの方を見てそう言うとタッドは敬語で答えそうになるのをどうにか抑え、咳払いをして言い直す。
凛は笑顔でそう言ってからカーテンを戻して中へ入るのだが、タッドは平静を装って答えた後に内心そう叫び、恨みがましく部下達の方を見る。
部下達は創造神の弟である凛の(会話を含めた)お世話はしたくないからか、タッドが視線を向けた瞬間に一斉に顔を横へと向けていた。
「ぬわーっ!!また負けたのじゃー!」
「朔夜は顔に出るから(ジョーカーを持ってるとか色々)分かりやすいんだよ。」
「なん…じゃと………。の、のう雫よ。段蔵もババ抜きに加えてはダメなのかの?」
「ん、ダメ。段蔵がいると朔夜に勝ちを譲るからババ抜きが楽しくなくなる。と言うか、朔夜も私や段蔵みたいにポーカーフェイスを目指すべき。」
「ぐぬぬぬ…。」
そしてタッド達がオバノンの入口で待っている間、雫、エルマ、イルマ、朔夜、段蔵の5人は娯楽として販売する事にしたトランプの中から、(トランプに付属されている説明書を読んで)簡単に遊べるババ抜きを行っていた。
そして朔夜は3回連続でビリとなった事で後頭部に両手をやりながら叫び、皆にやり方を教えながら様子を見ている凛がそう話す。
先程は段蔵も含めてババ抜きを行っていたのだが、段蔵は長年朔夜や部下の世話をしていたからか、他人の感情に機敏な所がある。
その為段蔵は極力朔夜よりも先に上がろうとしないだけでなく、朔夜がビリになりそうだと分かると自分がジョーカーを持つ様になる。
その事が分かった雫はババ抜きに段蔵を参加させない事を伝えると、朔夜と段蔵の2人は揃って落ち込む事に。
朔夜は感情を隠す事が苦手なのか、相手からジョーカーを取ってしまった時は露骨に嫌そうな表情となる。
そして残り2人の状態で相手がジョーカーを取ろうとすると満面の笑みに、反対にジョーカーでない方を取ろうとするとこの世の終わりの様な表情になってしまう様だ。
それを見ていた美羽は笑いを堪えるのに必死になり、エルマとイルマもくすくすと笑っていた。
朔夜は悔しそうに叫びながら頭を抱えるのだが、凛から指摘された事でそう言いながら崩れ落ちる。
朔夜は四つん這いの状態で頭だけを上げて雫にそう頼むのだが、雫がどや顔で断った後にそう話す。
朔夜は四つん這いのまま、悔しそうな表情で雫を見ながら唸るのだった。