267話
アイルとサーシャはデミリッチとして復活した後、翌日サルーンの隣にあるスクルドへと戻っていたりする。
アイルは亡くなる迄は鉄級冒険者をやっており、スクルドにある冒険者パーティー『草原の風』の一員だった。
パーティーメンバーがスクルドでアイルと再会した際、アイルとの連絡が取れなくなった事で心配していた様だ。
しかしアイルから暴行された末に一度死んでしまった事や、その後死霊魔術で甦ったとの報告を受け、パーティーメンバーは非常に驚いていた。
サーシャも同様に夫へその様な報告をして複雑な表情をされるのだが、彼等はアイル達の現状を理解してサルーンに移り住む事になった。
ココはスクルドから結構離れた所で捕まった事に加え、大人しい性格故に家族から疎まれていた事もあり、家族を探しに行く予定は無いそうだ。
草原の風のメンバーは剣士のイーノック、リーダーで槍使いのベック、同じく槍使いのセティ、そして魔法使いのアイルの4人だ。
サーシャの夫はアルバートと言い、大人しそうな外見をしている。
今回アイル達は7人で行動しており、先頭にいるアイルが凛を見付けて声を掛けたと言う流れとなる。
「貴方がイーノック?」
「はい?そうですけど…。」
「そう。…イーノック、そんな装備で大丈夫か?」
「「ぶふっ!!」」
「済みません…僕達まだ鉄級なんです。こんな装備で済みません…。」
「雫…おま・えは・ルシ・フェル・かっ!」
「お"ぅ"っ…。」
「元ネタを(この世界の)一般人が分かる訳が無いのに大丈夫だ、問題無いなんて言う訳ないだろ…。流石にイーノックが可哀想だぜ。ったく、悪かったな。」
凛がアイルと話をしていると、雫がとことこと前に出て17歳位の見た目をした赤い髪の少年イーノックへそう尋ねる。
雫は以前アイルからパーティーメンバーについての話をしており、確認の意味も込めてイーノックに声を掛けた様だ。
イーノックはどうして声を掛けられたのか分からなかった為、不思議そうな表情で返事を行った。
すると雫はイイ声(のつもり)でその様な事を言った為、イイ声に反応したのか美羽とステラが吹き出してしまう。
反対にイーノックは割と安価で手に入る、死滅の森入口に生えている木を使った胸当てや盾、そして質の悪い鉄を使った剣を身に纏っている事で、雫に貶されたと思った様だ。
イーノックが恐縮して返事をした事で火燐が複雑な表情となり、そう言いながら雫の頭上からチョップをする。
どうやらイーノックはメンタルが弱い様だ。
雫は呻き声を上げながらしゃがみ込んでしまい、火燐は雫へそう言った後にイーノックの方を向いてフォローを行う。
その様子を翡翠と楓は苦笑いで見ており、レオン達は訳が分からないと言った表情で見ていた。
「い、いえ!…ですが、どうして皆さん笑いを堪えてらっしゃるのでしょうか?」
「あー…悪い、イーノックは知らなくても良い事だからな、伝えるのは止めとくわ。」
「はぁ…。」
「火燐にぶたれた…。凛にもぶたれた事無いのに…。」
「凛は男だが、少なくともお前の父親じゃ無いぞ。それに凛は優しいからな、理由も無しにぶたれる事は今後も無いだろうよ。まぁ雫の事は置いといて…あ、そういやお前等も昼飯って言ってたな。オレ達もこれから領地にあるVIP宿で食べる所なんだよ。詫びとして一緒に向かおうぜ。」
「いやいやいやいや!ぼ、僕の事でしたら大丈夫ですから、気になさらないで下さい!」
「良いから良いから!アイルが世話になってるみたいだし、気にすんなよ。」
「あ、ありがとうございます…。」
「私の事は置いてかれた…。」
イーノックは困った表情で火燐に尋ねると、火燐は複雑な表情で返事を返す。
これに釣られたのかイーノックも複雑な表情で相槌を打った後、雫はしゃがんだまま頭を押さえ、涙目で火燐に訴える。
火燐は適当に雫をあしらった後に少し考える素振りを見せてそう言うのだが、イーノックは火燐の発言を聞いてとても自分達では払える額では無いと思ったのか、わたわたと慌てて断ろうとする。
しかし火燐が肩を組むみたいにして右腕をイーノックの首に巻き付かせて言うと、イーノックは綺麗なお姉さんに肩を組まれた事と胸を当てられながら言われた事で恥ずかしくなった様だ。
顔を真っ赤にして俯き、ぼそぼそと呟く様にしてお礼を言った。
そして立ち上がった雫はそう言って凹んでおり、美羽、翡翠、楓の3人から慰められていたりする。
正午前
「…凛様。」
「篝お疲れ…って更に人が増えたね。それも女性ばかり…。」
「昨日のステラとの手合わせを行った後から更に増えたんだよ。ステラはサラ様達に守られているから余計にな…。」
「昨日の手合わせの時の篝は格好良かったからね。皆がそう思うのも仕方無いんじゃないかな?」
「恥ずかしいから止めてくれ…。まぁでも、凛に褒められた事は素直に嬉しいかな。」
『キャーー!!』
凛達は(ポータルの事を知らないイーノック達の事を考えて)話をしながらサルーンから歩いて領地迄移動していた。
そして北側から入って中央へと向けて移動していると、後ろに多数の女性を引き連れた篝と遭遇する。
篝は昼食を摂ろうと思い指南する事を止めて移動を始めるのだが、篝にお近づきになりたいと思う女性達が後ろから付いて来た。
篝は以前よりその格好良い仕草が元で、女性達から『お姉様』と呼ばれて慕われていた。
しかし昨日のステラとの手合わせで更に人気が高まり、一昨日迄20人位だったのが今日は50人位に迄増えていた。
篝はどこに行っても付いて来る女性達の影響もあってか、少しうんざりした様に凛に声を掛ける。
凛は篝を労うのだが、直ぐに篝の後ろにいる女性達に視線をやりながら複雑な表情で言うと、篝はげんなりした様子で返事をする。
しかし凛が笑顔で篝を褒めると、篝は少し顔を赤くして答える。
女性達は篝が恥ずかしがる仕草も素敵だと思ったのか、揃って黄色い声を上げる。
その後凛は篝を加えてVIP宿へむかい、宿の中に入る。
女性達は流石に中へ入る事を諦めたのか、名残惜しそうに篝の背中を見詰めるのだった。