254話
「何、お前が獣王だと困るのが俺以外にもいるって事だな。」
「お前…こんな奴等の手を借りるなんて、落ちる所迄落ちたもんだな。」
「黙れ!!お前さえいなければ俺は獣王のままでいられたんだよ!いつもは5人位の部下をつれていたが、どういう訳か今日は嬢ちゃん1人だけの様だったからな。今日ならお前を捕まえた後に痛め付ける事が出来そうだ。」
「詰まり、お前は俺を捕まえる為に今日迄仕込みを入れていたと言う事か。…下らねぇ。」
ガルシアが肩を竦めてそう言うと、レオンは情けないと言わんばかりの表情で答える。
ガルシアはそれを聞いて激昂して叫んだ後、ニヤリと笑いながら言った事でレオンは心底呆れた表情で答える。
「…これ以上話しても無駄な様だな。」
「はぁ。…店ごと巻き込んでおいてよく言うぜ。」
「強がりはよせ。レオンと猫の嬢ちゃんは戦えるとしても、お前の後ろにいる娘2人は完全に素人だ。そんな娘を庇いながらお前は戦えるのか?お前達が2人に対してこっちは7人なんだぜ。」
「くっ…。」
ガルシアは無表情でレオンを見てそう言うと、レオンは溜め息をついた後に辺りを見回してそう答える。
酒場の2階にいる猫の獣人達がステラへ向けて短剣を投げた事で、店中がパニックになっていた。
ガルシアはレオンからサラ達に視線を移した後にニヤリと笑って言うと、レオンは不味そうな表情となり言葉に詰まってしまう。
レオンはサラとシーラは初めての娘で可愛く思えたからか、今迄碌に訓練等を行わなかった事が仇になってしまった様だ。
「こっちは4人なのじゃ。」
『…!』
「何っ!?」
「この酒場で複数の人達が怪しい動きをしてるのは分かっていたんだけど、僕達じゃなくて同じ獣人のステラをレオン様に付いて貰う事で警戒心を緩める迄の事は考えて無かったよ。流石朔夜だね。」
「うむ。妾にとってこの程度の事なぞ、余裕のよっちゃんなのじゃ。」
「朔夜。それって、僕のお母さんとかが使う年代の言葉じゃ…。」
「うん…僕もそう言おうと思ってたんだよね。」
「五月蝿いのじゃ!妾を年寄り扱いするで無い!」
「「えぇ…。」」
朔夜はそう言う前に1番左端の猫の獣人に物質変換・闇を使った黒い靄を、反対側の1番右の猫の獣人へは凛が紫水の糸をそれぞれ飛ばす。
2人の猫の獣人は朔夜と凛が飛ばした物が自身の腰と足首の位置で巻き付けられた事で、強制的に気をつけの姿勢で固定された後に床に倒れてしまう。
その後そう言って現れた朔夜の存在によって、床に倒れた者も含めた6人の猫の獣人とガルシアが驚く。
そして朔夜の反対側から、そう言いながら凛がやって来た。
朔夜は少し得意気にそう言うと、凛とステラが少し複雑な表情で突っ込む。
朔夜はこれに腹を立てたのか、少し自棄気味でそう返事すると2人は困惑した様子で返事を返す。
朔夜はどうやら今回の事を予測していたのか、レオン達が酒場に入ったのをサーチで確認した後、凛へ声を掛けてポータルを使い2人で店の近くに待機していた。
そしてパニックに乗じて酒場の2階からこっそり中へ入り、出るタイミングを窺っていた様だ。
因みに、シエルは椅子に座っているタリアの膝の上でお昼寝をしていたりする。
「…何だかよく分からねぇが、どうやら形勢逆転になった様だな。ガルシア、流石に今回の事は許せる範疇にねぇから覚悟しておけよ?」
「くっ…。ならお前達の誰かを人質にでもして、この場をやり過ごさせて貰うとするぜ!」
レオンは事態に付いていけないのか、いまいち分かっていない表情でそう言った後に真面目な表情で言う。
ガルシアは悔しそうな様子で言葉に詰まるが、直ぐにきっとした表情になってそう叫びながらレオン達へ向かって行くのだった。