243話
午後3時頃
「凛よ。そろそろおやつの時間になるのじゃが、今日はどうするのじゃ?」
「ん?もうそんな時間になったんだ。そうだね…それじゃ今回は知って貰う意味を込めて、アルル達と牛の牛乳を使ったショートケーキにしようか。…レオン様はどうして元気が無いのかな?」
「分かったのじゃ。」
「凛様、主人の事は放って置いて大丈夫ですわ。レオネル、サラ、シーラ。気持ちが良くて寝るのも分かりますが、いつまでもそうしていると昊様の迷惑になります。そろそろ起きてこちらへいらっしゃい。」
「「「はい…、お母様…。」」」
レオネル達は昊の体毛が心地良いのか、未だに昊に踞った状態で寝て(実際は起きている)いた。
凛、ジークフリート、人間の姿のシエル、それと少し席を外していたレオパルドの4人が昊の近くで話をしている所へ、朔夜がタリアと落ち込んでいる様子のレオンを連れてやって来た。
朔夜が凛に話し掛けると、凛は相手が王族なのも考慮してそう提案する。
その後落ち込んでいる様子のレオンを見てそう問い掛けるが、朔夜はそう言ってレオンの事をさらっと流し、タリアはレオンに一瞥もくれないでそう吐き捨てた。
その後レオネル達にそう促すとレオネル達はもぞもぞと動いた後、名残惜しそうに昊から離れてタリアの元へと向かう。
そしてタリア先導の元で朔夜と段蔵、レオパルド、レオネル、サラ、シーラの順で食堂へ向けて移動を始める。
「…レオン様、何があったのか分かりませんが元気出して下さい。」
「凛、済まねぇな…。」
凛は移動をせずに立ったままのレオンの元へ向かい、そう言って慰める。
レオンは複雑な表情で凛にお礼を言い、2人もタリア達が向かっている食堂へと歩き始めた。
「いやぁ、美味かった。ショートケーキとやらを初めて見たが、レオパルドが凛から提供された食べ物について熱く語るのも納得がいったぜ。」
「お恥ずかしい…。今食べたショートケーキも勿論ですが、凛君が用意して下さるのはいずれも美味しい物ばかりでした。我が国の特産品である海産物についても、沢山の料理法を教えて頂きましたし。」
「そうだったな。今迄は単純に焼くか塩を使う位しか食べる方法が無かったからな、新しい料理法が伝われば獣国が益々栄える事になるだろうよ。」
「そうですね、今日は新しい発見ばかりの1日でした。凛様と知り合えた事が、この国の未来にとって良かったのかも知れません。」
「ありがとう。そう言って頂けるだけで、今回伺わせて貰って良かったと思えるよ。」
一行は食堂に移動してから30分程、生地と生クリームに普通の牛乳とアルル達の牛乳を半々に混ぜたショートケーキと紅茶を楽しんでいた。
一通り済ませた後に満足そうな表情でレオンがそう言うと、レオパルドは恥ずかしそうに答える。
レオパルドは続けて嬉しそうにそう言うとレオンは頷いて答え、タリアも笑顔でそう言った。
凛は少し恥ずかしそうにしながらも、笑顔でそう答える。
「段蔵よ、ケーキのお代わりなのじゃ。」
「はっ。…こちらに。」
「うむ。」
「「「………。」」」
因みに、他の者達は談笑をしていたが、朔夜だけは今でもひたすらショートケーキを食べ続けていた。
今も段蔵にお代わりを出す様に言うと、段蔵はそう言ってケーキが乗った皿を無限収納から出す。
しかしケーキと言っても直径30センチ程のホールケーキで、8等分に切れ目が入った状態の物だったりする。
そして段蔵はそう言って皿に乗ったホールケーキを朔夜の前に置くと、朔夜は返事をした後に再び食べ始めた。
その光景を、レオネル、サラ、シーラの3人は何とも言えない表情で見ていたりする。
それと流石にレオンは先程ので懲りたのか、敢えて朔夜を見ない事にした様だ。
この世界での調味料は主に香辛料と塩しか無く、ケチャップやマヨネーズ、バター等は存在していない為かどうしても似通った味付けとなってしまっている。
レオンとタリアはレオパルドから鮭のムニエルや塩ダレを使ったバーベキューの話を聞き、海産物を使った料理の種類が増えると喜んでいたりする。
「これが話に聞いたバーベキューとやらか!室内では無く外で食べるからか、凄く楽しく感じるな!」
「あなた。楽しいと思うのも分かりますが、凛様方がいらっしゃる前です。今は控えて下さいませ。」
「勿論分かってるとも!がはははは!!」
「はぁ…。(後でお仕置きが必要なようね。)」
「(レオン様元気になったみたいで良かったんだけど、タリア様がレオン様を見る目付きがなんだか怖い様な…。)」
それから食堂で話をしている内に1時間程経ち、凛はレオンにバーベキューを実際に体験してみたいと言われた。
凛は美羽に帰るのが少し遅れるかも知れない事を念話で伝えた後、皆で中庭に戻って海産物を中心としたバーベキューの用意を始める。
凛は醤油やバター、ハーブバターを使って焼いたり、焼けた物に醤油や塩ダレ、マヨネーズ、タルタルソースを使って食べて見せる。
レオン達は凛に倣って食べ始めると、バーベキューの臭いや音で重鎮や城にいる貴族、城に勤めている兵士やメイド達が中庭へ集まって来た。
「もう直ぐ(午後)5時になるの。しかし妾はもう少しタリアと話がしたいのじゃ。ここは妾と段蔵が残る故、凛達はそろそろ屋敷へ帰るが良い。」
「僕が抜けたら段蔵が大変な気もするけど…。分かった、ここは朔夜の言葉に甘えさせて貰おうかな。レオン様、タリア様。また明日伺わせて貰うので、今日の所は帰らせて貰うね。」
「分かった。凛、また明日な。決闘頑張れよ!」
「分かりました。本日はありがとうございました、また明日も宜しくお願い致しますね。決闘の件は私も心から応援をさせて頂きます。」
「ありがとう。…それじゃ、失礼します。」
「…!…これがレオパルドの言っていたポータルか。もう凛がいなくなっちまったぜ…。」
「確かに便利そうですね…。」
午後5時になろうとした所で、朔夜は凛の元へ向かってそう言った。
凛は少し心配そうな表情でそう言いながら段蔵を見るが、段蔵は何も言わずに頷く。
凛は段蔵に頷かれた事で帰る事を決め、レオンとタリアへ挨拶に向かう。
レオンは元気そうに、タリアは心配そうな表情でそれぞれ凛へ話すと、凛はシエル達を呼んだ後に使い捨てのポータルを設置する。
そしてレオンとタリアに別れを告げて帰宅すると、レオンとタリアはそれぞれそう呟いた。
その後も朔夜はタリアやレオンと話を続けていた。
そしてレオンが許可した事で城にいる者達が中庭に集まってバーベキューを行っている為、段蔵1人だけかなり忙しそうにしているのだった。