249話
「お前は知らない様だから言わせて貰うと紅葉はネクロマンサーで、クロエは紅葉がアイル達と同様にネクロマンシーで甦らせた不死者だ。そんであの魔物達は、クロエが最後迄進化した事で呼び出す事が出来る様になったんだよ。」
「進化…それにあの小娘はネクロマンサーだったのか…。それよりもアレックス皇子殿下、この神聖な決闘にあの様な魔物達が加わる事は反則なのでは無いのですかな!?」
「神聖な決闘だと?紅葉達6人を相手にあれだけの兵士をぶつけて来ただけでは無く、負けそうだからって先に魔物であるトロールキングを呼んだお前がそれを言うのかよ。と言うかあっさり倒れたトロールキングを見て分かっただろうが、紅葉達が本気だったらお前等とっくに全員死んでるんだぜ?それに紅葉が決闘を受ける時、戦うのは6人だけでと言ったか?」
「ぐ…。言っては、おりませんでしたな。(くそっ、何故この私がここ迄悔しい思いをしなければならないのだ!)」
アレックスがブンドール侯爵の元へ向かいながらそう言うと、ブンドール侯爵は再び立ち上がって喚いた。
アレックスは何言ってんだお前?と言いたそうな表情で尋ねるとブンドール侯爵は少し俯いてそう言い、手をぐっと握りながら内心悪態をつく。
「(こうなれば万が一と思って用意しておいたこの短剣で、このガキを人質に…!)」
「…やらせねぇよ?俺だってここに来て(凛の訓練部屋に行く様になって)から強くなってるんだ、お前程度に遅れを取る訳がねぇだろ。ブンドール、これ以上見苦しい真似をしてこの場で斬り伏せられるか、さっさと降伏して負けを認めるか今直ぐに選べ。」
「わ、私の、敗けです…。」
『…わぁぁぁぁ!!』
ブンドール侯爵は俯いたまま、懐に忍ばせておいた毒の効果が付いた短剣を使ってアレックスを人質に取ろうと考える。
そしてそれを行動に移そうとして懐に手をやり、アレックスがいる3メートル程の距離を詰めようとして歩き出す。
しかしアレックスはその前に腰に着けているアイテム袋からミスリルで出来た刀を取り出し、そう言いながらブンドール侯爵の目の前に刀を突き出す。
ブンドール侯爵は懐から手を離し、項垂れながら三度目の膝を突いて負けを認める。
その光景を見た事で、周りにいる見物客から大きな歓声が起こった。
「いやー計画通りだったとは言え、初めてみた銀色の龍と言いかなり良い物を見させて貰ったぜ。リズ達も元が死体だから体が冷たいのは仕方無いんだが、そこさえ目を瞑れば毛はふっさふさだし可愛いんだよなー。動物好きにとってテイマーとかクロエの存在は堪らないだろうな。」
「…そうですわね。ですがこれで皆さんとお別れと言うのも寂しいですわ…。」
「決闘の決着を付ける迄の滞在予定だったからな。…とか言いながらアイシャお前、昨日アイテム袋にスイーツ店で買ったスイーツを詰められるだけ詰めていたじゃねぇか。」
「あ、あれは仕方の無いことですわ!そうですわよね、パティ様?」
アレックスはブンドール侯爵が降伏した後に見物客達を解散させてから一通りの準備を終え、マリア先導の元で先に帝都へ向けて出発して貰った。
そして出発前の挨拶と言う事で凛達の前に姿を現し、クロエの近くにいるリズ達を撫でながらそう言った。
リズ達はアレックスの事を認めてるのか、アレックスに撫でられて気持ち良さそうにしている。
その光景を羨ましい様な恐ろしい様な心境で見ていたアイシャがそう言うと、アレックスは少し呆れた表情になりながらアイシャを見てそう話す。
するとアイシャは少し焦った様な表情でパトリシアへと話を振る。
「そうね、アイシャの言う通りよ。私も含めて商店とスイーツ店の事を知っている女の子なら、恐らく皆そうすると思うわ。それと、アレクとアイシャが帝都に帰るのなら…私も王都に帰らない訳にいかないわね。」
「そうだな。当初の予定よりも長く滞在していたし、お互いいい加減に帰らないとだからな。パティや凛達とはこれで一先ずお別れだ。凛、昨日渡した招待状があれば帝都でスムーズに帝国城迄進めると思うから役立ててくれ。それじゃ俺達はこれで帰るが、ありがたく藍火とファイ達を借りていくな。」
パトリシアは話を進める内にアレックスと離れるのが嫌になったのか、段々と寂しそうな表情になっていく。
アレックスはリズから離れた後に頷いて答え、真面目な表情でそう言った。
如何にアレックスが皇子で護衛のマリアが付いていたとしても、かなりの大人数で帝都迄向かう事はアレックスにとってかなり危険な行為だ。
本人は大丈夫だと言って聞かなかったが、凛やパトリシアから護衛を増やす様に言われて渋々了承する。
凛は恐らく今日中には茜達が進化から目覚めるだろうと言う事で凛の領地周辺のパトロールを茜達に任せる事にし、アイシャと仲の良い藍火とファイ達にアレックスの護衛を頼む。
ファイ、カイ、プサイ、それとオメガの4機は、凛がエルフの里へ向かう前日の夜に用意したエクスマキナだ。
ファイ達は先程迄凛の領地の警備をしつつ、囲う様にして死滅の森の外側に設置したポータルを使い、領地から遠く離れた場所でも森から出た魔物を察知して直ぐに対処に向かって貰っていた。
凛はファイ達を神輝金級の強さに設定し、それぞれ身の丈以上の大きさをした槍、戦鎚、大斧、大剣を使わせている。
ファイ達は既にマリアと共に出発しており、兵士達への牽制も兼ねて各々が武器を持った状態で帝都へ向けて進んでいる。
「分かりました。また今度ですね。」
「アレク…また会いましょうね?」
「ああ、2人共またな!」
「失礼しますわ。」
「それじゃ、自分は行ってくるっす。」
「皆さんお気をつけて。」
凛が頷いてそう言うと、パトリシアは両手を胸の前にやりながら心配そうに言う。
アレックスは反対に元気良く答えて離れて行きながら手を振り、アイシャと藍火はそう言ってお辞儀をした後に離れながら2人で話を始める。
凛はそう言ってパトリシアや美羽達と共に、アレックス達が見えなくなる迄見送るのだった。