273話
美羽が入った部屋は先程の祭壇の間と同じく、正方形の形をした100畳程の部屋だった。
そこへ蟻が餌へ群がる様に、アイスゴーレム達が美羽の元へ次々に集まって来る。
「…アイスストーム。」
「…サンダーストームっ!」
「…サンドストーム…。」
そこへ雫と翡翠が部屋へ入った直後に唱えた、氷と風の複合系上級魔法アイスストームと、炎と風の複合系上級魔法サンダーストームを部屋の左奥の2点で発動させ、同じく楓も部屋に入って直ぐ唱えた土と風の複合系上級魔法サンドストームを右奥でそれぞれ発動させた。
3人は翡翠を中心に並んで部屋へ入り、翡翠の両肩にそれぞれ手を置いている状態となっている。
すると部屋の奥にゴウッと音を立て、幅10メートル、高さ50メートルの竜巻が計3つ現れた。
それぞれ竜巻の中にある大きな氷の塊、風の刃や雷、それと細かい砂によって次々に魔物達を巻き上げていったり、砕いたり刻んだり削り取ったりして数を減らしていく。
「…3人共、小回りを利かせる為に大きさと威力を控え目にするとはやるのぉ。ならば妾も…アビス、アビス、アビスなのじゃ。」
それに朔夜が触発されたのか、そう言って右奥のサンドストームから少し離れた所に、3連続で闇系上級魔法アビスを発動させた。
朔夜の言う通り、今回雫達はエルミールへの被害を抑える為、いつもより大きさを半分程、威力を3割程弱めた竜巻を放った。
しかし雫達は竜巻が消えるまでの30秒位の間、時速20キロ程の速さで時計回りに竜巻を動かしていく。
そして朔夜に唱えられた事で3つの半球状の黒い塊がドォン、ドォン、ドォォンと音を立てて姿を現し、その範囲内にいる魔物達を次々に飲み込んでいく。
そして朔夜が放ったそれぞれの魔法の効果が切れた時、そこには直径10メートル弱のクレーターだけが残っていた。
「わー!雫ちゃん達やるねー!ステラちゃん、段蔵さん。ボク達も雫ちゃん達に負けてられないよ!」
「そうだね!」
「承知…。」
雫達が続けて魔法を放った事で、入口付近で戦っている美羽のやる気に火が点いた様だ。
美羽がそう言って部屋の中心へ向けて斬り込んで行くと、ステラと段蔵もそう言って左右に広がって応戦していった。
「すげぇ…。こりゃ俺達が参加しても、美羽達の足を引っ張るだけになりそうだな。」
「そうですね…。ですが、今戦っている美羽様達のおかげで、もっと強くならねば、と言う目標が出来ました。」
「どうやら美羽達が戦っている魔物達は、いずれも魔銀級の強さがあるみたいなんだ。最初はあの大きさもあって苦労すると思うけど、慣れれば良い修行場になりそうだね。」
「やはり、あの魔物達は僕よりも強かったのか…。」
美羽達はその後も物凄い勢いで魔物達を減らしていった。
その為、最初は部屋を埋め尽くさんばかりにいた魔物達も、今は半分程となっている。
レオンは美羽達の戦いぶりを見てゾクゾクしているのだが、格下の自分が行っても足手纏いになると判断した様だ。
両手をぎゅっと握りながら楽しそうな、それと悲しそうな表情が入り交じった様子でそう言った。
タリアは最初悲しそうにそう言うのだが、すぐにやる気の表情となってそう言う。
凛はレオン達の言葉を聞いてそう答えるのだが、レオパルドはアイスゴーレム達の動きを見て自分よりも格上だと思ったのか、凛の説明を受けて複雑な表情でそう言った。
一方、レオパルドはレオン達が魔物達へ向かった場合は自分も向かうつもりだった為、凛からの説明を聞いて内心ひやりとした様だ。
その後、魔物の残りが1割を切った所で凛がレオン達にも参戦する様に促し、美羽達はレオン達のフォローへ回って貰う事に。
そして部屋の奥から先程と同じ様に螺旋階段で下に降りていくと、同じ様な部屋が現れる事が3度あった。
その度に美羽達に魔物達をある程度片付けて貰い、最後辺りでレオン達にも参戦して貰うと言う事を繰り返す。
因みに、雫は最初の部屋以外はちゃっかりとライムへ指示を行い、アイスゴーレム達をサンプルとして取り込んでいたりする。
ライムとしても普通に倒すより取り込んだ方がより多くの魔素を得られる事もあって、嬉々としてアイスゴーレム達を取り込む作業を行う。
しかしレオン達にとっては、抜け出そうとして手足をばたつかせて暴れるアイスゴーレム達を他所に、ライムが嬉しそうに少しずつアイスゴーレム取り込んでいくと言う、シュールな光景に見える様だ。
レオン達は自分達よりも大分大きいアイスゴーレム達が取り込まれる度に、複雑な表情でライム達を見ていた。
祭壇の間から降り始めて3時間後
「ようやく着いたね…。今度こそ最奥かな。」
「これは…!肌が青い色をしてはいるが、この中にいるのは人…なのか?」
「んー、レオン様。近い所ではあるけど、『人』ではないかな。そうだよね?『精霊』さん。」
「「「精霊!?」」」
「…そうだ。貴方達は私と似ている。…が、どうやら別物の様ね。」
凛達は螺旋階段を降り、エントランスホールよりも大分下の高さにある部屋の中へと入る。
凛は溜め息をついた後にそう言いながら、巨大な氷の柱の中で目を閉じている女性らしき者の方を見上げた。
その女性は年の頃が20歳位。
身長165センチ程で水色の肌と青いセミロングの髪型をしており、青いチャイナドレスの様な物を身に纏っていた。
凛が女性を見上げた事でレオンが女性が入った氷の柱の元へと駆け寄ってそう言うと、凛は苦笑いで答える。
そして視線をレオンから女性へと移しながら尋ね、女性はそう言って宝石の様に綺麗な青い瞳をした目を開ける。
どうやらこの女性は今まで目を瞑っていたのもあるのだが、祭壇の間にいた時から1番強い凛に目を付けていた様だ。
女性は凛に話し掛けられるまで、目を閉じながら凛を中心に皆の事を感じ取ろうとしていた。
「まぁ、僕達は特殊だからね。」
「ふぅん?まぁ良いか。…それじゃ、会ったばかりで何だけど、私と手合わせをして貰うわ。」
「(あー…この精霊さん、人の話を聞かないタイプなのかな?とは言え、僕に関心があったのかずっと僕の事を視ていたみたいだし、仕方がないか。)…レオン様、僕がこの精霊さんの相手をします。危険ですのでシエルを預かった後、後ろへ下がっていて下さい。」
「あ、ああ。分かったぜ…。」
「キュイー、キュイー!(凛ー、頑張ってー!)」
「それじゃ…行くわよ!」
凛が肩を竦めながらそう言うと、女性は氷の中で考える素振りを見せる。
しかし考えるのが面倒になったのか、氷の柱に自身が通れる程の穴を開ける。
そしてふわふわと浮きながら氷の柱から出て着地した後に右手を腰にやり、凛へ向けてそう言った。
凛は内心そう思った後、懐にいたシエルをレオンへ渡しながらそう促す。
レオンは話の流れが全く掴めないからか、そう言いながら凛から言われるがままにシエルを受け取って後ろに下がり、シエルは右腕をぶんぶんと振りながらそう叫ぶ。
女性は凛の準備が整ったと判断したのか、そう言って凛の元に駆け出すのだった。