242話
一方その頃
凛の領地から南東に20キロ程離れた所にて、菫が人間では無く魔物の姿で木の伐採を行っていた。
菫以外にも菫の時の様に戦闘意思の無い、又は怯える等して戦闘意思が薄いバトルマンティスの説得を行って何体か凛の配下に加えている。
そして人化スキルを施して加護を与えたのだが、まだ菫の様に簡単に森の木を伐採する事が出来る程に進化していない。
その為今朝から菫が1人で森の木を伐採した後、垰が切り株の除去を行う事となった。
垰は1週間程前に凛の配下になった領地にまだ1体しかいない(梓以外の)ランドドラゴンで、既に人化スキルを施している見た目が17歳位の女の子だ。
垰は背中迄の茶髪をお下げにした真面目そうな印象を持っており、高校で着る様な深紅色のジャージっぽい物を着ている。
そして右の胸の所にある白地の四角い所に黒い文字で『たお』と書かれていて、何故か黒い伊達眼鏡をかけていた。
昨晩凛はダイニングでシエルと寛いでいた菫に新しい領地の開拓を頼んだ後に了承を得て、まだ名付ける前の垰の自室へと向かう。
そして垰に菫が木の伐採をする事で出来る切り株の除去と整地の役目を兼ね、菫と一緒に向かって欲しい事を頼む。
垰も了承した事で凛はお礼として垰に名付けを行い、垰は進化の為に休んだ。
翌朝、垰は名付けの影響で土竜へと進化した。
朝食後に菫は本来の姿で木の伐採を行う為、普段の服を着て開拓へと向かおうとする。
垰も白いワンピース姿で向かおうとするのだが雫が止め、ノリで用意した名前入りの深紅色のジャージっぽい物と伊達眼鏡を垰に渡した。
垰は着替えの為に一旦屋敷の中へ入り、再び外に出て着替え終わった姿を皆へ見せる。
垰がかけている眼鏡の存在を知らない者が殆どだったが、垰が着ているジャージっぽい物を見て作業に向いてそうな服装や可愛らしいと言った感じで、皆の反応は上々だった。
火燐、翡翠、楓も似合っていると言わんばかりに頷いていたが、雫と美羽は満足そうな表情で親指を立て、凛とステラは苦笑いの表情を浮かべていた。
「菫様、切り株の撤去が終了しました。」
「垰ちゃんありがとー。ナビ様ー、ここはこんな感じで良い?」
《はい、大丈夫です。それでは菫様、垰様。これからお昼の休憩を行った後、次は渚様方がいらっしゃる所迄の開拓をお願いします。》
「分かったー。それじゃ垰ちゃん、一旦屋敷に帰ろっか。」
「分かりました。」
本来の姿となった菫は体長が7メートル程はある巨体故、腕を振るう度に複数本の木を伐採する事が出来る。
そして菫から少し離れた後方で垰が木の回収と整地を行うと言った流れで作業を進める。
凛達がレオンと謁見している頃、菫はナビの指示で凛の領地と同じ位に森を拓く事を済ませた事で、人間の姿で休んでいる所だった。
そこへ切り株を抜く事と土魔法での整地を終えたのか、垰が菫の元へ歩きながら真面目そうな表情でそう話し掛けて来た。
菫は笑顔で答えた後、少し上を向いてナビに尋ねる。
ナビがそう言った事で菫は垰の方を向いて話し、垰はキリッとした表情で(今朝雫に仕込まれた)伊達眼鏡をくいっと上げる仕草をして答え、2人は屋敷へと戻って行った。
「えっ!?もう菫は自分の所を終わらせたの!?」
《はい、つい今しがた終わりました。現在は昼食を摂りに屋敷へ戻っている所です。昼食後、先程の地点から現在渚様方がいらっしゃる所へ伐採しながら向かう様お願いしました。》
「…こうしちゃいられないわ。まだ新しい所の予定地の開拓を始めて2時間位しかやっていないとは言え、私達も早く終わらせないと!」
渚を代表とした計10人で午前8時頃から2時間程で領地から南の第2予定地の整地を終え、それからは南東に20キロ程離れた第4予定地の開拓を少しずつ行っていた。
しかし渚は人間の姿で大鎌を振るって伐採を行う為菫よりも効率が大分下がるのに加え、一緒に来たのは手が空いた(銀級から金級の強さを持つ)農地組だった。
凛が藍火に頼んで菫と渚達がいる周辺の間引きを行ってはいるが、開拓を行いながら魔物が現れて襲われる事がよくある。
その為渚達は魔物に意識を向けて戦わなければならないが、菫は魔物ごと木を伐採出来るのでその分の時間の短縮にも繋がっている。
その為渚は自分達が数日掛けて第2予定地の開拓を行っていたが、菫は第3予定地を5時間程で終える事となった。
渚はその事に驚いたのか、ナビから菫の現状報告を聞いてそう答えた。
ナビがそう伝えると渚はやる気を出し、そう言った後に第4予定地の開拓を急ぐのだった。