234話
「んー!冷たーい!けど美味しいわね!」
「そうですわね!まさかこの様な冷たい食べ物があるとは…、全く存じ上げませんでしたわ。ですが、どうして今日から出したのでしょう?」
「驚いただろ?まぁ、凛にも色々あるんだろうよ。(…キュレア達はなんでアイスを食べながら浮かない顔をしてるんだ?)」
「このミルクアイスも美味しいは美味しいんだけどねー…。」
「けど、アルルさん達の牛乳で作ったアイスを食べちゃったら…。」
「甘い物だからか他のに比べて物足りなく感じるっす…。」
「「「はぁ…。」」」
「まあまあ。」
ミルクアイスをパトリシアがスプーンで掬って食べると、最初はその冷たさに驚いていた。
しかし直ぐに嬉しそうな表情で言うと、アイシャは驚いた表情のままでそう言う。
アレックスはにやりと笑いながら2人にそう言うが、キュレア達3人は元気の無い様に見える為か不思議そうな表情で見ていた。
キュレア、リナリー、藍火の3人が溜め息混じりで悲しそうにそう言うと、ステラは苦笑いの表情を浮かべて3人を宥めていた。
「せぇぇぇぇい、やっ!」
「………。ライアン殿。列に並んだ事で他の者達と同様に行わせて貰ってはいるが、何故貴方はここで俺からの手解きを受けているんだ?パトリシア王女殿下の護衛で、凛様の領地にいなければならない筈だが…。」
「…凛君の領地にいると、マリア君に追い掛け回されるんだよ。僕だって勿論本来の目的である護衛の任務をやりたいに決まっているじゃないか。だけどパトリシア王女殿下はアレックス皇子殿下の傍に大体いるし、凛君の配下のステラ君達が護衛として付いてるからね。僕も最初は護衛に付いてたんだけど、マリア君は護衛対象である筈のアレックス皇子殿下では無く、何故か僕の横に付くんだ。それからはマリア君から逃げ回る日々さ…。」
「そうか…。」
その頃、サルーンの運動場では何故か暁とライアンが手合わせをしていた。
ライアンは周囲の視線を浴びながらも暁が指南している列に普通に並び、開始してから既に5分程手合わせを行っている。
それ迄の間、ひたすらライアンが攻めて暁が防ぐと言うやり取りを行って周りの視線を集めていた。
ライアンは声を上げながら練習用の細剣による高速の突きを連続で放った後、そう叫んで力を溜めた突きを放つ。
暁は無言でその悉くを木で出来た大太刀を使って躱した後、ライアンへ向けて呆れ顔で尋ねる。
ライアンは疲れた表情で答えると、暁は複雑な表情でそう言う。
「…それなら折角手合わせをしているのだし、周りで見てる人達の模範にならないとだ、なっ!」
「ちょ!暁君!いきなり速くて重い攻撃を連続で行わないでくれたまえ!!いくら僕でも、このままだと直ぐに雫君達の治療の世話になってしまいそうだよ!」
「ライアンへはポーションをかけるだけで治療を行わないつもり。ライアン、がんば。」
「嘘ぉ!?…ぁ痛ーっ!!」
「…いきなり余所見をするからだ。ライアン殿よ、続けて行くぞ?」
「お、お手柔らかに頼むよ…?」
「善処しよう。」
「それ、絶対に手加減しないやつだよね!?」
「さて、何の事か分からないな。」
暁は笑顔でそう言った後、今度は反対にライアンへ向けて連続で攻撃を仕掛ける。
暁の攻撃は速い上に重い為か、ライアンはこのままだと捌き切れないと判断した様だ。
暁からの攻撃を受けながらじわじわと後方へ下がり、少したじたじになって答える。
しかし後方にいる雫がそう言った事で、ライアンは驚いた表情で雫の方を向いてしまう。
そこへ暁がライアンの脳天に一撃を与えた事で、ライアンは痛さの余りにそう言ってしゃがんでしまう。
暁は大太刀を右肩にとんとんと乗せながら呆れた様子で言った後、再び武器を構えながらそう言う。
ライアンは涙目の状態で顔を上げて暁へ尋ねると、暁は軽く右の口角を上げて答えた為、ライアンは立ち上がり驚いた表情で左手の人差し指で暁を指差しながら叫ぶ。
暁は肩を竦めて答え、それを合図に先程よりも激しい手合わせが始まる。
「ライアン様ぁん、漸く見付けたわぁん!んもぅ!凛様の領地からいなくなるなんて酷いじゃない!」
「…!はぁっ、はぁっ、ま、マリア、君…!か、勘弁して…。」
「あらあら…ライアン様ったら、訓練を頑張り過ぎて疲れちゃったのねぇん。疲れている時は甘い物が1番!…さぁ、スイーツ店へと向かうわよぉぉぉん!!」
「た、助けてくれぇーーー!!」
更にそれから10分程手合わせを行った結果、暁はギリギリを見計らって攻め続けた事によりライアンは疲労困憊となる。
ライアンはギブアップした後に運動場の横で休み始めてるのだが、1分程経った頃にマリアがそう言いながらドドドド…と音を立て、アスリート走りで凛の領地の方角からやって来た。
ライアンはそれに驚いて逃げようとするが、まだ全然回復していないからか上手く立ち上がれず、その場にへたり込んでしまう。
その隙にマリアが直ぐ隣で止まった為、ライアンは恐ろしい物でも見たかの様な表情でマリアへそう頼んだ。
マリアは慈しむ様な表情(本人はそう思っている)で言った後、そう叫んでからライアンを自身の右肩に乗せて領地の方へと走り始める。
マリアは純粋にライアンは暁の手合わせで疲れたと感じ、デートも兼ねる事が出来ると喜んでいる様だ。
ライアンはそう言いながらもがくが、マリアにがっちり掴まれている為か抜け出せずに遠ざかって行く。
『………。』
「…ふふっ。」
「…やっぱり雫ちゃんだったんだね。」
ライアンの奮闘(?)により運動場全体が盛り上がっていたのだが、今のやり取りで暁を含めた周りの者達はその光景に呆然としていた。
ステラにライアンがサルーンの運動場にいる事を念話で伝えた雫は、パイプ椅子の様な物に座ったままこっそり今の状況を楽しんでいた。
その隣に立っている美羽だけは周りの様に呆然とせず、雫を見て苦笑いを浮かべているのだった。