235話
午後3時過ぎ頃 凛の屋敷の客間にて
「…ん。僕は何故凛君の屋敷に?…そうか、散策をしていたら眠くなったから休ませて欲しいと頼んだんだっけ。」
「ゴーガン殿、おはよう。どうやら無事に進化した様だな。」
「猛君か。進化…成程、これが聖人へ進化したと言う事になるんだね。確かに体が軽く感じるよ。」
「その様だ。茜達は進化に備えて休んでいるし、訓練部屋で明日に備えて軽く運動でもして行くか?」
「良いね。それじゃ訓練部屋へ向かおうか。」
客間のベッドでゴーガンは目を覚まし、そういって状況の確認を行っていた。
そこへ直ぐ近くで控えていた猛がそう言うと、ゴーガンは起き上がって体の感触を確かめてそう答える。
その後猛が尋ねるとゴーガンは了承し、2人で訓練部屋へと向かう事に。
「…ふむ、今朝よりも動きやすくなっている様だ。」
「取り敢えずは体の感覚が掴めたと思うのだが、もう少し続けるか?」
「是非頼むよ。」
「…良いだろう。」
訓練部屋に来てから5分程手合わせをした後、ゴーガンは猛から少し距離を置いてそう言った。
猛はゴーガンへ尋ねると、ゴーガンはそう言ってにやりと笑う。
猛もにやりと笑い、先程迄よりもかなり激しさを増した手合わせが20分程の間続く。
散策を始めてから2時間程経った午前10時頃に茜、風華、雷華、そしてゴーガンの4人に進化の兆候が見られた為、いつもより少し早いが帰宅する事にした。
茜達3人は共同部屋で休み、ゴーガンは屋敷にある客間で休ませて貰う事にした。
それから5時間程経った午後3時過ぎにゴーガンが目覚め、その後30分程手合わせをして冒険者ギルドへと向かって行った。
本人達は気付いていなかったが、ゴーガンは聖人へと進化した事で存在感が増し、今迄以上に冒険者達から恐れられる事になる。
それとゴーガンも光属性に適性が出来た為、偶に感情が昂ったゴーガン自身が発光して周りを驚かせる事も。
午後6時過ぎ
「うわー!凛の所に住んでる人達って、こんなに沢山いるんだね!」
「そうだよ。でもそろそろ一杯になって来たから、収まり切らなくなっちゃうかもね…。」
「人がいっぱーい!」
凛がワッズ達と出掛けた後にエルフの里へ戻ると、先程満腹で寝ていたカーバンクルが起きて凛の事を待っていた様だ。
カーバンクルは凛の元へ駆け寄って、自分にも名前を付けて欲しいと頼む。
凛は少し考えた後にカーバンクルの髪色から『シエル』と名付けると、シエルは名付けの影響でその場で眠ってしまう。
そしてシエルは夕食を摂り始めた頃に目が覚めた事で、凛と菫の2人が菫の部屋で休んでいたシエルを迎えに行く。
シエルは凛達と一緒に階段を降りると、ダイニングに数百人が座って食事をしている事に驚いた。
現在は凛の右側にシエル、左側に菫がそれぞれ手を繋いだ状態となっている。
凛はそう言って肯定したものの、ダイニングが結構一杯一杯になって来ている事で少し複雑な表情となり、菫は万歳をする様な構えをしながらそう叫ぶ。
カリナを筆頭として5人の者達が王国方面や商国方面、それと少し帝国の方で奴隷商へと赴き、性格に問題が無さそうな者達を購入してはその日の内に凛の元へ案内している。
しかし凛は結構な頻度でカリナ達から奴隷の紹介を受けては解放し、配下として各地に分配しているが一向に止む気配が無い。
その為、凛は今いる領地以外に配下を分散させる目的も兼ねて第2、第3の領地を拓こうとしていたりする。
「(一応渚達に頼んで離れた所の森を拓いてはいるけど、今はシエルのお祝いに専念しないとだね。)…シエル、今日の主役は君だよ。皆にシエルの事を紹介するね。」
「…うん、分かった。」
凛はそう考えて頭を左右に振った後、シエルの方を向いてそう言う。
現在渚を含む何名かで、領地から南に20キロ程離れた所の開拓を頼んでいる。
冒険者達が増えてきた事で、領地周辺の魔物が粗方いなくなった為に離れた所迄森の探索に向かう者が増えた。
偶に金級の強さの魔物の群れや、はぐれて領地の近くに迄来た金級上位の魔物がいたりする為、冒険者へのリスクを減らそうとして藍火に間引いて貰っている。
しかし凛は安心して休む場所があった方が良いと思ったのか、拠点を増やそうとして3日程前から森を開拓し始めたと言う流れとなる。
シエルは凛にそう言われて少しの間下を向いていたが、やがて真っ直ぐ正面を見てそう言うのだった。