244話 58日目
午前9時過ぎ
「ブンドール侯爵達、来ないな…。」
「来ませんねぇ。」
「あいつ等…自分から時間を指定しておいて自分が守らねぇとか、ふざけてるにも程があるぜ!」
「こんな事、絶対に許せるものではありませんわ!」
「(やれやれ、本当なら必要無い事なんじゃがの。)…妾が空へと飛び、決闘相手とやらが今どの辺にいるか見てくるのじゃ。」
午前8時40分頃にシエルを頭に乗せた凛と美羽達、アレックスとパトリシアとアイシャを含めたステラ達、朔夜、段蔵、ジークフリート、菫、それとこれから決闘を行う紅葉達と一緒に領地から歩いて移動を行い、これから決闘予定場所であるサルーンと死滅の森の間にある平原へとやって来た。
そこには既にガイウスとゴーガンを含めた多数の見物客が来ており、凛達が来るとざわめきが起きる。
凛はガイウスとゴーガンに挨拶や話をしている内にブンドール侯爵から指定された9時になったのだが、未だに本人はおろか関係者の1人ですら平原に姿を現さなかった。
ガイウスが少し困った表情でそう言うと凛は苦笑いな表情で答えるが、アレックスとアイシャは苛立った様子でそう言った。
凛は朝食時に(サーチを使って)ブンドール侯爵達が平原からまだ少し離れた所にいる事を知って美羽達に伝えていた為、今のアレックス達の様に怒りを表現していなかった。
朔夜も勿論知ってはいたが、アレックス達に少しでも心に余裕を持たせようと考えた様だ。
内心そう思った後に皆に伝えると、少しだけ反動をつけて上空へと真っ直ぐ飛んで行った。
「こちらへ向かっている集団を見付けはしたが、ここへ来る迄にまだ少し距離がある様じゃ。恐らくじゃが後2、3時間は掛かるであろうな。」
「まだそんなに掛かるんですの!?ブンドール侯爵は最初から時間を守る気が無かったとしか思えませんわ!!」
「最初から時間を…、そうか。それで奴は時間を9時『位』と指定したのかも知れないな。遅れたとしても言い訳が立たない訳では無いし、時間を過ぎて相手を苛立たせた事で思考や判断力を削ぐ狙いがあるとかでな。」
「…とても納得出来るものではありませんが、アレク様が仰る事の意味は理解しましたわ。」
「くくっくくっ…、何。向こうが俺達の事を怒らせるつもりだと言うのなら、こちらも同じくあいつ等が怒る様な事をすれば良いだけさ。…ってな訳で凛、ちょっと良いか?」
「? 何でしょう?」
「あのな…。」
それから30秒程経つと、上空にいた朔夜が地面に降り立った。
朔夜はその後少し考える素振りを見せてそう言うと、アイシャは激昂してそう叫ぶ。
しかしアレックスはアイシャがそう言った事で合点が言ったのかそう言うと、アイシャは物凄く不満そうな表情でそう言う。
アレックスは黒い笑みを浮かべてそう言った後、少しだけ離れた所にいた凛を呼ぶ。
凛はいきなり呼ばれた事を少し不思議に思っていたが、一先ずアレックスの元へ向かう事にした。
アレックスは凛と一緒に皆から少し離れた場所へ向かい、そう言ってこそこそと話し合いを始める。
正午頃
「(少し早いがこちらは昼食も済ませた事だし、奴等は散々待たされた事で苛立っているのだろうな。)」
ブンドール侯爵はそんな事を考えながら、一緒に来た多数の部下共々意気揚々と平原伝いに決闘予定地にやって来た。
「…何だこれは?決闘の前だと言うのに、何故奴等は楽しそうに食事をしているのだ?」
『………。』
しかし凛達は平原のサルーンの直ぐ近くで即席で用意した屋台やバーベキューを行っており、バーベキューの近くでは焼いた物を食べている者達、屋台の近くや死滅の森入口付近では屋台で購入したフライドポテトや焼きそば、たこ焼きやクレープにソフトドリンクが入ったコップを持った見物客が沢山いた。
ブンドール侯爵はその様子を見て唖然となり、後ろにいた部下達も呆然としているのだった。