247話
「グオッ!グオオッ!グオオオオオ!!」
「………。」
「ええい、ちょこまかと動きおって!トロールキングよ、早く捕まえんか!」
「グルルルル…。」
「な、何だその目は!私はお前の主人なのだぞ!」
「………。」
1対1の戦いが始まって5分程、トロールキングが紅葉を捕まえようとするが紅葉はそれを掻い潜って避け続けていた。
そんな中でブンドールがトロールキングへ向けて叫んだ事で、紅葉が捕まえられなくて苛立っているトロールキングは唸りながらブンドール侯爵を睨む。
ブンドール侯爵は体を強張らせて去勢を張る様にして叫ぶと、トロールキングは次はお前だぞ?と言いたげな視線をブンドールへ向けた後に紅葉の方を向く。
ブンドール侯爵はトロールキングを飼っているつもりの様だが、トロールキングはブンドール侯爵の事を勝手に自分に餌を用意してくれる存在として認識している。
その為忠誠心等は全く無く、紅葉を相手にして苛々してる時に横槍を入れられた事で見限ろうと考えた様だ。
「…成程。(凛様、少し宜しいでしょうか?)」
「(ん?紅葉、急に念話を送るなんてどうかしたの?)」
「(戦闘が始まってからずっとトロールキングの周りにいらっしゃる方々にお話を伺っていたのですが、どうやら私の目の前にいるトロールキングはここへ来る迄に沢山の女性を食べてきた様です。)」
「(なんて酷い事を…。)」
「(そうなのです。周りの方々はトロールキングを倒す事で未練が無くなり、この世を離れる事が出来るそうです。それと、まだトロールキングの体内には先程食べたとされる女性が3名分あるそうです。私が相手をしているトロールキングの討伐と、体内にいらっしゃる3名を死霊魔術で甦させても宜しいでしょうか?)」
「(相手は人じゃ無くて魔物だからね、亡くなられた人達の為にもそうした方が良いと思う。紅葉のやりたい様にして大丈夫だよ。)」
「(畏まりました。それでは失礼しますね。)」
紅葉はトロールキングの攻撃を避けながら、トロールキングの手によって亡くなった女性達と話をしていた様だ。
女性達からトロールキングへの恨み辛みを聞いた後、数回噛んだ事でバラバラになって幾分か溶けてしまったものの、トロールキングの胃の部分に3人の女性の体がまだ残っている事を知る。
紅葉はそれを聞いて亡くなったばかりの3人の女性に話をして承諾を得、死霊魔術で体を取り戻す事を考える。
その後も紅葉はトロールキングの攻撃を避けながら凛と念話での会話を行い、紅葉の相手をしているトロールキングの討伐が決まった。
「グルォォォァァァ!!」
「お黙りなさい!」
「グォ?グ…。」
『!?』
「な、馬鹿な!?儂のトロールキングがこうもあっさり…。」
討伐が決まった直後にトロールキングの怒りは頂点に達したのか、少し上を向きながら最も大きな叫び声を上げる。
紅葉はそう言いながら颯を斜め上に振るい、トロールキングの首目掛けて大きな風の刃をおこす。
そして風の刃はトロールキングの体を通り抜けると、トロールキングは不思議そうな表情をする。
トロールキングはその表情のまま頭の部分が滑って下に落ちていき、首から下の部分はゆっくりと前方に倒れた。
その光景を見て兵士達や見物客達は驚き、ブンドール侯爵はそう言った後に両膝を地面に突いてしまう。
「それでは、時間もあまりありませんので(作業を)始めたいと思います。」
「…!」
紅葉はトロールキングの亡骸の近くに立ち、そう言った後に圷を振るう。
すると自分達を覆う程の土で出来た密室部屋の様な物を造ると、周りの者達はいきなり小屋の様な物が出来た事に驚いた。
凛は紅葉が土で出来た建物で自身達を覆っている間に情報を共有しようと思い、念話で美羽達や暁達に紅葉の目的を伝えている。
しかしアレックス達を含むそれ以外の者達は、いきなり紅葉が土魔法による建物を建てた事で困惑していた。
「(ネクロマンシーの)作業が完了しました。」
それから10分程経ち、紅葉がそう言って魔法を解除する。
土で出来た建物は少しずつ分解されて中の様子が露になるのだが、そこにはトロールキングの亡骸は無かった。
その代わり水色の髪をした少女と黄色い髪色の女性、それと少し藍色がかった髪色の犬耳と尻尾を持った獣人の少女の3人が紅葉と共に立っているのだった。