269話
「はー、食った食った。」
『………。』
「お前等…揃いも揃って顔色が悪くなってるじゃねぇか。いくらメシが美味いからって、無理をして迄食べる事は無かったんだぜ?」
『はい…。(火燐さんはあんなに沢山食べたと言うのに、どうして普通にしているんだろう…。それと、沢山食べたと言えばこの人も…。)』
「火燐、イーノック達は貴方を見たからそうなった。火燐の食べる量は毎回おかしい。」
「雫…(VIP宿のメニュー表に載っている)超特大の極上プリンを食べたお前に言われても説得力無ぇよ。確か、あれだけでも10人前はある筈だぜ?それをお前、2つも食べてただろ。」
「………。(すっ)」
一行はVIP宿での昼食を摂り終え、宿から出て来た火燐がお腹を擦りながらそう言った。
その後ろを食べ過ぎた事で気分を悪くしながらも、戻したら勿体無いとばかりに我慢しているイーノック達が付いて来る。
火燐は少しだけ困った様子を見せて言うと、イーノック達は返事をするものの内心困惑しながら火燐、そして雫の事を見ていた。
雫は澄まし顔で火燐に向けてそう言うのだが、火燐からじと目で突っ込まれ、雫は澄まし顔のまま明後日の方向を向いてしまう。
先程VIP宿にて、火燐は1人で30人前の料理を平らげていた。
そして雫は食後のデザートとして、(主に雫の為にメニュー表に載せたと言っても過言では無い)牛とアルル達の牛乳を使った極上プリンを超特大サイズで2つ食べていたりする。
極上プリンは普通の大きさでB○gプッ○ンプリン1個分位の大きさの為、単純にそれが10人前×2つ分の20人前となる。
イーノック達は火燐に促されたのと、折角の機会だからと普段以上に食べた事が気分が悪くなった要因として挙げられる。
しかしイーノック達は火燐だけで無く、火燐の隣にいた雫のプリンに対する食べっぷりも見た事で胸焼けを起こし、それが元で気分を悪くした事の方が強かった様だ。
イーノック達が気分を悪くしているからと言う事で火燐達は一旦凛やレオン達と別れ、少し歩いた所にあるベンチに皆で座る。
そして火燐は水が入ったペットボトルをイーノック達に渡し、少しの間食休みをする事に。
「アル、遅くなったけどお祝いを渡しに来た。」
「…これは!プリン好きには堪らない極上プリンじゃないですか!しかもこの大きさ…最高ですね。雫様、妻と2人でありがたく食べさせて頂きます!」
「ん。」
雫はこの間に非番のアルフォンス宅へと向かい、家の入口で雫を出迎えたアルフォンスにそう言って超特大サイズの極上プリンを渡す。
雫は少し前にアルフォンスと妻との間に子供が出来た事を聞いてはいたのだが、中々お祝いを渡す事が出来ずにいた様だ。
アルフォンスは嬉しそうに雫からプリンを受け取り、雫もそう言って軽く微笑んだ。
30分後
「今朝ポータルを設置した時も思ったけど、流石霊峰って呼ばれるだけあって神秘的で良い景色だよね。」
「うわぁー!!風が強いけどすっごい景色だねー!」
「だろ?ただここは寒い所にある魔素点だからか、氷に属する魔物が出るのがな…。」
「そうだね。今も山の周りを青っぽい鳥みたいな魔物が飛んでいるみたいだし…。」
「まぁでもここで立ち話もなんだしな、先に進むとしようぜ。」
「うん、分かった。」
凛達は獣国の王都から500キロ圏内で南西部の高い位置にある、霊峰エルミールの入口付近へと観光でやって来た。
エルミールは大陸の南西部にあり、ウンディーネとシルフが半々で交わる部分となっている。
更にエルミールは高い位置にある山と言う事もあってか、1年中吹雪く雪山となっている。
凛達はエルミールに備えて防寒着に着替える為、昼食後直ぐにレオン達を一旦獣国王城へ送った。
そして王城から戻って火燐達を迎えにいくのだが、寒いのが苦手なのとイーノック達を介抱する為に火燐だけは残るとの事。
凛達は屋敷に戻り、凛とステラと段蔵の3人は茶色のファー付きの黒いダウンジャケット等を、美羽と雫と翡翠と朔夜は白いファー付きの白・青・黄・黒のダッフルコート等を、楓は茶色のピーコート等を着用して再び王城へ向かう。
レオン達はチュニックの上に毛皮のマントを纏って待機していたのだが、凛達のおしゃれで機能性の高い上着を見て羨ましく思った様だ。
凛はレオン達にねだられた事もあって、レオン達が再び着替える迄少し待つ事になった。
着替え終わったレオンとレオパルドとレオネルの3人は茶色のファー付きの黄色いダウンジャケット等を、タリアと(ステラとお揃いにしたかったのだが、女の子だからと言われて渋々な様子の)サラとシーラの3人は白いファー付きの黄色いダッフルコート等をそれぞれ身を包んでいた。
凛は今朝、王城のポータルの範囲内にあったエルミールの入口にポータルを設置していた。
そして王城からポータルで移動し、先頭で出た凛が遠くを眺める仕草でそう言うと、凛の頭の上では無く首元から顔を出したシエルが釣られる様にして叫ぶ。
凛達の発言でレオンは満足げに頷くのだが、直ぐに複雑な表情へと変えてそう言うと、凛は遠くを眺める仕草のまま答える。
レオンは気を取り直した様にそう言った事で凛は手を下ろし、レオンの方向を向いて頷く。
そして凛が頷いた事を合図に、レオン先導の元でエルミールを進み始めるのだった。