251話
昨日から領地にあるユグドラシルの木に、何故か黄金色をした林檎が毎日複数個実る様になった。
今でも魔力を注いだ水を与えている事でユグドラシルが成長したのと、木が光属性を帯びて来る様になった事で実る様になったのではとナビは言っていたが、未だに原因は分からないままだ。
ユグドラシル本人(?)である翠も分からないのか、首を傾げていた。
昨日の早朝に起きた凛が早朝訓練の準備をしていると、ナビからユグドラシルに黄金の林檎が実っている事を伝えられる。
凛はユグドラシルを見に行くと、まだ夜が明ける前なのもあってか木の数箇所が光っていた。
凛は光っている場所へ飛んで向かうと、ソフトボール位の大きさで黄金色に輝く林檎が木になっている事に驚く。
凛はその林檎を採取した後に訓練部屋へと向かい、訓練に来た美羽達に黄金の林檎を見せる。
美羽達が驚いた表情で林檎を見ている間に凛は翠、金花、銀花、棗、樹、柊を念話で訓練部屋に呼び、翠達にも林檎を見せながら事情を説明する。
そして1人当たり小さな一口分しか渡らなかったが、取り敢えず食べてみるとそのあまりの美味しさに皆驚いた。
その後のナビの報告によると、どうやら黄金の林檎は神輝金級上位に当たる果物らしく、魔素が凝縮されているのもあって普通の人間が食べると寿命が伸びるらしい。
それと黄金の林檎は特殊らしく、今後も魔力による複製は困難な可能性がある事を伝えられた。
或いは、凛とナビはまだ気付いていない様だが、進化に大分近付いた影響なのかも知れない、、、
皆(特に火燐と雫)が茜達を羨ましそうに見ていたのは、風華の言う通り林檎が希少だからだったりする。
凛達は訓練前に話し合った結果、無用な争いを避ける為に林檎が実ったのが分かったタイミングでアルファ達に採取して貰う事が決まる。
それと、林檎が実る頃からユグドラシルを中心として半径10キロ位の距離は、魔物避けの結界代わりとして機能する様になった。
前に朔夜が言っていた弱体化の影響も魔物避けに含まれるのと、林檎も木と同様に光属性を帯びてるからか、朔夜は今朝凛達が作っていたアップルパイを見て渋い表情となる。
どうやら朔夜達の様な闇系の魔物にとって黄金の林檎は毒になるらしく、朔夜達は黄金の林檎が含まれた物を食べる事は一切無かった。
「やっと食べ終わった…。火燐様、折角美味しいアップルパイを食べさせて貰ったのに、まるで訓練みたいに感じましたよ…。」
「うるせぇ!俺達は林檎が4分の1なのに対してお前等は丸々2個分ずつだったじゃねぇか!」
「そう。茜達ズルい。」
「んな無茶な…。」
2番目に食べ終わった茜が複雑な表情でそう言うと、火燐と雫がそう返事した事で茜はそう言って項垂れてしまう。
そして皆の視線が今もアップルパイを食べている雷華へ向かった事で、丁度アップルパイを口に運ぶ所だった雷華はビクッと体を強張らせる。
雷華はその後急いでアップルパイを口の中に詰め、両頬一杯に頬張った状態のままで先に戻った茜達を追って部屋に戻ってしまった。
「(んー…出すタイミングが悪かったみたいで茜達には悪い事をしちゃったね。お詫びに後で(念の為に残しておいた)アップルパイを渡しに行こうかな…。)」
風華はまだしも茜と雷華は無理矢理食べさせてしまった感じがした為、凛は夕食後に茜達の部屋へお邪魔してアップルパイを3分の1ずつ渡す事を心の中で決める。
「ははっ、凄いわぁ!色んな魔法が使えるて、こんなに楽しいもんなんやなぁ!」
昼食後、凛達はアイル達や茜達を見る為に訓練部屋へやって来た。
アイルは生前は銅級冒険者だった為か中級迄しか水属性魔法を扱えなかったが、今は火燐達から加護を与えられたのもあって上級迄の魔法を扱える様になる。
アイルは火燐達から魔法の指導を受け、そう言って練習用の杖を用いて楽しそうに的に向けて炎系上級魔法エクスプロードを放つ等して魔法の訓練を続けていた。
「サーシャさんって、アルファちゃんみたいに何も無い所でいきなり転ぶんだね…。」
「ごめんなさい…。けど、これでも前に比べたら少ない方なんですよ?」
「…旦那さん大変そうだね。」
サーシャは運動が苦手らしく、上級吸血鬼となった今でも動きが怪しかったりする。
美羽の指導の元で先ずは体に慣れて貰う事から始めようと言う事になり、歩く・走ると言った訓練を行う。
そして訓練を始めて5分程経ったが、歩くのは特に問題は無さそうだが走る事になるといきなり前方に倒れる事が何回かあった。
因みに、アルファは神輝金級中位の強さとなった今でも偶に何故か転んだりする。
美羽が複雑な表情でそう言いながら左手を差し伸べると、サーシャは申し訳無さそうな表情で美羽の手を取りながら答える。
美羽はサーシャの手を引いて立たせた後、複雑な表情のままそう言った。
因みに3人共白いワンピース姿の為、色々捲れたりしてある意味全員(特にサーシャが)悲惨な事になっていたりする。
「ココ、自信が無いって言う割に中々やるじゃないか。あたしが訓練が始めたばかりの頃はココ程上手く動けなかったんだぞ?」
「そうなんですか!?」
「…ああ。まぁ、あたしの体調が普通じゃ無かったのもあるんだが、それでもココには才能があると思う。」
「篝さん、ありがとうございます…!」
凛達が訓練部屋へ移動しようと屋敷の外へ出た際、指南役をしている篝が丁度今日の仕事を終えて帰って来た所に遭遇する。
篝は凛と軽く話をしていたのだが、その間ココは篝の凛とした立ち姿が格好良いと思ったのか、篝の事を憧れの眼差しで見ていた。
視線に気付いた篝はココに話し掛け、そのまま訓練部屋で指導する事となった。
篝はココの走ったり跳ねる動きを見て満足そうな表情でそう言うと、ココは首を傾げながら篝に尋ねる。
篝は仲間になった当時は部位欠損に加えて衰弱していた為、リハビリの様な形で訓練を始める事となった。
篝はその事を思い出したのか少しだけ暗い表情となるが、直ぐに笑顔でそう言うとココは尻尾をぶんぶんと左右に振りながら嬉しそうに答えるのだった。




